正反対だけどね。

すあま

第1話

「はい、瀬戸希望せときぼうさんね、172センチよ」

養護教諭の優しい声が保健室に響くと、座って待機していたクラスメイトの女の子たちから声が上がった。

「やっぱり希望大きいんだね、すごい」

「瀬戸さん足長いな」

色々な声に背中がむずがゆくなり、黙って身長計から降りて上靴に足を突っ込んで床に座る。また伸びていた身長が少しでも低く見えるよういつの間にかなっていた猫背はなかなか治らない。またサイズの合わない靴や洋服が増えそうで、想像しただけで思わずため息が出る。

前に座っていた坂戸桃華さかどももかがため息に気づいて振り返る。名前の順が前後という縁から仲良くなった。ちなみにボランティア部という部活も一緒だ。

「伸びたの気にしてるの?スタイルよくて羨ましいのに」

平均身長より少し小柄な桃華は私の身長をよくほめてくれる。ありがたいんだけど、私はこの身長でろくでもない目によく合ってきた。女の子扱いなんて今まで生きてきてされたことないし、子供な男子からは電柱だのトーテムポールだのさんざんなあだ名はつけられるし、それに…。

「身長差あるほうが可愛いじゃん」

私のつぶやきを桃華は見逃さなかった。

「それってさ、本山もとやまのこと?」

桃華の口から発せられた名前に顔が熱くなる。鏡は近くにないけれど、あったらきっと真っ赤になっている私の顔が映るだろう。

何か答えようとしていると、私たちのグループの身体測定がちょうど終わった。各々自身の結果を持ち、保健室を出てジャージから制服に着替えるために更衣室に移動する。廊下に出てから隣を歩く桃華にさっきの話の続きをしようと再び口を開いたところで後ろから呼びとめられた。

「瀬戸!」

振り返らないでもわかる。私の意中の相手、本山葵もとやまあおいだ。はやる心を抑えながら桃華と共に振り返る。

「今日の部会何すんの?」

私の方を見て本山が聞いてくる。視界に入って話しかけられている、それだけで全身が心臓になったみたいだ。

「わかんないよ、部長の桃華に聞いたら?」

緊張のあまり素っ気ない態度になってしまい1人落ち込む。素直に桃華に聞いている姿を横目で見ながら1人自己嫌悪していると、桃華がニヤニヤと楽しそうな顔で私にとって爆弾を仕掛けてきた。

「ねえ、なんで部長の私じゃなくて希望に聞いたの?」

ドキリとする質問に感じたのは私だっただけのようで、本山はあっけからんと答えた。

「広が瀬戸に聞けって言ったから」

本山の後ろから山田広やまだひろが苦笑しながら顔を出す。

友達に言われたからそうしただけか、と少し期待した私はガックリきたけど、本山の次の言葉で簡単に嬉しくなることになる。

「あと、瀬戸はいつも真面目に活動してるからと思って」

真面目にやってて良かった。本山と広と別れ、話せた喜びを噛み締めながら、にやける顔を隠すように更衣室に入った。




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