夢の殺人

ツヨシ

第1話

夢を見た。

感覚としては長い夢のように感じたが、覚えているのは最後の方だけだった。

俺が人を殺していた。

若い男。知らない男だ。

男の胸をサバイバルナイフで一突きだ。

知らない男で夢の中でも男の名前を聞いたこともないのに、俺は男が誰かであるかがわかった。

名を福島啓介と言う。

目覚めても、男の顔と名をはっきりと覚えていた。

そして男を殺した瞬間も。

――変な夢を見たなあ。

起きて朝食をとる。

テレビでニュースを見ながら。

ニュースでは殺人事件が取り上げられていた。

殺されたのは夢で見た男。

名前は福島啓介だった。

胸を鋭利な刃物で突き刺されたと言う。

場所は俺の家から数百キロ離れたところだ。

――ええっ?

犯人はまだ捕まっていないようだが、もちろん俺は犯人ではない。

昨日、あんな遠くに行って帰ってきた覚えは、全くない。

でも殺されたのは、夢の中で俺が殺した男なのだ。

――偶然?

だと思いたい。しかし俺にはとても偶然とは思えなかった。


それから数日後、また夢を見た。

長い夢のようだが、覚えていたのは俺が若い女を殺すところだけだ。

知らない女。

でもなぜか名前がはっきりとわかった。

井川薫。前と同じく、まるで起きていた時のことのように、生々しい感触があった。

朝ご飯を食べる。

朝のニュースを見ながら。

すると殺人事件が報道されていた。

若い女性が胸を鋭利な刃物で刺されて殺されたと言う。

夢で見た女。

夢で俺が殺した女だった。

名前は井川薫だ。

――うそっ!

嘘ではない。

誰が殺したかは定かではないが、井川薫という女が殺されたことは明らかだ。

しかし俺には物理的に無理だ。

女が殺された場所は、もし車で行けば、高速を使っても半日はかかる場所だ。

昨日遅くまで仕事をしていたのに、あんなところまで言った記憶もないし、そこから帰ってきた記憶もない。

遅く帰って晩御飯を食べ、風呂に入ってすぐに寝た。

そして夢を見て今に至る。

しかし前回も今回も、俺が殺したと言う実感があるのだ。

――いったいどういうことだ?

わからない。なにもわからない。


しばらくは何もなかったが、また夢を見た。

同じだ。

知らない中年男を俺がナイフで殺す。

実感がありすぎる夢。

それでも起きて朝食を食う。

ニュースを見ながら。

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