第8話 部活説明会
4限までの授業が終わって5限に行われる部活動説明会を聞くために体育館に移動し始めた
「なあ相楽、お前は何部に入ろうと思ってる?」
「とりあえず体育会系の部活に入ろうかなって思ってる。美術部も気になってたんだけど、俺手先が器用じゃないから文化部には向いてなくて… 」
(美術部に入りたいと思っていたのは意外だ。見た目が体育会系だから迷わずにバスケとかサッカーとか言うと思ったが、どうやらそれはただの偏見だったようだ)
「(返す言葉に迷ったが)お前が高校デビューで金髪にしたみたいに部活も新しいことに挑戦してみても良いんじゃないか?高校生活は一度きりだしな」
「なんだよその理屈って思ったけど、一理あるかもなw」
「んでお前は何部入ろうと思ってるん?」
「俺は…」
(やばい、どうしよう。今の俺の心境を説明するには時間がかかりすぎるっていうか、相楽を困惑させるだろうし… 同調することは簡単だけど、せっかくできた友達に嘘をつきたくないし。いや、彼のことだから嘘をついたらすぐに見抜かれるだろう)
「正直まだ決まってないんだよね」
「まあそれもそうだよな。俺含めてまだはっきり決めてない人に向けて開いてんだからしっかり話聞いて決めようぜ」
「うん」
短い会話だったが、彼に気を使わせてしまった感じがして申し訳ない。しつこく聞いてこないのも彼の優しさであり、最初に出来た友達が相楽で本当に良かったと思ってる
硬い体育館の床ではなく、パイプ椅子に座って待っていると突然体育館の電気が消え、ざわつく周囲を余所にまるでこれから有名人のトークショーが始まるかのように、BGMと共にステージの
(かっこいいけど、この演出やる必要あんのか。まあ、こういう遊び心は嫌いではないが)
照明がつくと生徒会長から軽く挨拶があり、部活動説明が始まった
「それでは水泳部の方、お願いします」
(そういや学校の垂れ幕に水泳部全国出場だか優勝だか書いてあった気がするけど、どっちだっけ。まあ強いのは間違いなさそうだな)
すると競泳水着を着た男子水泳部の部長が立ち上がった
声を聴かずとも身体から威厳が伝わってくる…きっと会場内の誰もがその肉体に目を奪われただろう。
誰もが信頼を置ける屈強で広い肩、上腕二頭筋の綺麗な力こぶに、バキバキのシックスパック、そして細くも筋肉質な脚
背中は見えないが前だけ見れば、背中の筋肉も凄いことになっているくらい想像がつく。幾度もの辛いトレーニングを重ね、歴戦を勝ち抜いてきたことはその肉体が物語っている。
その身体から発せられるオーラを感じ取って、体育館なのにそんな恰好をして寒くないの?と野暮なことを言う人間はいないだろう
黒いキャップに青色のゴーグルをつけて膝の上まで伸びたハーフスパッツを履いた、試合本番さながらの格好をした水泳部の部長がマイクの前に立った
「覚悟のある者だけ来い」
そう一言いって自席へと戻っていった。普通だと、部長の○○です。部員が何名で関東大会目指して頑張ってますとかそんな感じだと思うが、この人を型に当てはめるのは間違っているので一言だけで充分理解できた
この会場の中にその覚悟を持ち合わせた新入生はどれだけいるのだろうか。少なくとも自分はパスだ
「ありがとうございました。次はサッカー部の方、お願いします」
新入生がざわつく中、生徒会長は慣れた感じで次へと進めていった。このようなバケモノを見るのは日常茶飯事なのだろうか。部活動説明会がますます楽しみになってきた
続く部活動紹介も水泳部ほどの迫力はなかったものの、曲者ばかりで勧誘することを第一の目的としていないのか、半分お笑い大会になっていた。というのも入部が強制でないにも関わらず、臨海東高校の入部率は95%であり、みんなどこかしらに入ってくれると信じているからなのだろう
パイプ椅子といえど、2時間も座っているとけつが痛くなってきて残りの部活動紹介がいくつあるのか手元のタイムスケジュールの紙を見て確認すると、アニメラノベ美少女同好会という、二郎系ラーメンで例えるとニンニク油野菜マシマシみたいな名前をしたオタク向けの同好会とトライアスロン部という珍しい部活が残っていた
「それでは、アニメラノベ美少女同好会の方、お願いします」
真顔で至極当然のようにその同好会の名前をいうから吹き出しそうになってしまった。堪えきれず笑っている人もちらほらいる
「拙者は伊達裕次郎でござる。諸君はアニメが好きか??ラノベが好きか??二次元の美少女が好きかーーーーー?????」
「(シーーーーーーン)」
ここで黙るのも無理ない。オタク文化が一般的に浸透してきたとはいえ、公共の場で見せびらかすように自分のオタクっぷりを主張するにはまだ抵抗が多いのだ。陽キャ的なのりで○○たそ好きだーーーなどと叫べる日はおそらく来ない。悲しきかな
「こほんっ…戯言は置いといて、アニメラノベ美少女同好会とは各々がイラストを描いたり、漫画やラノベを読んだり、会室のパソコンでアニメを見たりして自由に活動している同好会でござる。創作じゃなくて単にオタク友達が作りたいといった理由で入ってもらっても全然OKだ、大歓迎じゃ。同好会だから他の部活と兼ねても構わん。アニメ好きだけど、見てるアニメが少ないから会話に交じれるのか不安がってるそこの君、安心したまえ。この同好会には知識量などでオタクマウントを取る奴なんていないし、そういう君には我々のオススメアニメを布教して立派なオタクにしてやるぜ。」
(めちゃくちゃ優しい人じゃん。不覚にもちょっと入ってみたくなった)
「そして今、居たたまれない表情をして下を向いているそこの君…」
図星だったのか、何人かが背中をビクンッとさせるのが見えた。おいおい、動揺しすぎだろ
「俺も中学生の頃は君たちと同じだった…放課後真っすぐ家に帰ってラブコメ作品を見ることだけが俺の青春だったんだ。笑って泣いて虚無感を感じてまた次のラブコメを見るループの中で俺は確かに楽しんでいたが、やはりオタク同士で語り合うこともまた楽しさであり、俺には足りていなかった。だが去年ここに入学してこの同好会を見つけてから俺の学生生活は劇的に変わった。我と趣向を同じくする者にこんなにも出会えたこと、昼飯や休日のアニメイベントに一緒に行く親友が出来たこと、そして今大勢の前で話せるほどに自信をつけられたこと、全ては今まで見てきた数多のラブコメと俺の仲間が教えてくれたんだ。彼女を作ることやディ〇ニーに行くことだけが青春ではない。無理に着飾ろうとしなくていい。桃色の青春があったって間違いじゃないんだ。さあ、俺と一緒に青春をオタ活に捧げてみないか?」
おおよそ普通の生徒に聞かせても理解できない内容だったはずだが、体育館では今日一番の拍手が鳴り響いていた。
我ながら良い高校に入ったと思う。偏差値が高いだけあって人間力の高い生徒が多いんだなと実感した
「最後にトライアスロン部の方、お願いします」
「はっはい!」
眼鏡をかけていて、少しぽっちゃりした男子生徒が小走りでマイクの前へと移動していった。
「皆さんこんにちは、トライアスロン部の2年部長、伊藤純平と申します。」
(3年生は一人もいないのだろうか。まあ、泳いで漕いで走るっていう陸上の長距離走よりも過酷なスポーツをやる人なんて相当なもの好きだからいなくてもおかしくはないか)
「現在の活動部員は2年4人でそのうちマネージャーが1人いて男子と女子は半々です。正直トライアスロンってどうしてもキツいイメージがあると思うんですけど、完走した後の達成感が本当に凄いんですよ。確かに競技は辛くて心拍数を見ると200を超えてるとか日常茶飯事なんですが、やりがいだけは絶対に保障するのでどうか一人でも入ってくれたらありがたいです」
あっさりだが緊迫感の伝わるスピーチだった。この本気度を見る限り、5人以上集まらないとおそらく廃部になってしまうのだろう。可哀そうだが、誰かが入部することを願うしかない…
アニメラノベ美少女同好会に少し興味を持っただけで結局ほとんど何も決まらなかった。とりあえずこの後、同好会で上映会があるらしいから時間つぶしに行くか
教室に戻ろうと席を立つと隣に座ってた相楽が話しかけてきた
「お疲れ!癖の強い部長ばっかで結構面白かったなw でさ俺さっそく入る部活決めたんだけど、トライアスロン部にするわ」
「んん??」
相楽の予想外の入部希望に目を丸くした
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