旅・映画・本

@sansyang

長崎

 僕が初めて長崎を訪れたのは小学校3、4年生の頃だった。当時は福岡に住んでいたこともあり、グラバー園やハウステンボスに行ったことをうっすらと覚えている。その後、東京に引越したため、次に長崎県を訪れたのは大学4年生の卒業旅行の時になった。

 同級生2人と熊本から、熊本と島原を結ぶフェリーを使い、10年以上ぶり長崎を訪れた。長崎というと原爆や、出島など歴史的な出来事と並び、雲仙・普賢岳の噴火が思い出されるが、フェリーから見る雲仙岳や島原の街並みは、そんな負のイメージを感じさせないほど穏やかな空気を感じさせ、意外に思った。もちろん現在の雲仙・普賢岳は噴火をするような活発な火山ではないことは当然知っていたが、午後の穏やかな日差しを受けてきらめく水平線と、荒々しく急峻な雲仙岳と、その間に作られた街に所狭しと建つ建物が太陽光を反射する風景は、どこにでもある、穏やかな街の風景だったからだ。

 そのあとは島原鉄道に乗り、長崎市へ向かったが、街歩きで感じた島原市の穏やかさと、ローカル電車特有の島原鉄道の緩やかな時間は、噴火による災害という負のイメージを僕のなかから追い出すのに十分だった。それに加え、当時の僕は社会人になる直前で、社会人になる不安がないとは言えなかったし、何かやりたいことがあって社会に出ることにしたわけでもなかった。もっと言うなら、自分の人生がここで決まってしまうことへのためらいのような感情を抱えていた。そんな中、穏やかな島原の街は僕に「立ち止まること」を教えてくれたのかもしれない。白か黒か、右か左か、すぐに答えを出すのではなく、ちょっと立ち止まって、深呼吸をしてみる。その上でまた歩き出すことを自然と示してくれたような気がする。あるいは僕が社会人になり、学生の時以上に旅に出るようになったのは、あの美しい水平線が見える街を再び見つけたかったのかもしれない。

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