第20話 エルフちゃんが仲間になりました

「あれからリリーちゃん来ないねー。日焼け止めクリームどうだったかなー」


 陽葵ひまりはレジスターの前の椅子に腰かけながら、ぼんやりと呟く。リリーと出会ってから3日が経過したが、あれ以降音沙汰なしだった。


 商品化に向けて感想を聞きたかったのだけど、こればっかりはどうしようもない。リリーの住み家を知らない以上、待っていることしかできなかった。


「おい、ヒマリ。レジの勘定は終わったのか?」

「あー、まだ! ごめんね、すぐやるね!」


 看板をクローズにひっくり返した店の中で、陽葵はお金の勘定を再開する。いち、にー、さん、と銀貨を数えていた時、チリンチリンと入り口の鈴が鳴った。顔を上げると、リリーがひょっこり扉から顔を出した。


「お……お邪魔します……」

「リリーちゃん!」


 陽葵はお金の勘定を中断して、リリーのもとに駆け寄る。目の前までやって来ると、りんごのような甘くてフルーティーな香りが漂ってきた。そこでリリーが両手一杯にカモミールを抱えていることに気付く。


「どうしたの? そのお花」

「これは……先日のお礼で……」


 リリーは恥ずかしそうに頬を赤らめながら花を差し出す。


「先日はありがとうございました。使い始めてから肌のピリピリが収まったように思えます。日焼け止めクリームのおかげですね」


 その言葉を聞いて、陽葵はパアアアと表情を輝かせる。


「本当!? お役に立てて良かった」


 役に立てたことを知って、陽葵の心は弾んだ。人から直接ありがとうと言われるのは、やっぱり嬉しい。陽葵は差し出されたカモミールを受け取った。


「お花もありがとう! これ、化粧品の原料に使えそうだから欲しかったんだ。こんなにたくさんもらっちゃっていいの?」

「ええ……この森にはカーミルの群生地があるので」

「じゃあ、大量に入手できるってこと?」

「ええ、そうですね」


 カモミールが安定して入手できると知れたのは大きな収穫だ。原料を安定して入手できるなら、化粧品原料としても使える。


「ありがとう、リリーちゃん。これで化粧品開発が一歩前進できそうだよ。リリーちゃんは植物博士だね」

「植物博士は大袈裟ですよ……」


 リリーは頬を赤らめながら謙遜するように両手を振る。その姿を見て、陽葵はハッとひらめいた。


「植物に詳しいリリーちゃんが、お店の一員になってくれたら……!」


 陽葵はこの世界の植物には詳しくない。その欠点もリリーなら補える。なんてったて、リリーは森に生息している植物の種類と効能を全て把握しているのだから。


 陽葵はすぐさまリリーに詰め寄る。


「リリーちゃん! 良かったら私達と一緒にコスメ工房で働かない? リリーちゃんをうちの植物博士に任命します! ううん、それだけじゃなくて、売り子として働いてくれないかな? 化粧品に含まれる植物エキスの効能をお客さんに伝えてほしいの!」


 リリーの肩を掴みながら一気に撒くし立てる。猛烈な勧誘を受けたリリーは、目を白黒させながら驚いていた。


「私が……このお店で働く?」

「うん! お給料はティナちゃんと相談して決めてくれればいいから。ねっ、ティナちゃん」


 ティナに同意を求めると、特に反論されることもなく素直に頷いた。


「うちで雇うのは構わない。人手が足りなくて困っていたからな。もちろん給与も支払う。ヒマリのようにタダ働きさせるわけにもいかないからな」


 どんどん話が進んで行くのを見て、リリーはさらに動揺する。


「で……ですが、私人見知りなので、知らない人に物を勧めるなんてできるかどうか……」


「無理に売ろうって考えなくてもいいよ! いまは待っているだけでお客さんが来てくれる状態だから」


「そ、そう言われましても……」


 リリーはうろうろと視線を巡らせながら戸惑いの色を浮かべていた。そこに後押しするように陽葵は言葉を続ける。


「リリーちゃんの植物の知識は、きっとみんなの役に立つ。私だってリリーちゃんに助けられたんだもん。自信を持って」


 狼狽えるリリーの瞳を真っすぐ捉えながら告げる。出まかせで言っているわけではない。リリーは初対面の陽葵にも、植物の効能や花言葉をすらすらと説明してくれた。そのスキルは、お客さん相手でも十分発揮できるはずだ。


「私でも……誰かの役に立てる……」


 リリーは小さな声で呟く。エメラルドグリーンの瞳にほんの少しだけ光が宿ったのを陽葵は見逃さなかった。


 陽葵の言葉をゆっくりと咀嚼するように考え込む。引き受けるべきか、考えているように見えた。


 しばらく沈黙が続いた後、リリーはおずおずと口を開いた。


「3日に1回程度でしたら、お手伝いできるかと思います」


 リリーの返事を聞いた瞬間、陽葵も目を輝かせた。


「週2~3回のシフトってことだよね! それでも十分助かるよ」

「シフトって……何でしょう?」


 聞きなれない言葉を聞いてリリーは首をかしげる。


「お仕事をする日のことだよ! とりあえずリリーちゃんは3日に1度くらいのペースでお店に来てくれればいいから」

「そういうことでしたら……構いませんよ」

「ありがとう!」


 交渉成立だ。陽葵は満面の笑みを浮かべながら、リリーに手を差し伸べた。


「これからよろしくね、リリーちゃん」


 こうしてティナとヒマリのコスメ工房に、植物に詳しいエルフのリリーが加わることになった。


◇◇◇


あけましておめでとうございます! 本年もどうぞよろしくお願いいたします!


「続きが気になる」「リリーちゃん可愛い」と思っていただけたら、★で応援いただけると嬉しいです!

次回は新キャラが登場します。お楽しみに!


作品URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330668383101409

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る