どうやら私は転生してもクラーケンらしい。

@kappa_man2525

第1話 我こそがクラーケンなり

どうも我が友よ。こんにちは。或いはこんばんは。


若しくは…—————、いややめておこうかな。

お前に理解してもらえるとは思えない。時間の無駄だな多分。


ああ、申し訳ない。自己紹介がまだだったな。やれやれ…人の文化についても多少なりとも勉強はしているつもりなのだけどね。


「お前は人間じゃ無いのか?」だって?


人間に見えるかい?擬態の精度も上がってるみたいだな。ちゃんと練習しておいて良かったよ。

種明かしをするとね、君が今会話しているこの姿は、私の触手の先端にすぎない。君たち人で言う指の一本に絵を描いて“ままごと”をしているようなものさ。


ふふ。まあ確かに信じられないよね。でも実際に私の本体は君の想像の2000倍は大きいんだ。


ああ!!待って待って!!ごめんよ頭がおかしいわけじゃ無いんだ!!!!

せめて私の名前だけでも聞いていってくれよ!!


………こほん。改めて、こんにちは。或いはこんばんは。私は『クラーケン』と言うものだ。是非とも、これからもよろしく頼むよ。


————————————


目が覚めた。


以前の休眠からどれだけ時間が経っただろうか。最近は気になることも多かったのでこまめに覚醒するようにしていたが…。まどろみから意識を引き上げ、体内時計にて現在時を確認する。


私の体内時計が正しければ恐らく、眠っていた期間は一週間のようだ。


ふむ。我ながら随分と早起きしたものだ。以前は数千年間寝過ごすこともザラにあったのに比べれば、幾分か健康的な生活をしているのではなかろうか。


健康的…、健康か…。人に影響されているみたいだな。私のような生物に人間と同じような健康が適応されるはずもない。


私は『人間』では無く、『クラーケン』である。


まあ『クラーケン』と言う呼び名も正確なものでは無い。私が勝手に名乗っているだけだ。


外見はさながらタコである。頭部から触腕の生えた頭足類そのままと言った外見だ。ただ一点、私の体が地球上ではありえないほどの巨体ということを除けば。


この地球という星に生命というものが生まれてからおよそ35億年。私は彼らが単細胞生物だった時にこの星にやってきた。隕石という卵に包まれてこの星へと着陸した、俗にいう地球外生命体である。


特に酸素が必要というわけでも無いのだが、かつての私は水中で、深海で暮らすことを選んだらしい。今となっては、迂闊に地上を闊歩して生物の進化を妨げることが無くて良かったと思う。


それから生き続けること数億年が経ち、私が恐らく成体となった頃には、私の全長は通常時で縦横それぞれが1000メートルを越すほどになっていた。


そのまま時が経ち人間が誕生した時には、私はほとんど海底の一部のようになっていた。生物の観察を娯楽としていた私にとっては迂闊に動いて生態系を破壊することも出来ない。そこで、感覚器でもある触手を地上に放ち、陽光の元で生きる人間の様子を見る生活を送っている。


私が最近早起きなのはそのためだ。確か今週は、私の愛しい『触手』が修学旅行に行っているはずだ。


————————————


この時の私には、私にこれから起こりうるあの奇妙奇天烈な未来を想像することも出来なかった。


当然である。これまで何十億年もの間生きてきて、このような出来事に直面したことは一度も無かったのだ。


まさか、西暦でいう2023年、そして科学と人間の世界であるこの地球上において『異世界転移』なんていうものが実現するとは…私は夢にも思わなかった。

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