カゴのトリ

青樹空良

カゴのトリ

「あたし、いつになったら退院できるの?」


 少女がぽつりと言った。

 真っ白な病室。白い病衣を着て、ベッドの上で間に枕を挟んで背中をパイプにもたせかけている。テーブルの上の食事は手をつけられた様子も無い。


「わかりません」


 看護師の服に身を包んだ私は言った。

 少女は窓の外を見ている。外は新緑の季節。少女が眩しそうに目を細める。

 そして、わめき立てた。


「あたしはいつまでここにいればいいの? もう、どこも悪くないのに! 体だって普通に動くのに! 歩けるのに! なのに、どうして外に出ちゃ行けないの!?」

「それは、先生に聞いてみないと」

「先生なんて、ずっと来ないじゃない! 見捨てられたってこと!? 本当はもう治らない病気なんじゃないの!?」

「そんなことはありません」


 それは本当。


「先生どころか、家族にも会えない! あなたしかここに来ない! どうなってるの!?」


 少女が泣き出す。私は少女の肩を優しく叩く。手を振り払われる。


「また来ます」

「待って! 私も!」


 ついてこようとする少女を振り切り、素早く外に出て鍵を閉める。中からドアを叩く音が、虚ろに響く。

 きちんとドアが閉まっていることを確認して擬態を解く。やはり二本足はバランスが悪くていけない。

 管理室に戻ってモニターを見る。さっきまでいた、地球の病院を模した部屋が映る。少女は泣きながらドアを叩き続けていた。


「地球人の様子は?」


 上司が私に問いかける。


「少々情緒不安定なようです」

「あの星が無くなって最後の生き残りだからな。無理も無い」

「しかし、彼女はそのことを知りません。外に出られないことへのストレスかと思われます」

「事実を告げて受け止められるかどうかは問題だな。彼女は大事な研究対象だ。何かあっては困る」

「そうですね」


 モニターの中の少女はまだ泣いている。

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カゴのトリ 青樹空良 @aoki-akira

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