第28話 それが何か?
何故かドワーフのギルドマスターが怒りに震えており、俺とエリスに向かって威圧的に怒鳴った。
「お前ら、ギルドをなんだと思っている?」
俺は彼の言葉に動揺しなかった。
俺たちは悪いことをしたつもりはなかったし、そめそも商隊を襲っていた盗賊を倒しただけだ。それがなぜギルドマスターと面談し、怒鳴られなければならないのか理解できなかった。
「どういうことだ?」
俺は冷静に尋ねた。
ギルドマスターは俺のライブラリーカードを机に叩きつけた。それは俺がこの世界に来た時には既に持っていた不思議なカードだ。
名前や称号、ステータスなどが書かれているが、俺はこのカードがどういうものなのかまだよく分かっていない。
「お前らはギルドに登録せずに、勝手に賞金首を狩ったんだな?それも、通りすがりに悲鳴が聞こえたのでそちらに行ったら盗賊が商隊を襲っていて、弱そうだから倒したと言っているんだな?ハイそうですかと信じろと?」
ギルドマスターは俺の行動を非難した。俺は彼の言葉に納得できなかった。俺は商隊の護衛として雇われたわけではない。ただ、困っている人を助けたかっただけだ。残念ながらエリス以外の商隊の人たちはすでに殺されていたし、そもそも盗賊が賞金首だとは知らなかった。
怒鳴られるいわれはないぞ!
「それが何か?」
俺は反論したが、ギルドマスターは俺の態度に怒りを募らせた。
更に俺に対して厳しい目を向け、俺の行動を許せないという態度を見せていた。彼は俺たちに何か言おうとしたが、その前にドアが開いて、いつのまにかいなくなっていた美人受付嬢が入ってきた。
「ギルドマスター、お茶を持ってきました」
彼女は笑顔で言った。良いなあ!こんな美人さんが彼女だったら毎日が充実するんだろうなぁ。
彼女はギルドマスターの机にお茶を置いたが、その時に俺たちの様子に気づいたようで、隣にいるエリスの顔色を見て驚いたように言った。
いや、火傷から分からないから震えているのに気が付いたのかな。
「大丈夫?震えているわよ。お茶を飲んで落ち着いて」
彼女は俺たちに、いやエリスに心配そうに声をかけた。俺は彼女に何と答えればいいのか分からず押し黙る。エリスは俺の手を握りしめて、怯えた表情で彼女を見たが、受付嬢はエリスの様子にさらに驚いた。
そさかてギルドマスターに目を向けて、怒ったように言った。
「ギルドマスター、あなた、何をしてるの? この子怖がってるじゃない!そんなだから受付の子達から避けられるのよ」
彼女はギルドマスターの頭を軽く叩いて注意した。ギルドマスターは少し恥ずかしそうに「すまんすまん」と言って俺たちに謝罪した。
「すまんな、ちょっと厳しすぎたかもしれん。お前らは悪気はなかったんだろうが、ギルドのルールは守らなきゃならんのだ。お前らは知らなかったのだろうが、ギルドに登録せずに勝手に賞金首を狩ったんならそれはルール違反なんだ」
ギルドマスターは俺たちに説明をし始めたが、俺は彼の言葉に納得できなかった。だが、口を挟むことはできず俺たちに厳しい目を向けたまま続けた。
「で、お前は商隊を助けようとしたんだな。それは評価する。だからお前らにはギルドに登録する機会を与える。これで賞金首を狩る権利も得られるし、ギルドの便利な施設も使えるようになるぞ。ただし、ギルドのルールは守ってくれ。ギルドの名誉を汚すようなことがあれば、厳しく罰するからな」
俺たちに警告したが、そもそもギルドに登録しに来たんだが、まあそれは指摘しないでおこう。俺はともかく、エリスは怖がっているから、ハイハイと言うことを聞いておき、今は彼に礼を言うことにした。。
「分かりました。ありがとうございます」
彼は俺たちに笑顔で頷くと態度が一変して俺たちに優しくなったようだった。彼は俺のライブラリーカードに興味を持ったようでそれについて聞いてきた。
「それと、お前の持っている称号はこの世界にはないものだ。お前は一体・・・何者なんだ?」
俺はその質問に答えることができなかった。俺は自分がどこから来たのか、どうしてこの世界にいるのか、何故か記憶を失い自分のことも殆ど分からないことを正直に話すことにした。
「俺は多分別の世界から来たんだと思う。一番古い記憶は数日前のことで、ダンジョンのボス部屋?でドラゴンと対峙するところだ。死の恐怖の中、俺のギフトが発動して多分倒した。そして意識が遠退き、気が付いたら山の中だったんだ」
その言葉にギルドマスターは驚愕した。彼は俺の言葉が本当か嘘かを見極めようとしたが、俺の目には嘘がないことを感じた。彼は俺の言葉に興味を持ち、詳しく聞くことにしたようだ。
「別の世界から来たというのか?それはどういうことだ?お前は異世界転移という現象に巻き込まれたのか?それとも何かの魔法によってこの世界に召喚されたのか?それと数日前にこの町すら覆い隠す巨大な謎の魔法陣が出現し、その下にいた魔物のすべて死んだと聞いているが、お前の仕業なのか?」
そこから俺は正直に答えた。俺は自分の名前も覚えていないし、この世界に来た理由もわからない。ただ、シズクとリナという女性の後姿がぼんやりと思い出されるだけだ。俺はこの世界とは明らかに違う世界にいたのだということは確信している。それと気絶したから俺がやったのか、他の者がやったのかはわからない。俺は自分の身に起きたことを説明するのに苦労した。
後から分かったが、俺がただ者じゃないと思い圧迫面接を試みたのと、ライブラリーガードに表示される中に称号はない。ただ、ギフト持ちはかなり希少で、この町に一人が二人いれば多い方らしい。ギフト持ちなので隣国が異世界召喚をするという噂からかまをかけただけで、俺は見事に引っ掛かったんだ。
「それと、お前の言っている別の世界から来たという話だが、それについては少し調べてみる必要があるな。もしかしたら、お前はこの世界に何か重要な役割を果たす存在なのかもしれん」
彼は俺のライブラリーカードに興味深い表情で見つめた。
「そうですか?でも、まあは元の世界に戻るつもりはないなぁ。この世界で何かするつもりもないし、そんは大した者じゃないと思うんだけどなぁ。折角なので色々なものを見たりして面白おかしく過ごしたいだけなんだ。後はこの子の首輪を外してやりたい」
俺は正直に言った。
俺は元の世界に戻る必要はないと思ったからだ。
「そうか。それはお前の自由だ。ただ、この世界に来た理由があるとしたら、それを無視するのは危険かもしれんぞ。この世界にはお前が想像もつかないほどの危機が迫っている。お前のギフトが何かの鍵になる可能性もある」
ギルドマスターは深刻な口調で言った。
「危機?何の危機?」
俺は少し不安になった。
「それについては今は言えん。だが、お前はそのうち知ることになるだろう。お前のギフトが発動した時、お前は何かを見たのか?」
ギルドマスターは俺のギフトというものについて聞いてきた。俺はウィッシュというギフトを持っているが、よくわからない謎ギフトだ。
「見たというか、感じたというか…何か大きな力が俺を呼んでいるような気がしたんだ。それで気がついたら、この世界にいたんだ。ダンジョンの中で戦っていた気がするけど、ボス部屋の中に入る前の記憶が抜け落ちているんだ。そうだな満身創痍の状態でボス部屋にいて魔法陣が浮かんだと思ったら頭がくらくらして、次に目覚めたら破れてボロ切れになった服をまとい、山の中にいたんだ」
「なるほど。それは興味深いな。お前のギフトはこの世界と何か関係があるのかもしれん。もしかしたら、お前はこの世界の救世主なのかもしれんぞ」
ギルドマスターはタケルのライブラリーカードに期待の目を向けた。
「救世主?そんな大げさなこと言わないでくれ。俺は少し弓が得意なだけで普通の人間だし、そんなだいそれた存在じゃない。こんなことになったのも偶然だと思うぞ」
「偶然とは思えん。俺は偶然なんて信じない性分でな。お前は運命に導かれてこの世界に来たのだ。お前はこの世界の歴史を変えることになるだろう。その時が来たらお前は選択をしなければならん。この世界を救うか、見捨てるか。その時、お前は何をするだろうか?」
その問いに俺は答えることができなく、自分の運命に不安と疑問を抱いた。
エリスはタ俺の顔に不安の色が見えたのかそっと手を握った。
「タケル様、私もタケル様と一緒にいたい。こんな醜女でも叶うならこの世界で一緒に生きてタケル様を支えたいです」
エリスは俺に優しい言葉で告げ、その言葉に微笑んだ。エリスの瞳に自分の姿を映し、ギルドマスターの言葉に不安になるも、それは吹き飛んだ。彼女がいればなんとこなるかなと。
「エリス、ありがとう。君は本当に優しいね。君と出会えて良かった。」
俺がエリスに優しい言葉で答えるもこの世界での未来に不安はあった。だが、ギルドに登録して冒険者として活動をし始める決心をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます