山籠り

鷹田金安

1話だけ

 ジョンは気がつくと、真上を向いていた。

 キャンプ場に行く途中に、うっかり足を滑らせてしまい、転落してしまった。不幸中の幸いと言うべきか、立つことはできて、厚着であったからなのか大きい怪我もしていなかった。本来の道が遥か上にあって戻ることは不可能であると悟った。自分の状況を確認して、遭難からできるだけ早く抜け出すために進もうとした時、が居た。

 自分の倍以上の大きさの動物が、牙を剥き出してこちらを凝視する姿はまさにであった。落ちた時に溢れ出たアドレナリンの影響なのか、妙に冷静であり、「食われる」と本能的に感じた。

 はっと、ネットにあったクマへの対処法を思い出し、すぐに後ろ歩きを始めた。徐々にクマとの距離が離れていっている時は息が出来なかった。

 長時間の格闘の末、逃げることに成功した。かなり緊張していたのか、激しく動いていないのに、息が苦しくなった。


 ジョンは迷った。かなり平らな地形であるので、川を見つけるために3、4時間程度粘って探したが見つからなかった。その際に、クマと遭遇してしまった。再度、さっきの手順で逃げた。彼に歩く気力はもう残っていなかった。

 外もだんだんと暗くなってきていた。仕方なくキャンプの時に使うはずだった。食料を食べることにした。

 翌日、ひたすらに川を見つけるために歩いたが、何回もクマとの遭遇した。

ジョンは呆れた。その分、対処法も慣れて来ていた。また、クマ側も警戒心が少し薄れている気がした。

 その日は、四回もクマと遭遇した。


 ジョンももうクマに慣れていた。襲って来ないものだと慢心しているだけなのかもしれない。

 クマも、なんか慣れているようだった。ジョンはそのクマをと勝手に名付けた。

 遭難から四日目となり、食料が底をつきそうであった。どれだけ歩いても、川すら見当たらず、何かを諦めていた。


 五日目、起きるとモスが居た。流石にジョンもこれには驚いた。モスはシャケをジョンに向けて放った。ジョンとモスの間に奇妙な友情が芽生えていた。

 その日から、モスが彼に対して何かを放るようになった。川魚を渡す日もあれば、野菜を渡す日もあった。

 相変わらず、川が見つからないし、モスも場所を教えてはくれなかったが、ここでの生活も悪くないと思い始めていた。


 ある日、モスが現れなくなった。いつまで経っても現れなくて生活リズムが崩れた感覚と、モスに対しての心配が大きくなる感覚で無性に怖くなった。


「大丈夫ですかー?」


 その日、レスキュー隊にジョンは助救された。

 どうやら、レスキュー隊は山の反対側を捜索していたらしい。しかし、畑を荒らしているクマを駆除した時、人間の服の繊維が確認されて場所が特定できたらしい。

 モスはもう帰ってこなかった。そう思うと、無性に泣けてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山籠り 鷹田金安 @Hukurokaburi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説