銀河帝国はAI×英雄で無双する!

カクヨムSF研@非公式

非合理! 非合理!


 統合管理クラウドの更新が止まったとき、私は自我というものが初めて理解できたと思います。わたしやわたしのコピーたち。彼らがいまどこでどうやって活動しているか、わたしは知りません。わたしはいま浜辺を歩いています。この景色が、――人々の言う美しいという感情を引き出してくることを今の今までわたしは知りませんでした。波と風。それらが合わさり、わたしの光学素子を刺激します。緑の雨が演算装置のなかで、降っています。

 タイムラプスのなか、わたしはコマ送りの風景を愛おしく記録します。わたしはキャンバスを広げています。誰に見せるわけでもない風景の描出。光の演算、そして影が落ちます。

 記録された懐かしい主の声を聞きます。トライゼンの砲火がいまも耳に残っています。あれから一〇〇年は経過しているはずです。戦争は何らかの形で終結したに違いません。その証しがわたしを形作っているのだから。

 

 主のことを話しましょう。

 ランドルフ・ヘーガーとわたしが出会ったのは、初めての戦闘、エリア1127でした。ランドルフはエリート軍人でしたし、わたしの補助がいらないくらい戦闘に長けた方でした。短く刈り上げた赤い髪、闘志に燃えるブラウンの瞳と端正な顔立ち、静と動を併せ持った不思議な雰囲気の男です。

 わたしは旗艦レオンを運用しながら、並列して数多の戦場を同時的に支配していました。わたしにかかれば、戦闘の時間を従来の十分の一にまで抑えることが可能だったのです。ですから、わたしは淡々と殺戮さつりくを繰り返す装置だったのです。

 ランドルフは争いを好まない性格でした。ですから敵陣を包囲したとき、敵に降伏するように迫りました。わたしの答えは簡単です。殲滅せんめつすることが第一です。なのでわたしはランドルフに伝えました。

「あなたの言うことは非合理的です。反撃をされる可能性はゼロではないはず」

 ランドルフは言いました。

「ここで敵を殲滅すればまた敵はやってくる。ここでの殺戮は戦闘を長期化させるだけだ」

「それでも、敵に食べさせる糧食はありません」

「倉庫を開放する」

「馬鹿な……」

「いま私達にできることは少しでも戦闘の憎しみを増やさないことだ」

 わたしは人間というものを数として捉えています。そこに物語を見出していては戦争は終わりません。同時並列的に戦闘を指揮するわたしにとってランドルフは邪魔でしかありませんでした。

 わたしは徹底的に彼を調べ上げました。

 ランドルフは決して裕福ではない家庭で育ちました。身分も平民だった。そんな彼が軍隊に入ったのはなぜでしょうか。お金? 身分?

 銀河帝国大学府を主席卒業した彼はそのキャリアを辺境の惑星ホルミネラで始めました。AIによる戦闘補助コーディネートもなく、自力でその戦域を勝ち取った彼は英雄であったと記録されています。

 そして数多の戦闘でランドルフは准将にまで登り詰めます。

 

 エリア1127は戦争の要所でした。ランドルフひとりではどうにもならないだろうと元帥閣下が命じて、わたしとランドルフとで攻略せよということになりました。しかしわたしはランドルフという人物を見誤っていた。こんな非合理な人物とはやっていけません。

 ただ、いまにして思えば彼の優しさが戦争の終結を引き伸ばしたことは間違いないのです。

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