異世界で人形として生きます

リンリ

人形になる理由

第1話 不幸な事故

 うんざりする事と小さな幸せが永遠続く、それが、それこそが人であり、それがずっと続くのが人生だ。


 いつ、どこで聞いた言葉か、言葉ではなく文章だったか、それすらも定かでは無いが当時は意味が分からなかったが今になっては全くもってその通りだと言わざるを得ない。


 あるいは、大きな喜びも悲しみも必要ない、小さな幸せだけがあればいい。と言い換えてもいいかもしれない。

 どっちが訪れても疲れるだけで、偶に分不相応な大きな夢や妄想をするも、結局それは妄想だから、夢だからこそいいのであって実現したいとは露ほども思わない。


 朝から眠気を飛ばす為だけに好きでもないブラックのコーヒーを啜りながらそんなくだらない気取った事を思う。

 本来ならもっと甘めが好きなのだがそれでは起きれない。


「うん?あぁー・・・、今日もまたこれは残業かね」


 スマホで仕事先の上司からの連絡などを確認しながら呟く。

 上司とは比較的良好な関係を築けていると思う、朝に会えば挨拶をし、偶にくだらない冗談を言ったり、言われたり、そのたびに曖昧に笑って相槌を打つなり、ツッコミを入れたり。


 偶にこうして面倒な仕事をこちらに振ることだけは少々思うところが無いわけではないが、うちの会社は比較的人手がおらず、決して彼がサボっていたり悪意があってこちらに面倒事を投げているわけではないと私も分かっているので、ここで文句を言うのは大人として、人としてやってはいけない事だと分かっている。


「やってられんが、やるしか無い。ってねぇ」


 お気に入りの漫画の少し斜に構えた二枚目の悪役が言っていた台詞を言って改めて気合を入れ、玄関を開け出社する。





 いつものようにすし詰めの電車の中で揺られながら今日の予定を確認する。

 スマホの画面とにらめっこしていたのが災いしたのか、私は周りより反応がやや遅れてしまったようで、


「危ないっ!」


「キャアア!?」


 という声に対して身を屈めるなりの防御反応ではなく、何が起きているのかと確認作業を優先してしまった。


 だが私の視界に見えたのは酷く歪んだ車体の破片と鋭く尖ったガラス片が左目に迫る光景しか見えず、何があったのか?

 なぜこんな事になっているのか分からず、ほどなくして視界が真っ暗になった。

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