第111話 リベンジッ!
リンの人形がマグカップを盾にリリエルの人形に迫り、このままでは前回の戦闘のようにリンの人形の勝ちとなってしまうだろう。
「このっ、このっ……!……あぁっ!?」
リリエルの人形が果敢にも機関銃で応戦するも全て弾かれ、そしてついには弾切れとなってしまう。
なんどもトリガーを引く虚しい金属音が響くも、弾は一発も出ない。
「やたっ!あとは近づく……だけっ!」
まっすぐに突っ込むリンの人形に、必死に逃げながらリロードをするリリエルの人形……だがついにはそのひらひらと舞うような可愛らしいドレスの端を掴まれてしまう。
その距離にまで近づかれれば後はもう同じ……と私もリンも思っていた……だが違った。
人形は機関銃をあっさりと放棄し、腰に挿したハンドガンをすばやく抜く。
ハンドガンを奪われないよう、それ以上体の内側に入られぬように片方の肘を突き出す格好でそれは握られ、もはや私達家族にとっては馴染みのある音を鳴らした。
「な、なにっ!?なんで画面真っ暗になったの!?」
「……目を狙ったの、リリエル?」
聞き慣れた銃声の後、急な画面の暗転にリンは混乱していた。
私はと言うとその素早く滑らかな動作と、リンの操作している画面に映った最後の光景、その二つからの推測をリリエルに確認する。
「はい、威力は控えめですけど近距離なら狙った場所に撃つのは簡単ですから」
「なるほど、私が作ったハンドガンをうまく使ったみたいね」
感心する私に抗議の声を上げながら人形の破損部位を修復するように操作するリン。
だがリンの人形が視界を回復するよりも速く、機関銃による引き撃ちで既にダメージが蓄積していた脚を完全に破壊せんと銃撃する。
リンの人形の視界……つまるところリンの画面が回復し見れるようになる頃には完全にバランスを崩し地べたからリリエルの人形を見上げる構図となっていた。
「くぅっ……、動け、ない……」
機関銃を人形の胸にしっかりと押し付け動けないようにしつつ、いつでも射撃出来るように構えられてしまう。
「んんぅ〜っ!負けたぁ!」
暫く抵抗していたが押し当てられた機関銃により起き上がれずコントローラーを投げ出して大きく宣言したリン。
「勝てましたっ!クロエさん見てました?」
リンに渡す道具を作りながら観戦していたが、いやはやなんとも機転の効いた一戦だった。
銃の扱いや狙いもうまい、リリエルはゲームが上手いタイプかもしれないわね。
リンが別段下手という訳ではないと思うけれど……勢いや勘でプレイするリンと、プレイ中もしっかりと戦略や立ち回りを考えるリリエルの違いが出たのだろう。
「勿論見てたわよ。おめでとう」
「ゔぁ〜っ、くやしい〜っ!」
ベッドをごろごろと転がりながら悔しがるリンにリリエル。
前回とは真逆の光景に私が和んでいると、リンがもう一回やろ!と言う。
「リン、そろそろ貴女の分の道具が出来るわよ?」
リンとの対戦に付き合わされ、少し疲労の色が見えるリリエルから意識を逸らす為、リンに声を掛ける。
「あっ!ほんとっ?どんなのどんなのー?」
案の定リンは先程の勝敗よりも私の作った物に惹かれてこっちにやって来る。
リンに作った道具を見せ、感想を貰う。
「おー……見た目はダンジョンの一階で見たはいきょ?遺跡だっけ?のー……クロエなんていうんだっけこういうの」
「えっと、ジオラマとか……模型とかよ。リンはこういう建物、好きでしょ?」
退廃美というのか、廃墟好きとでも言うのか……リンは割とダンジョンの一階を気に入っている。
それを思い出してデザインは廃墟を意識したものにした。
割れた窓に、中途半端に剥がれた床板……建物の隙間に入り込み好きに伸びる植物、そういった如何にも廃墟好きが喜びそうなデザインのそれは、中心に円形の板が嵌め込んであった。
廃墟のジオラマはそれを半分囲むようにして作られている。
「この真ん中のはなあにー?」
「これは……こうするのよ」
中心の円盤に軽く触れる。
私が作ったのは動体探知機と呼ばれるものだ。
その名が示す通り動く物体を緑色の点で表示し、画面下部の白い点……つまり自分を示す点からの距離を計算して映し出す。
探知したい方向に道具を向けなければいけない面倒さはあるものの、より効率的に魔物を狩りたいなら必須の品だろう。
「また映像っぽい?でも何も映ってないよ?」
リンに言葉を返す代わりに私は小さなボールを一つ探知機をかざしている方向へと投げる。
すると映像には自身の位置を示す白い点から離れるように動く緑色の点が表示される。
コロコロと転がるボール……緑色の点は馬車内の壁まで転がり、そしてぶつかって完全に動きを止めた。
すると先程まで表示されていた緑色の点も同様に動きを止め……暫く点滅したのちに画面から消えた。
「わ!なるほどこれって動いてるやつを映してくれるんだね?」
「そうよ、動いていない子は表示されないけれどこれで沢山の魔物を見つけて倒せるでしょ?」
リンに動体探知機を渡す。
デザインに関しても好いてくれたようで、ありがと!とお礼を言われる。
「これをリンの人形に持たせればいいわ」
リンの人形が索敵と前衛を務め、リリエルの人形が遠距離攻撃を担当する想定だ。
これなら被弾を気にしないでいい人形という点を加味した上で最適……だと思う構成になった。
補給や食事、睡眠の必要が無い為荷物も最低限で済むというのも人形の利点だ。
考えれば考える程生きているという事がどれほど目的を遂行する上で障害となっているか痛感する。
ダンジョンの探索に限らず排泄、食事、寿命、怪我、病気等がついて回る……よく私は人間だった頃これらを苦と思わず実行出来ていたな。
人形となってからそういった煩わしい物から開放され随分と心身がスッキリした様に思う。
勿論、食事の楽しみが無くなったのは時々寂しく思う。
だがそれもリンとリリエルが私の代わりに沢山食べてくれるのであまり気にならない。
幸せそうにしてくれるだけでまぁいっか、となるのだ。
「うん!じゃあ操作練習もしたしこの子ダンジョンに向かわしてもいーい?」
リンが待ちきれないといった様子で自分の人形を抱えて尋ねる。
ちょっと待ってほしいわそれは。
「えっと……それは本来私達がここを離れてからダンジョンで活動してもらうものだから」
「クロエさん?それなんですがダンジョンは人形が、情報はクロエさんのハエがしてくれるならリリエルたちはもうここに居る意味が無いのでは?」
「あー……そうね。言われてみれば……確かに」
リリエルに言われて確かにそうだと驚く。
「クロエってばまたうっかりしたのー?」
「む、何よまたって。そんなにうっかりしてること無いでしょ?」
揶揄うリンに拗ねちゃうぞ?と反論する。
実際の所リリエルに言われたようにここに居る意味はない。
それどころか創世樹街のギルドや人間に何を言われるか分かったものじゃない以上、早々に去った方がいいまであるのだ。
リリエルの提案を三人で話し合い、今夜ひっそりと創世樹街を去ろうという事となり、私の作った人形がひっそりと創世樹街の方へと放たれた。
これからは一方的に経験値を稼いで利益は何一つ還元してやらないわよ。覚悟なさい創世樹街。
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