【再掲】ゲーム世界から帰還した自己肯定感皆無の拗らせ君。二次元から追いかけて来たヒロイン達に迫られますが、惚れられる様なことをした覚えが全く無いのでとりあえず逃げたいと思います。
ヒロインの心情【卒業式と世界の別れ】side:桃月 茜
ヒロインの心情【卒業式と世界の別れ】side:桃月 茜
「茜〜そろそろ玄関で写真撮りましょう〜下りてらっしゃい!」
「はーい!もうちょっと待って〜!」
そう言ってウチは自分の部屋にある鏡の前で、自分と睨めっこしながら櫛で髪を梳かすのをやめ、いつもと違う色のヘアゴムで髪を縛り、制服に着替えて一階に下りていく。
「お待たせ!お父さんお母さん」
「うんうん!今日の茜はいつもより可愛いわね!ささっみんなで写真撮りましょ!」
「茜?お兄ちゃんもいるんだけど…挨拶…」
「お兄ちゃんもお待たせ」
『うおおおおおお!』と叫んでるお兄ちゃんは無視して、ウチはお母さん達と共に玄関先で写真を撮りにいく。
「ほら並んで!タイマーで撮るわよ〜!」
お母さんがそう言ってカメラのセットをし、家族全員で並んで写真を撮る。
「うん!バッチリ!じゃあ茜、あとでお母さん達もいくから、香織ちゃんたちと行ってきなさい!頑張りなさいよ色々と♪」
「…気をつけて行ってきなさい」
「茜〜お兄ちゃんはもう泣きそうだぞ〜…うおぉぉ…」
「うん!いってきます!」
そう言ってウチはそのまま香織ちゃんと美夜ちゃんの家に行って、三人で学校に向かう。
「今日で卒業ねぇ…なんだか高校生活も一瞬だったけど、案外さみしいと思わないわね」
「だよね〜あーしらはずっと居るからね〜」
「ウチは寂しいよ?香織ちゃんも美夜ちゃんも進路違うし…」
「そんな事ないわよ茜、私たちはずっと近くにいるじゃない」
「そーだよ〜?あーちゃん。あーしらと一生の別れってわけじゃないんだし」
そう言ってくれる二人にウチは感動で涙が出そうになったけど…
「「で?今日草薙(君)に告白するんでしょ?あーちゃん(茜)?」」
「え、えぇ?!な、な、なんで二人が知ってるの?!」
そんなことを急に言われて、ウチはなくどころじゃなくなった。なんでバレてるの…?!
「そりゃ〜企業秘密ってやつよ茜、で?するんでしょ?」
「あーしらのあーちゃんが男に告白か〜!…卒業なんかよりもよっぽど泣けてくるなぁ」
「す、するよ…ウチ、ずっと草薙君に支えて貰ってた分、ウチも草薙君の横に立って支えてあげたいんだもん…!」
二人にはいつ言おうか迷ってたけど、今言えてウチはスッキリとしていた。
「(…思ったよりしっかり考えてるみたいだよ?かおりん)」
「(そ、そうみたいね美夜…なら私たちがする事は…)」
「「(他の男をいつも以上に近づけない事!)」」
ヒソヒソと香織ちゃんと美夜ちゃんが何かを話してるみたいだけど…一体どうしたんだろう?そう思っていると二人が戻ってきた。
「じゃあ茜、まずは告白の前に草薙君とお話しする所から始めなさい?」
「えぇ?!そこから?!」
「そーだよ?あーちゃん急に告白なんて行ったら、緊張でぶっ倒れちゃうかもしれないよ?」
「そんなにウチ信用ないかな?!」
と、そんなことで笑いながらウチらは校舎に入って行った。不思議とウチの中には緊張が無くって、このまま行けばうまく行きそうなそんな気がしていた。
◇
『おい…桃月さんが来たぞ、お前告白するんだろ?』
『そ、そうだけどよ…勇気が…』
『今日もめちゃくちゃ可愛いなぁ…桃月さん…』
『最近男子の前でもよく笑うようになって来たよな、もしかしたら俺にもワンチャン…?!』
『今日も萌えでゴザルなぁ〜茜たん…拙者も最後くらい声をかけて…』
ギロッ!
『『『『『(…サッ)』』』』』
香織ちゃんと美夜ちゃんがさっきからウチの両脇を守るかのように陣形を固めて、人を視線で殺せそうな程の怖い顔をして周りの人たちを睨んでいる…ウチまで怖くなるくらいに…
なんでそんなに睨んでいるんだろうと思っていると、突然誰かに背後から肩を叩かれ、声をかけられた。
「よう茜!元気かぁ?」
そうウチが一番話したかった人の声が聞こえて、ウチは急に声をかけられた事に驚いたけど、ちゃんと向き合って草薙君とお話ししようと後ろを振り返って目を合わせた。
(えっ……?)
ウチが振り返って目を合わせた瞬間、ウチの中にとてつもない恐怖感と、トラウマにまた直面したかのように身体の硬直が瞬時に起こった。
(だ、誰?草薙君じゃない…見た目は一緒なのに……何…怖い…怖いよ……)
「うっわ…スッゲェ胸だな、めちゃくちゃでけーじゃん!高峰も立派なもん持ってたけど…それ以上か…へへ、こりゃやべえなぁ」
そんな事をウチの胸を見ながら言ってくる、目の前の誰か分からない人。そんな人にウチは勇気を振り絞って、震える声で訪ねた。
「あ…あの……だ、誰ですか?ウチが知ってる…く、草薙君じゃ…ないですよね…」
「あ?何言ってんだ?お前」
怖い…目が合わせられない…
そう肩を震わせていると、香織ちゃんと美夜ちゃんがウチの身体を隠すようにして前に出てくれた。
「ねぇ?草薙?お前一体どういうつもり?冗談だとしてもあーちゃんにやっていいことと悪い事があるでしょ?」
「そうよ草薙君、今すぐ茜に謝りなさい」
「あぁん?何だてめーら、俺はそこの茜に用があんだよ。退け!」
「いーや退かないね、あーちゃんが……怖がってんだろうが!草薙ぃ!!!」
「ヒッ?!」
み、美夜ちゃんが…本気で怒ってる…こんなに怒ってるのはあの時以来かも…
「もう二度と茜に近寄らないで頂戴。君がそんな人だと思わなかったわ」
「チッ…行こう?あーちゃん…」
「うん……」
二人に抱えられながらウチは自分の教室へと歩いていく。するとまだあの人が食い下がって近づいてきた。
「ま、待てや!まだ話は…!?」
「二度と近づくなって…言われただろうがあぁぁっ!!!」
「グフッッ!?」
近寄ってきた草薙くんに似た誰かは、美夜ちゃんの中段蹴りをお腹にモロに受けて蹲ってしまった。
「行きましょうか…」
そう言われてウチらはその場を離れ、そのまま卒業式に参加する事になった。
「何なんだアイツ?!ロクな人間じゃねーじゃねーか!」
「落ち着きなさい美夜」
「でも!あんなのって…あーちゃんの気持ちが…」
「私も信じられないわ…あの草薙君があんな人だとはとても…」
卒業式が始まる直前に香織ちゃんと美夜ちゃんとウチは話し合う。当然草薙君の変化についてだ。ちなみに彼はあの後他の女子生徒に暴力を振るおうとして先生に拘束されて、卒業式には出れなくなったって…
「……ウチはあの人が草薙君じゃないと思う」
「どういう事?あーちゃん?」
「なんて言ったらいいのかわからないけど…草薙君がウチに限らずあんな事を言ったりする人じゃないって事は、ウチが一番知ってる。だからこそあの人は、草薙君の見た目をした誰かなのかなって…目を見たときすごく怖かったし…」
「…だとしたら突発性の二重人格なのかもしれないわね。確かに彼はあんな事を人に言うような人じゃないと思うもの」
「な、なるほどね…確かに私の蹴りも一昨日は死角からの不意打ちで攻撃したにも関わらず、脇腹に当たる前に掌で受けて威力殺してたのに、今日は正面からだったのにモロ当たってたし…中身が違う?ってなるとあーしも納得かも…」
ウチの頓珍漢な考えだったのに、二人とも真面目に考えてくれてる…やっぱり二人も草薙君に違和感があったみたい。
「二人とも…信じてくれるの?」
「「当たり前でしょ(っしょ)?」」
そう言ってくれた二人に、ウチは卒業式が終わるまで涙を流した。
◇
卒業式が終わった後ウチは家族と合流して、早い合流に驚いているお母さんに香織ちゃんと美夜ちゃんがさっきの事を説明してくれた。その件の事はとりあえず置いておいて、ウチらは三家族で集まって写真を撮る事にした。
あの後三家族集まっての卒業祝いを済ませて、家に帰ってきた。お兄ちゃん(詳しい事は聞かされていない)もお母さんお父さんも心配そうにしていたけど、ウチが明日お父さんお母さんと草薙君に会いに行く事で落ち着いた。
「茜、康介君のことで心配だと思うけど今日はゆっくり寝なさい?おやすみ」
そういってお母さんはウチの部屋を出て行った。…昨日と違って心配そうな顔で
「明日草薙君とお話しして…何かわかるといいな…」
この好きの気持ちは今も尚全く消えていない。だからこそウチは草薙君を強く思いながら、ベッドの上で意識を手放した。
◇
『起きてくれ桃月君』
そう聞いたことのない声に起こされてウチは目を覚ます。
「え?あれ?ウチの部屋じゃない?」
あたり一面が雲の上のように真っ白で、ウチの正面には白いボールが浮かんでいて、ウチに話しかけてくる。
『ここは世界の狭間、君の世界と彼の世界を繋ぐ道の様なところさ』
「道…?」
『最後の君も今すぐに理解する必要はないよ。さて時間も限られていることだし本題に入ろう、君は…今日好きな人がおかしいとは思わなかったかい?』
!草薙君のことを言ってるんだ…
「は、はい…何だか草薙君らしくないと言いますか…うまく言えないんですけど、中身が違うって言うか…」
『うむ、当たらずとも遠からずの事が彼の身には起こっているのだ…君の近くにいる彼は、もう君の知っている彼では無いからね。そこでひとつ聞きたい。君は…彼の元に行きたいかい?』
「い、行けるんですか?!」
『彼の元に行ったら、元いた世界での記憶を一部消去され、いま話していることを含めてわからなくなり、元いた世界に二度と戻れなくなってしまうとしてもかな?安心したまえ、君の場合は魂の繋がりが深い友人二人と家族は一緒に連れて行けるとも。勿論彼女らには同意をもらっている』
家族と香織ちゃんと美夜ちゃんも付いてきてくれるなら…ウチが迷う必要はない!
「行きます!行かせてください!まだ言えてないことだってあるし、何よりウチは草薙君を追いかけたいです!!」
『…そうか最後の関門の君からその決意が聞けてよかった、では君は三人目として彼の世界へ送ろう。君がその心を強く持っていれば、再び彼と巡り会えるだろう…』
そう言われると辺りの雲が濃くなって、ウチを包んで行く。
『では君も行ってきなさい。桃月茜君…彼を支えてあげてくれ…』
最後に聞こえたその言葉が、ウチの求めている事と一致し、草薙君のことをウチが今度は支えたい!そう思いながらウチの意識は消えていった…
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