第10話 お弁当

 お昼休み、いつもどおり3人でお弁当食べようとしたところに、紗耶香と友加里がやってきた。


「ねぇ、私たちも一緒に食べていい?」


 僕は「どうする?」と言った表情を作りながら川原と隼人に視線を送ったが、二人とも同じような視線を返してきた。


「まあ、いいけど、どうしたの?」

「ご飯はみんなで食べた方が美味しいでしょ。女の子同士、仲良くしようよ」


 紗耶香は僕たち男子3人が履いているスカートに視線を向けながら、お弁当箱を机に置いた。

 特に断る理由もないので、5人でお弁当を食べることになった。

 紗耶香の言ったとおり、いつものお弁当も大人数で楽しく会話しながら食べると美味しく感じてくる。


「本田先生の授業って、今何しているの?」

「今週は私服の選び方だったよ。肩幅広いのを誤魔化すために、ボトムにボリュームもたせるんだって」

「それ、女子にも参考になる。私、バレー部でしょ。肩の筋肉がついて肩幅広いのが悩みだったの。他にも何かある?」

「肩口にフリルとかデザインがあるのは避けて、ドルマンスリープとかフード付きが良いんだって」

「ふ~ん、勉強になるね」


 友加里が隼人の話を聞いて感心したように頷いた。


「そういえば、来月からメイク講座が始まるけど、毎年女子も参加していいことになってるって先生が言ってた」

「えっ、マジ、絶対行く」


 友加里が目を輝かせている横で、紗耶香も「友加里が行くなら、私も行こうかな」といい、僕の心も躍った。

 

「ところで、百田さんにはこの前きいたけど、川原さんと一ノ瀬さんはどうして白石高校うちのがっこうにきたの?やっぱり、女の子になりたかったとか?それとも単にスカート履きたかっただけ?」


 紗耶香は隼人と川原に尋ねた。


「進学実績がよかったのと、制服がスカートなのも面白そうかなと思ってきただけで、別に女の子になりたい訳じゃない」


 川原からは一度そんな話を聞いたことがあった。白石高校に来るからと言って、男子がみんなトランスジェンダーというわけではない。


「私は子供の時からずっと女の子になりたかった。同級生がかわいいスカート履いているの見て羨ましく思ったし、子供のときから女子と遊ぶ方が楽しかったし、初恋も男の子だったし」


 仲の良かった隼人だが、そんな話聞くのは初めてだった。いつもかわいい制服に憧れてとしか言っていなかったので、僕と同じ感じだと勝手に思っていた。


「ここなら男子みんなスカートだから、スカート履いても変な目でみられずにすむと思ってきたけど、反対にかっこいい男子がいないってことに入学してから気づいた」


 隼人は指をほほに当て口角をあげて、はにかんだ笑顔を見せた。


「私だって他校に彼氏いるから、大丈夫だよ。一ノ瀬さんも、よその学校の人に目を向けたら?今度、彼氏の友達紹介してあげるよ」

「え~、嬉しい。でも男だからって嫌われないかな?」

「一ノ瀬さん、可愛いから大丈夫だよ。それに、彼氏の学校男子校だけど、男子校でもカワイイ系男子は姫ポジションでみんなにかわいがってもらっているって言ってた」


 友加里の話に今度は隼人の目が輝いた。

 紗耶香は何かを思い出したかのように、箸をおいて話し始めた。


「そういえば、今度の日曜って空いてる?バレー部の一年生大会が市民体育館であるんだけど、応援にきてくれない?それで、終わったら遊びに行こうよ。行ってみたかったカフェがあるんだ」


 紗耶香の誘いに心は弾んだ。吹奏楽部の練習があるからと断った川原に続いて、嬉しいことを悟られないように冷静を装いながら答えた。


「日曜日?とくに用事はないけど」

「私もない?光貴行こうよ。カフェ気になる」


 隼人が僕の腕を掴んで揺らしている。


「お店の名前『ロテュス・シュクレ』って言うんだけど、この学校の卒業生が経営してるんだって。それで、ハクジョ男子がいるとサービスしてくれるんだって」

「それが目的なの?」

「えへ、バレた?」


 紗耶香が少し舌をだして笑った。そのおちゃめな姿もかわいい。

 紗耶香と一緒に過ごせるなら、利用されているとわかっていても構わなかった。


「じゃ、決まりね。試合12時からだから、よろしく」

「一年生大会だから、私も友加里もでるから応援してね」


 僕はスケジュール帳をとりだし、「12時、市民体育館」と書き込んで花丸を付けた。


「バレー部の森田コーチも、ここの卒業生だよ。薬剤師なんだけど、週に1~2回コーチにきてくれてるの」

「長身ですらっとしてて、きれいなんだよ。今度の大会も来るから見ててね。それで、その森田コーチの旦那さんもここの卒業生で高校時代から付き合ってゴールしたんだって」

「憧れるよね。初めての人と結ばれるって」


 友加里は両手を組みながら、遠い目をしながら上を見上げた。


「ここの卒業生ってことは、ハクジョ男子なの?今もスカート履いてるのかな?」


 川原が興味深そうに尋ねた。校則では3年生はスカート履かなくてもいいことになっているが、3年生になったからと言って髪を切って男子のスタイルに戻しているのは少数派だ。

 そんな状況なので、卒業したら男に戻るのか、女の子のままでいるのか興味があるところだった。


「アナリストのやり方を何回か教えてもらったけど、普通の優しい男性だったよ。でも、奥さんと一緒に女装して買い物行くこともあるって言ってたよ」

「アナリスト!?」

「データ分析のことよ。相手の誰がレシーブ苦手とか、どんな攻撃パターンがあるとか分析して、戦術決めたりするのよ。コーチの旦那さん、プログラマーでそっち系得意なんだって」


 女子二人と川原の会話を何とはなしに聞きながらも、ハクジョ男子でも女子と付き合えて結婚までできたという前例を知り、僕の心は毎度っていた。






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