【短編】婚約者が大好きな王子による特別参観日
宇水涼麻
【短編】婚約者が大好きな王子による特別参観日
「ファリアリス様。ディック様との婚約を破棄してください!」
朗らかな春の日差しを受けた明るい学食では、ほとんどの生徒が昼食を済ませ、長い昼休みのひとときを友人とお茶をしながら穏やかに過ごしていた。
ファリアリス・ナージェ公爵令嬢も友人たちとの和やかな時間を楽しんでいた。
にも関わらず急に割り込んできたかな切り声の大音量に、扇を開いてエメラルドの瞳を細めた。
そこには、柔らかそうな薄くピンクがかったブロンドの髪の可愛らしい女の子が頬を染めて少し頬を膨らませ拳を握り腰の辺りに添え一生懸命を強調させて立っていた。
それだけではなく、後ろには高位貴族の令息五人が女の子を守るように立っている。
それを見たファリアリスと同席の女の子たちは、軽蔑の眼差しを隠すために扇を広げた。そのうちの一人が声をかけた。
「メディー様。口を謹んだ方がよろしくてよ」
厳しい口調での警告であるが先程のメディーと呼ばれた女の子の声ほど大きなものではない。淑女たちは大きな声を出すことには慣れていないのだ。
まわりの女の子たちも賛同の声をあげる。
メディーは肩をこれでもかというほど大きく揺らし、大きなアメジストの瞳に薄っすらと涙を溜めた。庇護欲を唆るというものなのだろう。取り巻きたちが懸命になぐさめ女の子たちを睨んだ。
ファリアリスは今度は優しげに目を細めて同席している女の子たちに向けた。そして、わかっていると口角を上げ、長い睫を一度ゆっくりと瞑り優雅に手で制した。女の子たちは御意という意思でファリアリスに小さく礼をした。
ファリアリスが立ち上がるとプラチナブロンドのサラサラな髪が少し左右に揺れ光を受けて輝く。周りからは、その立ち姿だけで羨望のため息が漏れた。
「メディー様。何のご挨拶もなしにいきなり怒鳴り込んでいらっしゃるのは淑女として問題ですわよ」
ファリアリスは噛み砕くようなゆっくりとした口調でメディーに説明した。
「ここは学園です! 身分は関係ないはずです!」
メディーのかな切り声で周りからはどんどん注目されていく。
「わたくしは身分のお話などしておりませんわ。身分のお話でしたら、貴女からわたくしに話しかけることは許されませんよとお話いたしますわ」
ファリアリスの声は優しく穏やかで子供を諭すようであった。メディーはドレアント男爵家のご令嬢である。
「ほらっ! そうやって身分をひけらかすじゃないですかっ!」
あまりのトンチンカンな受け答えのメディーにまわりの目が冷たくなっていく。メディーとその取り巻きはそれには気が付かない。
メディーの錚々たる取り巻きたちはファリアリスを睨んでいた。
ファリアリスの同席者はその取り巻きたちを睨んでいる。
「メディー様。貴女とは速記者なしではお話ができないようですわね」
ファリアリスは扇を口元に運び小さなため息を隠した。その憂いの籠もる姿にまた感嘆のため息がまわりから溢れた。
馬鹿にされていると気がついたメディーは真っ赤になって言い返した。
「そうやって、私のことを馬鹿にしてもいいです! でも、ディック様との婚約を破棄してください!」
今度の言葉は多くの生徒がハッキリと聞き、その生徒たちが大変どよめいた。
「ディック様とはバーディックリー殿下のことですの?」
ファリアリスは大きな薄緑の瞳を何度もしばたかせていた。
「他に誰がいるんですかっ!!?」
開き直ったようなメディーにまわりのどよめきはさらにアップした。男爵令嬢如きが殿下を愛称呼びなど不敬にもほどがある。いくら身分が関係ない学園でも許されるわけがない。
………はずだ。
だが、メディーのまわりにいる取り巻きたちは許しているようだ。その態度にも軽侮の眼差しが注がれる。
「愛称につきましてはわたくしがとやかく申すことではありませんので、後程確認いたしますわ」
ファリアリスはメディーにではなく動揺しているまわりの生徒に言った。生徒たちは各々頷いたり隣と話し合ったりしている。
「それで、婚約破棄でしたわね。わたくしはバーディックリー殿下の有責での解消でしたら全く問題ありませんわ」
まわりの生徒は一瞬で静まり返った。まさか、ファリアリスが婚約解消を認める発言をするなど誰もが予想していなかったのだ。
「ですが、その理由をお聞かせいただいてもよろしくて?」
ファリアリスの質問に答えるべく、メディーは美麗な眉を少し寄せ目を見開き少し下げ涙を流すのを我慢しているかのような顔で、鼻で大きく息を吸った。
「愛がない婚姻など不幸だからです!」
吐き出すような言葉にみなが唖然とした。そして、一瞬で呆れ顔になった。その後、クスクス笑いやボソボソと噂する声で全体的にざわざわとしてきた。
メディーはまた肩をビクつかせたが取り巻きたちが何やら耳打ちし、それに小さく頷いていた。
「メディー様」
子供に話しかけるようなファリアリスの声にみなまた押し黙った。
「今日の昼食は何をお召し上がりになりましたの?」
メディーはファリアリスの言葉に呆気に取られた顔をした。しかし、気を取り直して口を開いた。
「こちらのAランチをいただきました! もしかして、男爵令嬢のくせにそれも生意気とか言うんですかっ!?」
メディーはあくまでも喧嘩腰だ。そして、メディーが言った言葉なのにまるでファリアリスが言ったかのように、取り巻きたちはファリアリスを責立てる言葉を吐いた。
「では、そのAランチ相当の食事を一年に一度でもできる領民はどの程度いると思いますか?」
ファリアリスはメディーの斜め上のなすりつけも取り巻きのアホらしい暴言も無視して質問をした。
メディーはまたわけのわからない質問に戸惑っている。
「わかりませんか? わたくしも詳しい数字はわかりかねますが、おそらく五十分の一程度でしょう」
生徒たちもそれぞれ話合っていた。ファリアリスの示した数字が正確かどうかはともかく限りなく少ないというのはよくわかっている。
「だ、だからなんですかっ!?」
メディーはそれでも強気を変えない。
「そんな豪華な食事をわたくしたちが毎日三食もできるのはなぜですか?」
メディーは顎を前に突き出して「はあ?」という態度をした。
「ここに通う貴族だからでしょう!」
完全に眉を寄せてファリアリスを睨むメディーの顔は全く庇護欲を唆られるものてはないが、メディーの後ろの取り巻きたちには見られていない。
「なぜ、貴族がそれをできるのですか?」
「国に税金をたくさん払っているからですよ」
「なぜ国にたくさんの税金を払えるのですか?」
「お父様が仕事をしているからです!」
「貴女のお父様のお仕事は何ですの?」
「領主ですよっ! 男爵だって領地はあるんですっ! 結局馬鹿にしたかったんですか?」
メディーは食って掛かろうとしたがはっと我に返っていじめられっ子のような素振りに変えた。こちらからは丸見えだが取り巻きには見えていないようだ。
「そう、領主様ですわね。領主様は領民から税金をいただいて国に税金を払っているのです」
この国では領主の副業を許していない。文官武官は貴族の跡取りでない者と平民で賄っている。
領主は商売はできるが領地内で売買するものの買付販売しかできない。自分で畑などを持っているがそれを耕すなどの時間はなく領地経営に勤しんでいる。領地を潤すものなら工場経営でも鉱山開拓でも許されている。
とはいえお金は平民よりあるので、それを元手に次男や三男に商売をさせ潤っている貴族は存在する。
領主家族、つまり貴族は『領民のために』を一番に考えるように育てられる。
「何が言いたいんですか?」
メディーは理解ができず口に手を添えて恨めしげにファリアリスを見た。
「領民のおかげで贅沢ができているわたくしたち貴族の結婚は『自分たちのために』ではなく『領民のために』するものなのです」
「愛がないなんて、酷いわ!」
メディーは我が意を得たりと両手で顔を覆い泣きまねをした。取り巻きたちが寄り添う。
「愛がないとは申しておりませんわ。愛を探すのではなく愛を育てるのです」
まわりの女の子たちがうっとりとして、目をキラキラさせた。
「確かに、愛がない家は寂しいでしょう。だからこそ、高位貴族になればなるほど、早くに婚約者を決め、愛を育んでいくのです。
もちろん、片方だけがそう思っているだけではダメですわよ。両方が歩み寄り、語り合い、お互いのことを知る努力をしなくてはなりませんわ」
ファリアリスは扇を閉じてメディーの取り巻きたちに向けた。
「あ、な、た、た、ち、は!」
ファリアリスは取り巻きたち一人一人を扇で指した。
「その努力を怠っていませんか?」
ファリアリスと席を共にしていた女の子たちが男の子がフェリアリスに扇で指されて震え上がるたびに立ち上がった。彼女たちは取り巻きたちの婚約者であった。
「愛を育んでいくのではなく婚約者以外に愛をお探しになりたいのでしたら、貴族を辞めて平民におなりなさい。その覚悟がないなら、ご自分の婚約者と愛を育む努力をなさいっ!」
ファリアリスが少し語尾を強くすれば、取り巻きたちは背筋を伸ばした。
『パチパチパチパチ』
拍手をしながら現れたのは、金髪碧眼おとぎ話に出てきそうな美貌を持ったバーディックリー第一王子だった。
バーディックリーが今まで聞いていたのだとわかったファリアリスは訝しんだ目をバーディックリーに向けた。
バーディックリーは反対に愛しむような眩しいものを見るような目をファリアリスに向ける。
「アリス。そんな顔をするな。君なら大丈夫だと思ったんだ」
バーディックリーはファリアリスの方へと歩く。その途中にはかの連中がいる。
「ディック様!!」
メディーが目を輝かせてバーディックリーに縋り付いた。
バーディックリーはファリアリスに向けた眼差しとは真逆の冷徹な視線をメディーに向ける。
「君に愛称呼びを許した覚えはない」
そう言うと、メディーの手を振りほどいた。そして、ファリアリスの元に行くとファリアリスの右手を取った。
「さすが僕の婚約者殿だ。凛々しい君はとてもステキだったよ」
そのままファリアリスの右手にキスを落とした。女の子たちの憧れるような小さな悲鳴が聞こえた。
「あら? ディリーが婚約解消をしたいのではないの? 平民になってでも貫いたらいかが?」
ファリアリスはバーディックリーに冷たい態度をする。
「僕は平民になるのは構わないが、その時には君も一緒だよ。君以外と愛を育んでいこうとは思わないからね」
バーディックリーがここ一番と思われるとろけるような笑顔を見せた。数名の女の子が気を失った。
ファリアリスは小さく息を吐いた。それを『是』ととったバーディックリーはファリアリスと並んだ。
そして、メディーとその取り巻きたちを見た。
まるで獲物を吟味するような妖しい目で口角を意地悪そうにあげた。バーディックリーは意地悪をしようとは思っていないが、ファリアリスに公然で恥をかかせようとしたことにはかなりご立腹だった。
「ああ! 言うのを忘れていたよ。お前たちの最近の行動は各家の親に連絡が行っていてなぁ。今日は特別参観日だったんだ」
生徒たちの間が割れ数組の夫婦が入って来た。それぞれ、赤い顔や青い顔、ご夫人などは泣いている方もいた。
それを見た取り巻きたちも、膝を落としたり、アワアワとしていていたり、婚約者と両親を交互に見ていたりと、落ち着きのない行動をしていた。逃げようとした男の子が騎士に捕まった。
そして、一番前にいたご夫婦が前に出た。
「お願いします」
後ろに控えていた騎士二人に目配せすると、騎士二人はメディーを両脇から抱えて外へと向かう。
「ファリアリス!アンタ転生者なんでしょう!逆ハーの邪魔すんなっ!」
足を浮かせられたメディーは足をバタつかせながら意味のわからないことを最後まで喚いていた。
ドレアント男爵夫妻と思われる二人がファリアリスとバーディックリーに深々と頭を下げメディーの後を追うように外へと出て行った。
バーディックリーはドレアント男爵夫妻の背中を見送ると取り巻きたちに向き直った。
「お前たちのことは各家に任せることになった」
バーディックリーの言葉にそれぞれの両親と思われる夫妻が息子のところに来ては、襟首を掴んだり、夫人が泣いたり、女の子たちに向かって頭を下げたりしていた。
そのうちの一人の男の子は、壁までふっ飛ばされるほどのパンチを受けていた。逃げようとした男の子だった。
「今日のところはご両親と共に屋敷に帰るといい」
バーディックリーが騎士たちに合図を送ると、騎士たちは誘導するようにその者たちを両親とともに外へと向かわせた。
壁に叩きつけられていた男の子は殴った父親に後ろ襟を掴まれてゴミ袋のように引き連られていった。
〰️
六人を見送った後のなんとも言えない空気の中バーディックリーは口を開いた。
「みんなも先程のファリアリス嬢の言葉をよく考えてほしい」
生徒たちは頷いていたが数名は苦い顔をしている。
「ファリアリス嬢の言葉に付け加えておく。
どうしても婚約者と愛を育めないのなら、穏便に婚姻白紙にできるよう、両家で話し合うことだ。決して、自分本位でやっていいことではないと思っておいてほしい。
今回のように、人の名前を使ってそれを公然で認めさせようとしたり、人の尻馬に乗って自分のことも済ませようとするのは、男であれ女であれ相手に対して誠意がないと思う。
歩み寄った結果婚約白紙を選ぶのなら、それは未来に前向きな決断だろう」
バーディックリーの手招きで男性文官と女性文官が現れた。
「こちらの二人は国から遣わされた相談員だ。穏便な婚約白紙なら国が後押ししよう。しかしそうなる前に、彼らに相談するといい。保健室の隣に部屋を常設している。いつでも行ってみてくれ」
生徒たちはざわめいた。
「おっと、午後の授業の時間だな。では、解散だ」
バーディックリーの声掛けで生徒たちが動き出した。
〰️ 〰️ 〰️
俺は二年前に前世をはたと思い出した。
そして、自分が前世の妹が大好きだった恋愛小説のメインキャラだと自覚した。
きっかけはヒロインが俺にぶつかった時だった。
入学式が終了したばかりの廊下を俺とファリアリスは教室に向かって歩いていた。後ろには側近候補たちがいる。
廊下を曲がろうとした時、反対側から来たヒロインと俺は正面衝突した。とっさに相手を傷つけまいと大きく仰け反った俺は、足を滑らせて横の壁に強烈に頭を打ち付けた。目の前に星が瞬き俺は気を失った。
目が覚めると王宮の自室で乳母が心配そうな顔で覗き込んでいた。乳母は俺が目を覚ましたことを確認すると、泣きながら外へと飛んで行き父上と母上を呼んだ。
医者も問題ないと診断され翌日には学園へと戻った。
学園の入り口にファリアリスが待っており俺がファリアリスの元へと行こうとすると、どこから現れたのかいきなり腕を取られた。
「ディック様! 昨日はごめんなさい! 私ったらあわてんぼうでっ!」
メディー嬢がテヘペロをしてきた。
『転生者確定マークでましたぁ』
俺は心の中でため息を吐いた。前世の妹に見せられた単行本の表紙でキャラクターは知っていたので自分のことはわかったが、小説内の細かい場面などは知らない。
だが、俺がここで生きてきた十六年、『テヘペロ』は見たことがない。始めて見た俺はあまりのあざとさに寒気がした。この女に落ちるなどありえない。これが天真爛漫に見えるなどどんなフィルターだと疑いたくなる。
俺は側近候補の一人を見た。ハッと気が付きすぐに動く。そして、俺とメディー嬢を引き離した。
「殿下に馴れ馴れしいぞ! 弁えろ!」
側近に離されたメディー嬢はまだ縋りたそうな顔をしている。
「昨日のことも不敬罪に当たるところだぞ。それを温情で見逃してやったのだ。これ以上、僕に関わるな」
昨夜、国王たる父上が温情を見せた。
『入学したてで、浮ついていたのだろう』
まさか、『俺との出合いイベントかも』などとは言えず父上の裁量に従った。
側近の者たちも口々に注意をしていたので、俺はメディー嬢の表情を確かめず、ファリアリスの元へと急いだ。
ファリアリスとは八歳の頃から婚約している。それ以来、週二回の逢瀬は欠かしていない。ファリアリスは俺の好みのどストライクなのだ。
「バーディックリー殿下。お体はいかがですの?」
ぷっくりとした小さな口を少し開け薄緑のつぶらな眼の目尻を下げ俺を心配して伺うように小首を傾げると、プラチナブロンドの髪が右にサラサラと落ちキラキラと輝いた。
まじ天使!俺の天使!俺、まじラッキー!
この子を悪役令嬢だなんて、絶対に言わせない!
そんな気持ちは顔には出さず『優雅』だと言われる微笑みをファリアリスに向けた。
「アリス。心配かけてごめん。もう大丈夫だよ。昨日も早馬が行っただろう?」
ファリアリスは俺のことが心配で学生寮から屋敷に戻っていて王宮からの連絡待ちをしてくれていた。乳母がファリアリスに早馬を出してくれたと聞いている。
「ええ。ですがやはり、お顔を見るまでは心配でしたの。お会いできてよかったですわ」
と、こんなこともありぃの、で、俺はヒロインに攻略されるつもりはないのだ。
この小説がヒロインが誰かを攻略する話なら俺狙いは勘弁してほしい。さらに、前世の妹が興奮して話していたような『ざまぁ』ならなおさら勘弁してほしい。
俺は自分の欲求と自分の未来のため、ファリアリスを大切にしようと決めていた。
さらに、側近たちには全員婚約者がいたので、日々彼らにも注意していった。
だが、彼らが攻略されることまでは止めることはできなかった。かといって、見捨てるのも気が引けた。
お決まりテンプレの卒業式の『ざまぁ』イベントまで待つと、さすがに彼らを救うことなどできない。
〰️
しかたなく、諜報部を使い近々行動を起こしそうな雰囲気を探らせた。
『彼(バーディックリー)が靡かないのは、ファリアリスが悪い』
メディー嬢は侍っている男たちに近頃盛んに言っているらしい。
そこで、ここ一週間ほどを彼らの両親たちの参観日にした。
開始数日で逆ハーレムを何度も目撃した各家の保護者は日に日にやつれていった。保護者の一人である騎士団団長などは何度も殴りに行きそうになり、俺の護衛騎士たちに必死に止められていた。
メディー嬢の保護者ドレアント男爵夫妻はずっと謝り続けていて本当に可哀想なぐらいだった。
このままでも各家の処罰は充分なようだが、とりあえず一週間となっているので参観日は続いた。何もやらかさなければ、週末各家へこっそりと連行し再教育という話になっていた。
実はこの時点で、取り巻き五人の二ヶ月の休学届けとメディー嬢の退学届けは受理されていた。
そして、参観日三日目の今日、見事にやらかしたのだ。
幸いにもまだ誰もメディー嬢と肉体関係にはなっていないし、婚約者へ婚約破棄宣言をした者はいないので、例え数名でも温情は出るのではないかと……いや、温情で許してやってほしいと考えている。
それにしても、ファリアリスが俺との婚約を解消してもいいと言ったときには、ファリアリスにそんなことを言わせたコイツラを殺したくなったことは、仕方ないだろう。
それでも、耐えたし。ナイスだ、俺!
この事件を機に学園にはカウンセラーを置くことになった。思春期の男女は悩みが多いはずだから。
〰️
取り巻き五人は猶予を与えられた。まず二ヶ月は実家でみっちりと指導を受けた。
そしてこれから卒業までの一年間、婚約者たちが許すと言えば、婚約続行。許しをもらえなければ責は彼らが持ち、彼らは厳しい処罰が待っているという。
彼らが婚約者たちのカバンを率先して持ったり、昼食をテーブルまで運んでいる姿が見られた。私物を任せている時点で彼女たちも許してやっているのだと思う。
メディー嬢はその日のうちに学園を退学しドレアント男爵領へ戻された。
婚約者を持つ高位貴族の子息複数人を誑かし未来の国を混乱させる行為だと判断され国からの罰則として領地から出ることは禁止された。
ドレアント男爵夫妻はつきっきりで改心させようとしていたようだ。しかし、心を入れ替える様子を見せず、いつまでも『ヒロインの私がこんなのはおかしい!』と喚いていたらしい。
改心を諦めたドレアント男爵夫妻はメディー嬢を領地の外れにある修道院へと入れる決意をしたと手紙を貰った。
〰️
カウンセラーによって、気持ちの寄りを戻したカップルも別れを決断したカップルもいると聞いている。どちらにしても、前向きかつ両者合意であり理不尽なことがないのならそれでいいと思うのだ。
〰️ 〰️ 〰️
夏の日差しが和らぎちょうど中庭で過ごすことが気持ちのいい季節。
王宮の庭園では美貌輝く二人がお茶をしていた。
「アリス。今日もまた美しいね」
女性に負けない美しさを誇る金髪の王子が愛しい婚約者へ笑顔を向けていた。
アリスと呼ばれた美貌の姫は目を細めて小さなため息をついたが、特に何も言わなかった。
通常運転ということだ。
婚約者を溺愛する王子と冷静で賢明な婚約者は卒業パーティーでの衣装の相談を始めた。
〜 fin 〜
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