モンスターを狩るアイビー

 そう言って外の様子を見る偵察用の小窓を見る。すぐにドオン、という音と地鳴りが響く。どうやら森でモンスターが暴れているようだが何か様子がおかしい。


「気配が二つ。片方はアイビーだ」


 それだけ言うとスノウは黙り込む。モンスターの耳がどれほど良いのかわからない以上迂闊に会話をするわけにはいかない。やがて遠くに見える森から一つの影のようなものが飛び出してきた。おそらく毛が真っ黒なモンスターだ。しかしそのすぐ後に森から縄のような、蔦のようなものがうねりながら飛び出してくる。

 鞭のようにしなるとそれは逃げたモンスターに巻き付きあっという間にモンスターを真っ二つにしてしまった。長く伸びたそれは凄まじい速度で森の方へと戻っていった。蔦のようなそれの大元は森の中から伸びていたので蔦の形をしたモンスターというわけではない。

 スノウが険しい雰囲気でしばらくそれを見つめ続け、やがてゆっくりと立ち上がった。


「気配が消えた、もう大丈夫だ」

「あの触手のようなものを出していたのがアイビーってことですか。前はあんなものありませんでしたけど」


 出しているところを見なかっただけなのかもしれないが、あんなものまであったというのか。しかも伸びた長さは尋常ではない。遠くから見てあれだけ伸びたのだ、実際は数十メートルあっただろう。

 二人は警戒しながら小屋を出て殺されたモンスターの元へと走った。近づいてみればそれはかなり大きなモンスターだ、熊よりも一回りは大きい。それが腹から真っ二つに切断されている。切断面は鋭利な刃物で一刀両断されたかのようだ。つまりあの触手のようなもの、力業で千切ったのではない。触れると切れるのだ。


「モンスターがモンスターを襲っているなんて初めて見ました」

「俺もだ」

 一般的にはモンスター同士は争わないという認識だ。例えばその場にモンスターが何種類かいたとしてもモンスター同士で争う事はせず真っすぐ人間に襲い掛かって来る。そのためモンスターが複数いるときはかなり面倒なことになるのだ。森に入ってもモンスターの死骸は刃物で切られたり魔法によって激しい損傷を受けた姿である。人間が戦ったあとだ。モンスター同士が争ったような、例えば爪の跡や噛み付いた跡などの死骸はないので、どうやらモンスターたちはお互いをあまり認識していないか敵とも味方とも見ていないのだろうというのが定説だ。

 それがアイビーはモンスターに襲いかかった、このモンスターも戦おうとはせずに逃げていた。養成所や世間の人間が話している内容など本当に役に立たないなと思った瞬間だ。新しい常識、知らなかった事実がどんどん浮き彫りになってくる。


「殺された二人がどうして森にいたのかわかりましたね。おそらくあれで絡めとられて引っ張りこまれたのでしょう」


 このモンスターは真っ二つになってしまったがあの二人は巻き取られて連れ込まれたのだ。あの触手は相手によって力の加減ができるということもわかった。


「少なくともアイビー討伐が続いてるって話は聞いてねえな」


 リズにも聞いたがこれといった返事はない。突っつくな、ということだろう。逆に自分達にも特に制限や釘を刺されることもなかった。討伐する、いや戦わせる予定があるのかないのか、放置されているのか。

 具体的な有効攻撃がないので、アイビーについては全力で逃げることにしている。倍の力で跳ね返される相手をどう討伐できるのか目処がたっていない。最初に討伐を命じられていたあの討伐隊も主人は魔法が使えた。魔法を跳ね返し剣などの直接攻撃をも跳ね返す。


「今から言う事バカにすんなよ」

「僕は主人の考えや言葉を馬鹿にしたこと一度もありませんよ」

「馬鹿にする一歩ギリギリ手前の事はいつもよく言うだろうが」

「そうかもしれませんけど馬鹿にする意図はないです、事実として馬鹿みたいだなって事は多数ありました。話が進まないのでここまでにします、なんですか」


 まだ何か言いたそうにしていたスノウだったが確かにここで問答をしている場合ではない。


「そもそも、なんでアイビーには攻撃が効かないんだ」

「そういう特殊能力なんじゃないですか。モンスターにはよくわからない力がありますし」

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