第四章 自然の摂理 4.天変地異 再び --15年経過--

 そんな生活をのんびりと楽しんでいたら、関東大震災?に続いてまたまた天変地異が起きた。

 最初はただの地震だと思った。でも、地震が頻発する。大地震の余震かな、と思っていたら空が真っ暗になって雷も鳴った。嵐が来たのかと思ったが雨は降らない。代わりに灰が降ってきた。


「火山の噴火だ!」


 家にしているホームセンターの屋根が心配になったので、近くの小学校に避難した。メンテナンスをしていないとはいえ、鉄筋コンクリート製だ。火砕流とか溶岩とかガスが来たらどうにもならないが、目下の危機である火山弾は避けられると思ったからだ。それもサイズによるがな。


 学校は今まで避けていた。意識を失う災害が平日の昼頃だったからな。学校がどうなっているかは想像に難しくない。被災者さんには慣れたが、幼い子供の集団となると…… 俺もそれほど冷たい人間ではないのだ。

 だが、背に腹は代えられない。少しでも安全と思われる場所に行かなきゃ。

 寝袋とかアウトドア用品と日用品、食料、水、暇つぶしのアレコレを台車に積んだ。多少は怪我防止になるかと思い、ホームセンターにあったオートバイ用のプロテクター付きウェアとヘルメットを装着。工業用の防塵マスクとゴーグルも装着。予備も持って行った。


 台車を押して10分も歩けば、すぐ近くの小学校に到着。幸い、1階は特別教室だけで、先生も生徒さんもいなかった。用務員室があったが無人だった。用務員さんって廃止になったんだっけ?

 なんて慎重に調べていたが、気が付いた。机とか、備品が妙に少ないな。

 恐る恐る上の階も見てみた。職員室も…… 廃校だった。生徒さんどころか、被災者は1人もいなかった。ほっと一安心。


 さて、それにしてもどこの山が噴火したのかさっぱり解らない。火山弾の飛んでくる方角から考えて箱根山とかだろうとは思ったが、当てずっぽうに避難するのも危険だ。

 何しろジオパーク伊豆だ。伊東の方には20以上火山がある。伊豆大島との間の海底にもたくさん海底火山がある。日本の火山の数は111だが、ここの多数の火山は「伊豆東部火山群」っていう名前で1個としてカウントされているんだ! なんて乱暴なんだ、日本の火山学は!

 まあ、方角的に伊豆東部火山群のどれかではなさそうだが、実はすぐ近くに新しい火山ができました、なんてことになっているかもしれない。もっとよく観察して考えてから行動しようと思った。


 火山弾は怖かったが、最初の頃にだけだった。それよりも時折火山灰が降ってくる。こいつは結構やっかいだった。すごく邪魔だし、調べたところによると、目に入ると角膜に傷が付き、肺に入ると肺炎を起こしたり、将来肺ガンになる可能性もあるという。外に出るときはゴーグルとマスクは絶対に付ける。

 火山灰は雨が降るとドロドロになって土石流になる。巻き込まれたら絶対に助からない。逆に乾くと風に舞って目や鼻に入りそうだ。学校の中にも入り込んでくる。掃除が大変だ。ホントに嫌な奴だ。

 食料は噴火がおとなしい時に調達した。ヘルメット、プロテクタ付きウェアで防弾し、ゴーグルとマスクで火山灰を防いだ。火山灰がちょっとでも積もると自転車も押せない。リュックを背負って徒歩での調達だ。


 噴火が終息したか、あるいはちょっと休止しているのか解らないが、火山弾が止んで空も普通になった頃、海を見に行ってみた。海には軽石がたくさん浮いていた。魚も逃げちまったかな。




 噴火は1年続いた。その間、噴火しっぱなしと言うわけではなく、強弱があった。

 終わってみれば被害はたいしたことなかった。火山灰はうっすら程度。火山弾もちょっと目撃した程度。住んでいたホームセンターも、被害は雨樋と排水路のつまりぐらいだ。避難する必要もなかったな。結果論だが。

 だが、少ないとは言え火山灰はやっかいだ。まだしばらくは防塵タイプのゴーグルとマスクは手放せない。


 地震が治まって火山灰が降らなくなって、1ヶ月。どこの山が噴火したのか気になった。


 ちょっと遠征してみた。徒歩で県道を使って山を登った。景勝地で有名な十国峠展望台まで行ってみたんだ。

 舗装されていた道路には落ち葉が厚く積もって、その上に生えていた草や木に火山灰がうっすっら。道の判別は錆びたガードレールだけが頼りだ。

 履き慣れたトレッキングシューズにトレッキングポールで頑張ったよ。水はあっちこっちで湧いているからアウトドア用の浄水器で火山灰取って飲んだ。

 携行食は20年前のバランス栄養食だ。クッカーに入れて砕いて水を入れて煮沸してから飲む。山の中では補給ができないから、軽いものをたくさん持って行ったんだ。


 なんとか展望台に到着。見晴らしの良いところで周囲を見渡したら、噴火した山がすぐに解った。富士山だった。

 何しろ、そこにあるべきものがないんだ。あの美しい山がなくなっていた。よく見るとちょっと海側の愛鷹山は残ってる。その右隣、内陸側に低い山がいくつかあるように見える。

 富士山の山体が崩壊したんだろう。カルデラができているかも知れん。

 ここから見える市街は沼津か? 溶岩で埋まったみたいだ。愛宕山が溶岩を防いでくれて助かったところもありそうだ。御殿場と裾野市は手前の山の陰になっていて見えないが、おそらく溶岩の通り道になっただろう。三島の街も山が邪魔でよく見えない。もっと多くの富士宮と富士市も埋まっているかも知れないな。

 静岡県東部というか、駿河は壊滅状態だろう。山梨の方はここからでは解らん。被害者が0--たぶん--なのは不幸中の幸いか。


 風向きの関係で伊豆にも少し来たんだろうけど、過去の例で言うと、火山灰の多くは東京の方に飛んでいったはずだ。

 多摩にもそれなりに積もっただろうな。移住していなかったら、もっと苦労しただろうな。


 関東大震災に、富士山噴火、このパターンだと遠からず東海・東南海地震も起きそうだ。

 暇つぶしに読んだ本から得た知識を元に考えると、5代将軍綱吉のころの災害の逆パターンではないだろうかと思う。あのときは西から順番に発生したそうだ。今回は東からなんじゃないかなと。


 東海地震が発生すると浜岡原発が心配だ。意識を失う被災時に稼働はしていなかったと思うが、巨大地震に大津波が押し寄せれば施設が破壊されて、機材に残っている放射性物質が放出されるかもしれない。

 停止から20年、いや、被災前から停止していたからもっと経っているか。放射線レベルは下がったとしても安心はできないな。方角的に風に流されてきそうな気もする。またどこかに移住した方が良いだろうか……




 1ヶ月後。生活を立て直すために、小田原まで物資調達の遠征をした。驚いたよ。酒匂川沿いに溶岩が来ていた。御殿場からニーヨンロクとか東名高速道路を登ってきたんだろうか?

 小田原市街の北側3分の1ぐらいが溶岩で埋まっていた。平地に達した溶岩が、横に広がって、表面積が増えて、冷えて固まった感じかな。冷えたと言っても、近寄るとまだ熱気が感じられた。怖かったよ。

 溶岩が原因と思える火災跡が広く広がっていた。小田原市街の北半分は焼失してた。被害の範囲がハザードマップを超えている。やっぱり自然は恐ろしい。特に富士山は格が違うな。

 幸い、溶岩は市外南部には達していないから、俺が貯蔵して置いた物品は半分以上無事だった。熱海よりも火山灰は多かったが物資の運搬は可能だ。この物資を使って生活を立て直すぞ。

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