シルバーバレット/リザレクション
大町 慧
Ruant coeli
平成21年6月26日 午後1時00分
『番組の途中ですが、これより緊急放送をお送りします。テレビの近くにいる方は、できるだけ多くの方に声をかけ、放送をご覧になるよう、ご協力をお願いします。これから、緊急放送をお送りします。テレビの近くにいる方は、いまテレビをご覧になっていない、周りのかたに声をかけ、一緒に放送をご覧になるようご協力をお願いします』
その日、平日昼のバラエティ番組を遮って、全チャンネルが緊急放送を始めた。
『先程、政府は緊急会見を行い、IAU――国際天文学連盟と各国政府との協議の結果、地球への小惑星落下の可能性が高まったと判断した、と発表しました』
複数の機関による観測で、小惑星のひとつが『トリノスケール5』――衝突確率10パーセント以上、広域の破壊をもたらす恐れ――と判定された、というのだ。その名は『2006 FE8 イサカ』。直径およそ700メートル。極端に
曰く『人類の存続に関わる規模ではない』、『落下の可能性が高まったが、しかしまだ確実ではない』、『今後の観測によっては、トリノスケールはより低く修正される可能性もありうる』。地球への最接近日時は、日本時間平成22年1月30日正午ごろとされた。
わずか7ヶ月後に迫った小惑星の襲来に備え、『隕石落下時の備え』『落下時の爆発に耐えるための姿勢』といった内容が周知される一方、政府発表など信用できないとする民衆によるデモや暴動などが世界中で相次いだ。
天文学者たち――IAU関係者だけでなく、アマチュアも含めた世界各地のスペースガード財団協力者――は、より厳密な『イサカ』の軌道要素を観測し、地球への落下確率はより下がることを発表した。もっとも可能性の高い軌道は、静止衛星軌道の内側に入り込むものの、かろうじて衝突は回避されるというものだった。これにより、脅威度は『トリノスケール4』――衝突確率1%――まで引き下げられた。
かくして、平成22年1月30日。『イサカ』は予測軌道を南北にわたっていった。最接近は上空1万6000キロメートル。――ここまでは予測通りだった。
――一部の天文学者は指摘していたことだったが、『イサカ』は
――平成23年3月11日午後2時46分。
鉄槌は下った。
破片のうち、最大級の一群が、三陸沖をはじめとする西太平洋の日本近海に次々と落下。マグニチュード9相当の地震と、20メートル級の津波を引き起こし、日本の太平洋岸を飲み込み、なぎ払っていった。
悲劇は終わらなかった。
平成31年4月1日から5月27日にかけて、新たな一群が、旧首都・東京から関西にかけての広い範囲を蹂躙するように落下。いくつもの市街地を消し飛ばし、この世の地獄が顕現した。生き残った者は、一部のごく幸運だった者を除き、かつてあれほど“無意味”と喧伝された『隕石落下時の備え』『落下時の爆発に耐えるための姿勢』に従った者だった。
被害は物理的なものに留まらなかった。東京に一極集中していた行政機能は完全に麻痺、若年層の海外脱出により少子高齢化と労働人口の減少は一層進行した。
これに対し政府は、道州制および市警察制度導入による地方分権化の推進と、移民の積極的受け入れをもって対処。平成32年4月1日に「道州制基本法」・「新自治体警察法」が施行され、東北の地においては、「南東北州 仙台市」「仙台市警察」が発足する。
異なる文化圏からの移民との文化の衝突によって、治安は悪化の一途を辿った。
しかし、天墜ちたのちに残されたのは、ともあれ、生者の世界だったのである。
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