第17話 不安
【リナ視点】
町の石畳を踏みしめながら、私たちは運命の風に翻弄される船のように過酷な試練へと導かれていた。
背後からは絶えず魔物と城の追手たる兵士たちの迫る足音が聞こえてきた。森の深淵からはその重厚な響きが私たちの心臓の鼓動と重なり、恐怖を倍増させていた。
「お願いだから今は動揺しないで黙ってついてきて!私が・・・必ず守るから」
天川先輩が新たに召喚された私の後輩である、沙代里と桃香に向けて力強く声をかけた。
先輩の小さな背中は、そこにいる私たち全員の希望の象徴のようだった。
一切の迷いも振り返ることもなく、ただ前だけを見据えていた。
特にこの世界の事情が何もわからない後輩たちは天川先輩の言葉に力を得て歩を進めていた。
「天川先輩、でも、どうして私たち・・・」
沙代里が不安げにつぶやくと、天川先輩はきっぱりと言葉を遮った。
「今は逃げることだけを考えなさい。命があっての物種よ」
本来の天川先輩は虫も殺せぬとか、この人怒ることあるのかな?と思うほどたおやかでレディーで、誰に対しても優しく聡明で優しそうな美人。確かに顔自体は変わっていないけど、目の鋭さが違っているの。
何を経験すればああなるのか分からないほどの殺気が漏れていて、もしもそうと知らずに睨まれたら多分ちびる位はする、それほどだわ。でも女の私から見てもどきりとするほど美しい。
その時、予期せぬタイミングで剣を抜いた兵士が現れ、私たちは恐怖に凍りついた・・・
でも天川先輩だけは動じず、兵士を制した。無用な殺生は避けていたけど、残念ながら戦いは避けられなかった。兵士が問答無用に振った剣の一撃を最小の動きでかわすと、天川先輩の剣が兵士を二分したの。
驚いたことに首を斬り落としたのではなく真っ二つ、それも頭から股にかけて斬ったからよ!
こんなこと出来るんだと、血を吹き出しながら左右に倒れる死体を目にしても何も思わなかった。
後から思い出しても、普通悲鳴を上げたり吐くわよね・・・
私は普段の自分を押し隠し先輩の強さに触れ、内心の恐怖を抑えつつ弓を固く握り魔物に備えていく。
「天川先輩、さっきの・・・」
私がそれを口にすると、天川先輩は断固とした態度で私を見つめた。
「考えなくていい。今は命を守ることだけを考えなさい。余裕があるならあなたの後輩を守りなさい」
私は気圧されて頷くことしか出来なかった・・・
私たちは町を抜け、知らないうちにナルクの森と言われる危険なエリアへと向かっていた。
森から溢れ出る魔物たちが町に混乱をもたらし、兵士のいない手薄なところを進む形で私たちは森へと誘導されていた。
「ねぇ、これってもしかして、魔物が・・・」
そう私が口にすると、天川先輩は落ち着いた声で答えた。
「ええ、近くにダンジョンか魔物の生息地があると思うわ。町がこの様子だから、きっと魔物との戦いが激化しているのよ」
兵士たちは魔物に邪魔され、中々私たちに近付けないようね。天川先輩とみっちゃんはその隙をついて私たちを兵士から逃れられそうな場所へと導く。
「こっちが手薄ね」
みっちゃんが小声で私たちに告げた。兵士たちが意図して私たちを町から出し、森の方へと誘導していることに気づかないまま危険な森の中へと進んでいたけど、誰も気が付かなかった。
森が見えた時、皆あの森に入りさえすれば兵士から逃げられると思ったの。
魔物相手に戦うのは問題なかったけど、正直人相手に戦いたくなかった。
そんな中、私は魔物に矢を放ちながらある疑問を口に出していた。
「んっ?何これ、本来の矢じゃないわ。どうして素材が変わるの?」
「魔物が死んだ時に刺さったままの武器は時折進化するからよ」
独り言だったのだけど、天川先輩に聞こえていたようで天説明してくれた。
町から数キロも離れないところにある森に入る頃にはどうやら兵士を撒いたようで、魔物が一旦途切れたのでこのタイミングで小休止をしたわ。
天川先輩がアーチェリー部の私たちに警戒を頼んできた。先輩たちが持っている武器は倒されている兵士や、私たちが倒した兵士が持っていた槍や剣が4本のみ。ほとんどの人は何も持っていなく、これから武器を皆に配ると意味不明なことを話したの。どういう意味?武器なんて殆どないわよ!?
さっきから皆に拾わせていた魔石を天川先輩のところに集めていたわ。先輩が魔石を手に取ると直ぐに霧散して消えていくの。
そうして集めた魔石が全て消えると、スマホを操作しだしたのだけど、驚いたことにスマホの操作と連動?してその手にショートソードというの?とか槍等の武器などが現れたの。
そうやって天川先輩が手に入れたアイテムや武器を私たちに配っていく。
「生き延びたければ武器を取り戦いなさい。悪いけど戦えない者を守ることは出来ないわ」
皆黙って武器を手に取ったわ。先程までの光景に身を守る武器がないのは恐怖以外の何者でもないわ。
私たちアーチェリー部の3人も天川先輩から包丁ほどの大きさのナイフと剣帯を渡されたわ。弓矢だけでは【アーチェリーと訂正するのは今は止めておく】接近されたら終わりだと、タケル先輩がチョイスしたのと同じというナイフを渡してくれたの。
魔石が足りずレアリティーが低い武器を配るのが精一杯で、私たちは魔物を倒すたびに新しい【強力な】武器を手に入れたり、生き延びるための資源を得ていたわ。
それは私たちが逃れようのない運命に立ち向かっている証だった。
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