【再掲】ゲーム世界から帰還した自己肯定感皆無の拗らせ君。二次元から追いかけて来たヒロイン達に迫られますが、惚れられる様なことをした覚えが全く無いのでとりあえず逃げたいと思います。
ヒロインの心情【今と出会い】side:桃月 茜 後編
ヒロインの心情【今と出会い】side:桃月 茜 後編
◇
ウチは昔から人見知りで、幼稚園の頃からずっと香織ちゃんと美夜ちゃんとしか居ない子だった。自慢じゃないけど、ウチは昔から周りの子と比べ頭一つ飛び抜けて可愛かったらしく、そんなウチにちょっかいをかけてくる男の子がずっと苦手だった。
今考えてみればその男子達はウチの事が好きで、構って欲しかったのかなとも思うけど、当時のウチからしてみれば何もしてないのに事あるごとに嫌がらせをしてくる嫌な子達、と言う風にしか思っていなくて何回も泣いた覚えがある。
その度に二人が男子を泣かせて、追い払っては『大丈夫だよ!』と笑いかけてくれる二人のことがウチは好きだった。でも男の子の中でもそう言う事をして来ない、優しい男の子が一人いたのは覚えてる。幼稚園の頃だからどんな子だったかはハッキリとは覚えてないんだけど…香織ちゃんと美夜ちゃん以外で、ウチが安心する子がいたのは確かだ。
と、ウチはそんな幼稚園時代を超えて小中と順調に進学して行った。勿論ずっと男の子の事は苦手だったし、中学に入って胸が大きくなり始めてからは男の子も男の先生も、顔だけでなく視線が胸やお尻に集まっている事にも気がついて、だんだん男性の目が怖いと感じるようになってしまった。
そんな男性恐怖症の様な症状が出始めてからずっと、男性からの視線に怯えて暮らす日が続いた。
そんなウチを見てか、今はあんな事があったからかやっていないんだけど、昔簡単な料理教室みたいなのをやっていた高校一年の冬にお母さんが『近所の男の子が一人、料理を教えてほしいって言ってたから茜も一緒にどう?』とウチに言ってきた。
二人きりではなく、お父さんとお母さんも一緒だとしてもウチは勿論怖いから嫌だと言った。けどお母さんは『一回だけでも良い』と言ったので、渋々一度だけ行く事にしたの。
多分お母さんはウチがこのままじゃダメだから、両親が監視しているこれを機に少しでも男の子に慣れて欲しいと思ってたんだと思う。
そしてその男の子が来た日。身体を強張らせながら厨房でウチはお母さんとお父さんと共にその男の子と対面する。
『草薙康介って言います!本日はよろしくお願いします!』
そう言った男の子を見て、ウチは何故か他の男の子と違って安心する様に身体の緊張が解けて、目や存在が怖いと感じない男の子に出会えた運命の日だった。
始めこそお父さんもお母さんも警戒した様な面持ちだったけど、その男の子が本気で料理をしに来ている事が伝わったのか、後半からは普段自分から教えないあのお父さんが自分から教えると言う事もあって、お母さんが驚いていた。
それから数ヶ月、毎週土曜日の午前中にレッスンが続いていくうちに初めて出会う怖くない男の子の事をもう少し知りたい、他の人と何が違うのかを知りたくてウチも毎週一緒にレッスンに参加していた。
そうやって草薙くんを観察したり、接したりして気がついた事があった。
草薙くんは他の人と違ってちゃんと目を見て話してくれるし、不用意にウチやお母さんには近寄らない様にして、ずっとお父さんの近くにいる事にも気がついた。
今までの体験レッスンに来た男の人は絶対にお母さんに教えてもらおうとしたり、近くに行こうとする軟派な人ばっかりだったらしいのだが、草薙くんは本気で料理の勉強をするために率先して、一番料理の上手いお父さんに教えて貰っていた事がわかった。
そして休憩時間になって、厨房で草薙くんとお父さんが二人きりになったときに、『何故こんなに口数が少なく怖い親父の近くにいるんだ?』と草薙くんに聞いたところ、帰って来た答えは
『だって桃月さんにしてみれば何処の馬の骨とも分かんない様な男が、桃月さんの奥さんや娘さんの近くにいたら、桃月さん達お三方とも不安かもって思いまして…多分ですけど娘さん、男の人苦手だと思うんです。だから距離取ってるんですよ』
『それに…実を言うと桃月さんが一番料理が上手そうなので、一番上手い人に教えて貰った方が才能のない僕でもすぐに上達するかなーなんて』
そう誤魔化す様にアハハと笑いながらお父さんに言っている草薙くん。
その言葉をドアの前で聞いたウチは、周りをしっかり見て踏み込むと相手が嫌だと感じるパーソナルスペースに踏み込まない様、距離を保つと言う意識してやらないと出来ない…そんな草薙くんなりの優しさを見て、初めてこの怖くない優しい人の色々な事をもっと知りたいって…私も少しずつそうなりたいって憧れたんだ…
それから明確にウチが草薙くんの事が好きになったのは、あの事件の後だったけどね。
◇
「そうだよね…ウチを見る他の男の人には無くて、草薙くんだけにある何か…それが男女問わない心からの優しさなんだって気がついて……それがウチの気持ちの始まりだったんだ…」
「思い出せたみたいね。そうよ、茜はこれから康介くんに踏み込んでいかないといけないんだから…覚えてない事もお互いにあるみたいだしね♪」
そういって立ち上がって部屋を出て行こうとしたお母さんは、ウチに振り返って
「あと二人ライバルがいるんでしょう?お母さんの予想だと、どっちも茜にとってすごい強敵になると思うわ。だから後悔しない様にしっかり康介くんに茜の思いをぶつけて伝えて来なさい」
そう言って笑顔のお母さんはウチの部屋から出て行った。
「うん…今までウチは草薙くんにして貰ったり助けて貰ってばっかりだったし…だからウチは草薙くんの横に並んで立ちたい!」
そう改めて自分の気持ちを決意したウチは、明日の為にベッドの中で目を閉じて丸くなる事にした。
ウチはそうなってしまうまで知らなかった。草薙くんに会えなくなって、気持ちを伝えられないだけで心がこんなに苦しくなるなんて…溢れ出した気持ちを抑えるのがこんなにも辛いなんて……
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