彼らは罪を持つ
リュウ確保のため、警察は全都道府県の警察を、リュウが潜んでいると言われる地域に集めた。その総数26万人。街は異常を極めた。だがリュウはそれに対し、臆することなく普通に外へ出ていた。
「僕は捕まらないよ」
リュウはボソッと呟きながら街中を平然と歩く。パーカーを着ているのにも関わらず、フードは被らず、顔が割れているというのにマスクは付けず。何も変装を施さない、その図々しさ、肝の座っている様子に街中の人間たちは驚きを隠せない。数メートル歩くだけで全員が電話を取り、警察に連絡をする。
「何もしてないのに電話するなんて、みんな臆病だなぁ」
街中は異常なほどの活気に包まれていた。リュウを見かけた彼ら、彼女らは仕事をする手を止めて、ただただ歩くリュウに見惚れていた。警察官が到着しても尚、歩みを止めないリュウに驚くしか無かった。
「連続殺人犯、中原リュウ!!!」
「やあ」
「な、なにがやぁ?だ!!」
「……何を怒っているの?」
「んなっ?!」
「僕は僕を正当化しただけ。彼らはみんな罪を持っている。それを断罪することを止める意味は?」
あれだけ活気づいていた街は思考が停止したように静まった。そこに立つ男の演説を聴くように。聴けるように。
「あなた方は全員が罪を持つ。なんの罪か。僕の兄であるカズヤにも問われた。僕はあれからいろいろ考えた。だから僕は」
リュウは服を脱ぎ始めた。
「服を着ている罪。産まれた直後人間は服なんて着ていない。服なんてものがあるから人間は自分を隠す。なら、無ければいい」
「そ、そんなもんおかしいだろ!!」
「人の話の最中に口を挟む罪。僕はまだ全てを語っていない。なのに自分の考えを押し付けようとするバカ」
「んなっ!!」
そしてリュウは誰かに電話をかけ始めた。すると遠くから爆発音が聴こえる。
「あの音は、僕の兄妹たちが居る場所を爆破した音。綺麗だろ。なぜ爆破したか。それは僕と同じ中原ミチヒロの血を受け継いでいる罪。それを活かさない罪。僕たちだけがこの世界をにぎれるのに使わないからだ」
「だ、だからカズヤも殺したのか!」
「彼は手柄を欲しがりすぎた。だから哀れにも僕にも手を出した。二兎を追う者は一兎をも得ず」
リュウの異常さ極まれり。
警察官は拳銃を構えて、彼を射程に入れた。するとリュウは静かに地面に座り込んで言った。
「撃て。撃てばいい。引き金はいつでも引けるだろう。だがどうだ、君らも僕の頭を撃てば殺人犯だ」
「こ、これは許された権力だ!」
「許された権力ならば人を殺してもいいと?」
「お、お前が殺した人間の数は計り知れない!」
「だから僕1人死のうがいいと?」
「……アアアアアアア!!!!」
乾いた音が空に響く。発砲したのだ。
☆☆☆
「――――――中原リュウが亡くなりました。警察官による無断発砲により、頭を貫かれたようです。現場は騒然としています」
☆☆☆
中原ミチヒロと中原リュウが殺した人数おおよそ3万人。彼らふたりが行った犯罪は数多くの人間たちを狂わせた。二度とこのような悲劇が起きないようにと願う人類だったが、次の計画は動き出していた。この数百年後のこと、彼ら人類は地獄を見ることとなった。
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