第32話 サキ

 翌朝、俺たちは着替えると早めの朝食を済ませた。エリスは同じ部屋で着替えていたが、俺はあまり気にしなかった。彼女は奴隷だからそんなことに恥じらいはないのだろうか?でも、背中を向けて着替える姿はなんとなく美しく見えた。彼女の後ろ姿は、顔を見たくなるほど魅力的だった。でも、顔を見たらがっかりする。彼女からそのことをよく言われていた。だから、俺に対し必要がない限り後ろ姿しか見せないようにしていた。本来奴隷が主人の前に出るのは戦いの時の盾役や人混みを掻き分ける時だが、エリスは目を汚さない為にそうしているのだと言っていたが、彼女の精神安定の為にそんなことは気にしなくても良いとは言えなかった。


 俺たちは宿を出てギルドに向かう。朝の光が打ち合わせ室を優しく照らす中、俺とエリスは昨日の受付嬢と自己紹介を交わした。


「改めてタケル様の専属となりますサキです。18歳で恋人はいませんわ。精一杯サポートをさせてもらいますので宜しくお願いします」


 サキは深々とお辞儀をしたが、明るい中で見るととんでもなく美人だった。恋人がいないアピールもあって、俺のテンションは上がった。この女性は俺の恋人になるかもしれないと思い新たない生徒の出会いに心が踊る。サキは俺の専属担当として、ギルドの仕組みや依頼の受け方などを教えてくれる。冒険者活動のサポートをしてくれる。至れり尽くせりで言葉が出ない。

 あのギルドマスターは威圧で俺を試すなんてけしからん!と思ったが、評価を見直さないとな。


「うん。新人冒険者に専属をつけるなんてよくあるのか?」


 俺はそう聞いてみたがサキは笑って答える。


「タケル様は特別ですから。あなたの実力はギルドでも評判になっていますし、タケル様の可能性を信じています」


 サキは俺の手を握ったが、彼女の手は女性らしく柔らかく小さかった。しかしサキは俺の手に興味深い表情を浮かべた。異性としてではなく、俺を知る為に調べている感じだ。


「タケル様は弓をやりこまれていますか?」


「何故そう思う?」


「ええ。貴方の手には剣タコが無いですけど、アーチャー特有の筋肉のつき方をされていますから」


「ええ。剣は扱えませんが、弓に関しての腕は誰にも負けないと自負しています」


 サキは微笑んで頷いたが、その目は俺のライブラリーカードを見ているようだった。


「ふふふ。それであのステータスなのね。それでは自己紹介が終わりましたけど、私がタケル様の専属をさせて頂くと言うことで良いかしら?」


 サキは俺のライブラリーカードを見てから、妙に嬉しそうに言い、彼女の目に何か光るものを感じたが気にしなかった。


「うん。問題ない」


 ギルドの打ち合わせ室で改めて自己紹介が交わされたが、受付嬢はサキと名乗った。サキは端的ながらもまずは仕事に忠実な態度を見せ、その美貌に惹かれたが、それ以上に仕事ぶりに信頼を置いた。


 ただ、冒険者登録は奴隷には行われずやはり物扱いだ。サキは奴隷に対して卑下た扱いはしないも、ルールに従うしかない。それに使い潰される奴隷と仲良くなっても後が辛いと知っているから、必要以上にエリスに接しないようだ。エリスはそれを悟っているのか、サキに対しては無言で頭を下げるだけだった。これらのことはエリスから聞いていたから想定内だ。


「まず盗賊の査定からで、査定に時間がかかっているの。私としては速やかに対応したくても、こればかりは…」


 サキは軽いため息を吐いたが、美人のため息は絵になるなと俺はほっこりする。彼女は俺に気があるのか無いのか気になるがそれは後回しだ。


「分かった。手持ちがあるからしばらく問題ない。それよりギルドの仕組みについて知りたい」


 サキは頷くと説明を始め、俺とエリスはギルドのシステムについて分かりやすい説明を受ける。


「ギルドでは冒険者はライブラリーカードを通して、魔石の決済や報奨金の受け取り、さらに依頼の受注などを行い・・・」


 よくあるありふれた冒険者ランクの説明もあった。Fから始まり、E,D,C,B,A,Sまである。あくまで魔物に対処する比較のためのランクで、一つ上のランクの依頼までが推奨されている。以外に思ったのはあくまで比較の為のランクであり、ギルドはランクに縛らない。指名依頼や依頼主が冒険者ランクを指定する時、パーティー員募集の時に役に立つ程度だ。別に新人がAランクの魔物の討伐を受けてもよいが、普通は間違いなく死ぬから自己責任で受ける依頼のランクを選ぶ。


 ダンジョンがあり、そのダンジョンによって階層ごとの推奨ランクが違い、大抵はダンジョンの入り口に各々階層の推奨ランクが記載されている。冒険者は倒した魔物の魔石やドロップしたアイテムを売って生計をたてる。


 また、奴隷は冒険者になれないため、ギルドの依頼も受けられないし、魔石も換金できない。奴隷は主人の許可がないとダンジョンに入ることもできない。


 俺はそのシステムに興味を持ちながらも、早く現金化できる魔石が必要だと、内心で急いでいた。俺は盗賊の査定が終わるのを待ちきれなかった。エリスは俺の横で静かに座っていたが、説明に集中していて俺は彼女のことをあまり気にかけていなかったが、黙って説明を聞いていた。


 サキは最初こそ俺に対しツンデレのような態度をとっていたが、彼女は俺のライブラリーカードにあるパラメーターを見た辺りから、俺に関心を示し始めたようでグイグイ来ている気がする。ギルド職員としてなのか一人の女性としてなのかが気になる。それは俺の自意識過剰か?

 ギルドにある特殊な魔道具にライブラリーカードを通すとパラメーターが見えるのだ。


 それで人外としか言えない俺に興味を持ったようだが、俺の興味はこれからの生活に向いており、パラメーターを見てからのサキから向けられる視線に気が付く余裕がなかった。もちろん美人と良い関係になれたらなと思い、容姿や初期の応対に対する第一印象は良かった。


 サキはかなりの自信家で、口説いてこない俺に対し『絶対に好きって言わせてやるわ』と心に誓っていたが、俺に知る由もない。

 彼女の心の声を聞くことはできなかったが、彼女の目には何か企みがあるように見えた。俺は彼女に警戒心を持ち始めたが、それでも彼女の美しさに惹かれる自分もいた。

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