中途半端なりの人生

@laundrylucky

第1話 詰め込み


情報。

コミュニケーション英語。

体育。

化学。

数学A。

言語文化。



火曜日。一番嫌いだ。でも、止められない。




マジでなに。教師が体調不良で休んで自習の時間。とはいえ、なんで授業中にてぃっく何とか撮ってるんだよ。あざとい表情をする数人の女子達、かわいいという聞き飽きた言葉が飛び交っているけれどもそれぞれが一番可愛いのは自分だと言わんばかりの動きで流行りの音楽に合わせてひらひらと手元だけを動かしている。表面上だけの人間関係が一つの小さな舞台で表現されている。一種の芸術作品か。なんてひねくれてみたものの、芸術(笑)は好きな方だがやっぱり何だか同じ空間に「それ」があるだけで心がざわざわする。好きな曲を使われると尚更腹立たしくて、でも何かできる訳でもなくて。やり場のない気持ちを抑えながら自分のやっていた事に集中しようとした。したけども手の力がいつの間に抜けていた。ペンが握れない。あーあ。1限目から最悪の気分だ。いや、朝起きた時からだろうか。いいや違う、人生ごと最悪だ!!!

急に盛り上がってしまって申し訳ないが、何か少しでも嫌なことがあると全てがダメに思えてくるのは私だけでは無いはずだ。どうして神様。私がこんな酷い目に。そんな無意味な問いかけをしたって返ってくるのはいつも心の中の自分からの慰めだけだ。惨めな自問自答。分かっているよ、私にとっての酷い目がちっぽけな事も全部全部自分が悪いことも。本気で神様に助けなんて求めてないんだからね!!でもだからってほんとうに、本当に最悪な目に遭った時神様は助けてくれるだろうか。ていうか、神様って存在する?ここからのラインはもうよく分からない。考えすぎると疲れる自分に嫌気がさした。嫌気がさす自分に嫌気がさして、嫌気がさす自分に嫌気がさす自分に嫌気が、、、



首を吊った。



なんてね。こんな急展開あってたまるか。何があっても冗談風に言うことで無かったことにできる。、、頭の中ではだけど。嫌なことがあった時は今みたいに自分に面白おかしく冗談を言ってのけた。だけどそれは一時的なもので、まるで薬のように効果は儚く薄れていく。まあ、見て見ぬふりというか考えていないふりをしているだけだけ?そんなどこから仕入れたかもわからない錠剤等で雑然とした思考回路は、まるでぐるぐると回るメリーゴーランドのようだ。乗客のように自らの思考を乗せては呆気なくまた新しい客に切り替え、気に入った客はもう一度乗りに戻ってくる。また、私自身もその大きな造り物の馬に跨って回されているかのように目が回る。感覚が麻痺して楽しいんだか酔っているんだかわからないまま捜査員のいない少し気難しい私のメリーゴーランドを無理矢理止めたが、まだ軽快なリズムのbgmが頭の中でかすかに流れているような気がして、子供向けに造られた色鮮やかなそれにわざとらしく振り回されているようで、ほんの少し気持ちが悪くなった。そしていつの間にか閉じた目を開けてはっとした所で1限目は終わっていた。今日は本当に気分が悪い。けど、休むのも早退するのも意地っ張りなくせに臆病な自分にはできないんだ。なんだか腹も痛くなってきた。またひとつ最悪が積まれていく。嫌な気分の時は大抵腹が痛くなる。この都合の悪い体を小走りで一番奥の個室へと運び、勢いよく鍵を閉める。一つ折り曲げたスカートの丈を下ろし、チャックを開け、申し訳程度に花の絵が描かれているパンツを脱ぐ。そそくさと冷たい便座に座り込み顔を顰めながら便座に座る姿はさぞ惨めだろう。排泄の動作が人に公開されるものでなくて良かったなんて当たり前のことにほっとしている自分に可笑しさを感じられるほどの余裕はなかった。幸い誰もいなかったのでこの不快な音を聞かれずには済むだろう。踏ん張ろうとした。が、さっきの女子達の甲高い笑い声が段々と近づいてくるのが耳の奥に指すように入り込んできた。糞も出ない。ため息すら出やしない。やつらは決まって鏡の前で些細なことにきつい愚痴を零しながら前髪だの化粧だのを直し長々とそこに居座る。うんざりするほど見た光景だ。あぁ、今日はとことん着いてないな、なんて思うのはまだ早いだろうか。ガチャリとドアが空いた音がした。なんとなく息を止める。

「うちらのクラスってさ、やっぱノリ悪くね(笑)」

「あたしが授業中ちょっかいかけても反応薄かったしほんとおもんないやつしかおらん(笑)」ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺら

んー。薄っぺらいのはてめえの脳みそだよ。

常識ないと面白いを履き違えんなカス野郎共が。顔面にゲロでも塗ってろよ。

とにかく、腹が痛い。どうしようもなくなると口が悪くなるのは昔からの悪い癖。でも吐き出さないだけ偉いと思っている。人間追い詰められた時に本性を表すとよく聞くが、それをどれだけ抑えられるかで人間性が問われるんじゃないかと私は考えている。奴らは馬鹿なのだろう。常に本能のまま生きてやがる。畜生。思わず相手のいない虚しすぎる壁ドンをしてしまいそうになった腕を抑えた、が、指先まで制御出来なかった。中指が自立している。すげえ。便所で中指を立てる華の女子高生。なんと滑稽な。そうこうしているうちに腹の痛みも引いてきた。もうフェイントをかけるのはやめて欲しい。あぁ、こんなことをしている場合ではないのに。。。あと2分で2限目が始まってしまう、仕方なく教室に戻る。集団の中に入るのはやっぱり気が、足が、重くなって息が詰まるのを感じる。苦しい。詰まった息では日本語すら発することを難しく感じさせる。そんな状態で母国以外の言語なんかまともに話せるかよ。わっつろんぐで始まる2限目、今日は人生に絶望しています。って英語でなんていうんだろうか。いや、いつもだけれど。わかんないから眠いでいいや、アイムスリーピング。ぼそっと捨てるように放ったカタコトなその言葉は誰に拾われるわけでもなく無惨に転がり落ちた。落としたものよりも黒板に書いてある今日の予定に目を向けた。リスニングテスト、教科書の内容解読、来週発表のスピーチ作成。どれか選べと言われたらお手上げだ。もう降参するから許しておくれ。無駄に明るいALTの教師が眩しすぎて直視できない。




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