かすがいのこの世に

春夏秋冬

プロローグ①

「最近、行方不明者が多いわね」

 朝、家族で朝食を貰っていた時、お母さんがこうつぶやいた。

 見ていたニュースの報道から、そのような不安を言葉として漏らした。

 私はそれにうなづいた。

 そう。最近、ニュースでその報道を見ることが多くなった。何処かの拉致問題ではないか、暴力関係者の仕業か、宇宙人が誘拐してるのではなど、様々な憶測が飛び交っている。

 老若男女問わず起こるこの事件は今世間の話題を集めている。

 「恐いなぁ」私は食パンを頬張る。自分に被害が及ばないといいなと思った。

 「もう出るよ」

私はカバンを持ち家を出た。



 私の名前は山高玲奈やまたかれいな

 普通の高校に通う2年生。

 父はサラリーマン。母は専業主婦の至って普通の家庭で育った。何不自由なく平和に暮らしている。

 「さて」

 私は隣の家のピンポンを押した。

 「玲奈です」

そういうと、おばさまがでてきた。

「いつも悪いわねぇ。たかしー! 玲奈ちゃんが来たわよー!」

 そうして大きな声で、呼んだ。

「わ! 早いって! ちょい待った!」

 ドタバタドタバタと、慌てた音が聞こえる。

 数分後、ようやく階段を駆け降りてきた。

「お待た! 行こう」

「待たせてごめんとかないの?」

 私は腰に手を当てる。

「ああ。悪い悪い」

 反省してなさそう。私はふぅと息を吐く。

「では、おばさま、行ってきます」とにこやかに言う。

「気をつけていってらっしゃいね」

 私は頭を下げた。

 そして、たかしと家を出た。


「あーあ。学校面倒だなぁ」

「まあ、確かに面倒なのはわかるけど! ちゃんといかなきゃ駄目だよ」

 たかしはため息をついた。

 彼の名前は水野たかし。お隣に住む幼なじみ。

 結構自由な奴で子供の頃から振り回されていた。

「そういえば、また行方不明出たらしいな」

「てっきりニュースとか見ないと思ってた」

「いやまあ、見ないけどさ。オカルトチックな噂があったりすると、ものすごく興味あがるじゃん。宇宙人とか」

「好きだもんね。そう言うの」

「どこ行ってんだろうなぁ。なんか、噂では、別世界に飛ばされてるとかさ...」

 いつもの長い話が始まったので、適当に聴きながら足を早めた。

「まあ、身近で起きないといいな。もし俺がいなくなったらどうよ? ちょっと興味本位でいなくなってみたいけど」

 笑ってた。

 私は知らないと、嫌だと言う気持ちを隠してそっけなく答えた。

 冷たいなと笑いながら言っていた。

 

 テレビで起きたことは非現実で、自分には関係ないと心のどこかで思ってしまっている。謎の自信というか、安心感というか。

 わたしの日常は常に変わらない。そう信じていた。

 しかしそれは現実になる。

 そう――1週間後、私の両親は行方不明になった。





 両親がいなくなってから一週間がたった。

 私は部屋の中でじっとうずくまっていた。

 なにもしたくない。なにもできない。ただ悲しみにとらわれているだけだった。

 こうして一人でいるとき、両親の思い出がリフレインする。

 そして、涙が止まらない。あふれ出て、どうしようもない。

「どうして?」

 ひとりごちる。

 そうしていると、インターフォンが鳴った。

 気は進まないが、わたしは重い腰をあげて、玄関へ向かう。そしてとびらをあける。

「よ、よう」

 たかしがそこに立っていた。

「どうしたの?」

 私は目を伏せて尋ねた。

「いやーちょっと、元気かなって思ってさ。遊びに来た。ご飯は食べてるか?」

 お弁当袋を私の前に出す。

 たかしなりに気を使っているのだろう。

「おばさまから?」

「まあね。俺は作れないし」

 頬をポリポリとかく。

「うん。ありがとう。あがって」

 私はたかしを迎え入れる。

「今、学校も行けてないけどさ。なるべく早く、復帰できるといいな」

「それは、わかっているんだけど、なかなかね……」

 そういえば、みんなとも話せてないな。気持ちが中々浮かない。

 早く元気にならないといけないんだけど、ね。

「きっと見つかるよ」

「……うん」

 私はこくりとうなづいた。

 たかしが持ってきたお弁当を食べる気にもなれなかった。あまり、食欲もわかない。

「玲奈のおかあさん、昔な、お前をいろんなところへ振り回してったから、色々言われたな。泥だらけにして帰ってきたときは怒られたな。ハハハ」

「あったね。そういうことも。あんたは、やたらふりまわすから」

「まあな、あの廃墟に言った事覚えてるか?」

「あー。幽霊のうわさがあったから、連れていかれたときね。」

「お前、幽霊とか見えそう女子だったから見られるから、て思ってさ」

「今でも意味が分からない」

「結局何もなかったけど、お前がその時に大切にしていた……なんだっけ」

「髪留めね」

「そうそう。それをなくしちゃったてことですごく泣きじゃくっててさ」

「泣いてないわよ」

「それでいつまで探しても見つからないでさ。怒られて」

「夕方になって帰った後、たかしが夜になっても探し続けてくれていたんだよね」

「まあ。心配させてたから。親に怒られたなー」

「でも、ありがとうね」

 ちょっとした二人の思い出。それをなつかしむ。

「あのさ、たかし。会話して、少し気がまぎれた。ありがとうね。ご飯も持ってきてくれて、助かったわ。おばさまにありがとうって伝えといてね。また明日。明日こそ学校行くよ」

「そうか。わかった。寝てるから起こしに来いよ。待ってるわ。玲奈が来なかったら遅刻しちゃう」

「重大責任ね」くすっと笑う。

 そうしてたかしは帰っていった。


 私は一人きりのさびしい家で私はまたうずくまるのだった。

 悲しい。

 また、誰か私のそばからいなくなったら嫌だ。


 翌日。起きて、制服に着替えて、たかしを迎えに行く。

 いつものように、家に行く。そうするとおばさまが暗い顔で出てくる。

「玲奈ちゃん、おはよう。もうだいじょうぶなの?」

「おばさま、ありがとうございます。私は、大丈夫です。あ、これ昨日の。ありがとうございました」

 私は頬の両角を引き上げた。目はどうしても笑うことが出来なかった。だから、不自然に思われたかもしれない。それでも、私はそうしなければならなかった。そうして、私は昨日受け取った弁当箱を返した。

 おばさまには、気を使わせてしまっているかもと思うと、ばつが悪かった

「たかしはまだ寝ていますか?」

 私は雰囲気を変えようと陽気な声でたかしの事を尋ねた。

 そうすると、だ。本来私がばつが悪そうな顔をするべきであったのに、逆におばさまがそのような顔をしたのだ。普段からは考えられないくらい、おばさまの顔がこわばっていた。

 その雰囲気を見て、嫌な予感がした。私は眉を顰める。鼓動が耳に届くまで高鳴っていた。

「ちょっと、たかしは、風邪ひいちゃって。寝てるのよ。悪いんだけど、そっとしておいてもらえるかしら?」

「あ、そう……なんですね。珍しい……ですね」

 私はひとつよぎった最悪なことが違ったようで、ほっと胸をなでおろす。審議はどうかはわからないけれども、とりあえず今はそれを信じるしかほかならない。

「じゃあ、お大事にと言っておいてください」

「え、ええ……」

 私は嘆息する。仕方がない。だから一人で学校へ向かうことにした。そういえば、一人で学校へ行くなんていつぶりなのだろうか。私はそんなことを考えながら、歩き出した。


 ――私は、翌日たかしが行方不明になったのを知った。

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