4話 野菜のポトフ 15

 「包丁はね、…ただ握るんじゃないの。…利き手の人差し指を包丁の背に沿わせて持つの。…そして反対の手の親指を残りの指で隠しながら握って、食材に優しく乗せるた手で切ていくの。」

 「こんな風かい?」

 「そうそう。…反対の手の人差し指の第一間接の部分を、包丁の腹に沿える様にして置くの。…そして包丁を、優しく前や後ろに動かしながら切っていくの。…力を入れて下に下ろすと怪我しちゃうからね。」

 「…わかった。…こう、…かな。」

 「…そうそう。…ゆっくり、ゆっくり。…もう少し、肩に力を抜いてね。」

 すると次第に部屋の中で、…トン、…トン、…トン、と、心地よい音が聞こえだす。

 しかし、アニタは小さな声で、ぼやいていた。

 「…でも。…やっぱり、なかなか上手くいかない。」

 「アニタさん。…ひょっとして昔、刃物で手とか指を怪我でもした?」

 と、サーラは何気なく聞き返した。

 そのまま二人は作業しながら、話をしていく。

 「…あぁ、幼い頃にあったよ。…今でも覚えていて、あれは同じハンターだった父親の仕事道具の刀で遊んでしまった時だったかな。…」

 「だとしたら、怖いのは当たり前よ。…こればっかりは、何度も何度も練習して慣れて行くしかないの。…。」

 「そうなのね。…。」

 「うん。…だったら此処にいる間は、いくらでも練習していいから、頑張れば良くなるよ。」

 「…うん。…ありがとう。」

 とアニタは最後に礼を言うと、辿々しくしながらも、残っていた幾つかの野菜の下拵えを、問題なく済まていく。同時に深い安堵の溜め息を吐き、口元に笑みを浮かべながら感極まった表情となった。

 サーラは視線を食材に向ける。

 それは切り揃えた見本と比べて不格好だった。だが最初に、アニタが包丁を握った時よりも仕上がりは良くなっていたようだった。

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