第22話 デート?①

 今日は週末の土曜…高峰さんと出かける日である。今現在、俺は昨日急に泊まりに来た勇次に文句を言われている。


「お前…本当に髪いつものそれで行くのか?出かける相手はあの高峰さんだぞ?…全く……お前もちゃんとすりゃあ素材は悪く無いってのに…」


「いやまぁ服はちゃんとするけど…あんまり目立ちたくないし、しかも俺なんかが髪弄った程度でなんにも変わんねーよ」


「そんなことないとは思うが…はぁ………まぁ?高峰さんが隣にいる時点で無駄なことだとは思うけどさ。嫉妬した男どもに刺されねえように気をつけて行って来いよ〜まぁお前なら躱すのなんざ余裕だろうけどな」


 俺の返答を聞いた勇次はそう軽口を叩きつつ「じゃあお前が帰って来るまで待ってるわ」と言ってゲームを再開し始める。


 そして俺は鏡の前に立って見る。

 鏡には当たり前だが、イケてる服に来てもらっているマネキンのようにパッとしない男が映っている。


 だがいつも部屋で着ているようなジャージ姿よりはマシだ。

 そして身支度を終えた俺は、勇次に留守を頼んでから家を出る。現在の時刻は午前9時半ほど…これくらいに出れば高峰さんを待たせる事もないだろう。


 俺はそう思いながら駅へと歩き出した。



「さて…そろそろ着くな」


 あれから数分後、俺はそろそろ駅の周辺に着くところまで来ていた。普段は着けない腕時計で時間を確認すると、長針は9の位置に止まっていた。

 …今思ったが高峰さんと連絡先の交換はおろか、集合場所もろくに決まっていなかった気がする…


(…もしかしたらすっぽかされるかもしれないけど…嫌…もう慣れっこだろそんなの…俺は何に期待してるんだか…相手はあの高峰さんだぞ?俺なんかと違って休日の予定は引く手数多の筈だ。来なくて普通、冗談だったと伝えに来てもらえたら誠実な対応だろう)


 一抹の不安が一瞬頭をよぎるが、そうなって当たり前だと思い直し、少なからず浮かれていた自分を抑える。

 俺はそれから思考を切り替えて、一体どこにいけばいいのかを考えながら取り敢えず駅に近づくと、駅にある柱時計の周辺にちょっとした人だかりが出来ていた。


『おい……あそこに立ってる子めっちゃ可愛くね!?』

『あぁ…すっげえ可愛い…ちょっと声かけて見るか?』

『辞めとけって…さっき話しかけようとしたイケメン達が無表情であの子に一蹴されてたろ…』


『あの子無表情なのにすっごい綺麗……モデルさんとかかな〜?』

『でもあんな可愛い子雑誌で見た事ないよね〜?』


 そう周囲から男女問わず聞こえて来る声…なんだか美白さんの事を思い出すなと思いながら、興味本位で視線を向ける。


(…えっ!?なんで!?俺時間まちがえた?!ってかなんで来て貰えてるんだ(?))


 俺は中央に立っているその女の子を見て驚いた。

 そこには何故か、この後15分ほど俺が待つ筈だった女の子……高峰さんが立っていたからだ。


 そう俺が一人で軽くパニックになっていると、パチッと柱時計の根元に立っていた高峰さんと目が合った。


「…あっ!来た来た♪お〜い!アヤト〜!こっちこっち〜!」


 俺と目が合った高峰さんは、一人無表情で立っていた時とは打って変わってニコッとした笑顔で俺に向かって腕を上げて手招きをしつつ、俺の名前を呼んでいる……


 すると当たり前だが、周囲の視線が一気に俺に向かって飛んで来る。…その後は人それぞれだが、俺を見て好意的な物は一切無い。懐疑的な物や嘲笑混じりの物、殺意が篭った物もある。

 そんな視線を受けながら、どうしたらいいのか分からなくなった俺が固まっていると、高峰さんが俺にふわっと近づいて話しかけて来る。


「どしたの?お〜いアヤト〜?…もしかしてアタシに見惚れちゃったとか?いや〜照れるな〜♪」


「あっ…えっと…うん…その服高峰さんに凄く似合ってる…正直見惚れたかも…」


 普段なら絶対に言えないような言葉が俺の口から正直に漏れるくらいに、俺の目の前にはしっかりとオシャレをした私服姿の高峰さんが立っていた。


 あまり服装には詳しくないが、足が長く見えるデニムの長ズボンに少しヒールの高いベージュの靴、涼しげな白のトップスの上に薄手のトレンチコートを着ていて、耳についているイヤリングが高峰さんのブロンドの髪と合わさって、ファッションの完成形とも言える形に纏まっている。


 …正直めちゃくちゃ可愛くて、今からこの人の隣を歩くのかと思うと周囲の視線も相まって少し胃がキリキリと痛む気がした。…今度から胃薬を常備しておいたほうが良いかもしれない…


「ふぇっ!?……そ、そうなんだ……ふ、ふ〜ん?似合ってるんだ……」


 俺が少し現実逃避をしていて帰って来ると、目の前で高峰さんが少し顔を赤らめて、クルクルと自身のブロンドの髪を指で弄りながら綺麗なその翡翠色の瞳をそっぽに向けていた。


「(…ホントそういう事サラッと言うのも変わってないし……照れさせるつもりだったのに不意打ちのカウンター決めて来るし……)」


 ボソボソと小さな声で何かを言っている高峰さん。…照れさせるつもりだったは聞こえたけど、そのつもりがあったなら大成功ですよ…?


「えっと…高峰さん?大丈夫?」


「…え?だ、大丈夫!!!ほ、ほら速く電車乗っていこっ?」


 さっきと変わって少し焦ったような顔をした高峰さんに俺は腕を取られ、改札へと向かって行く。


 ……心なしか周囲からの視線の刺さり度合いが深くなった気がした

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