第13話 先輩がいない
【リナ視点】
私は朝食に集まった先輩たちの顔を見回した。陽光が城の石作りの窓から差し込み、彼らはこちらを覗き込むような朝日を背にしていた。にぎやかな笑い声や会話が飛び交っていたが、私はどこか落ち着かなかった。何かがおかしいと感じたの。
そうだ、タケル先輩がいない。彼はいつも私の隣に座っていたのに、今日はその席が空っぽだった。他にもいない人がいる。先輩とシズクさん以外に二人、計4人いない。全員揃ったはずなのになぜ?
「タケル先輩がいない!・・・他にもいない人が!・・・」
私は思わず声を上げた。すると、部屋にいた先輩たちの視線が一斉に私に向いた。部屋の空気が一瞬にして変わり、喧騒が止んだ。
私の前に座る教育実習生のミヤちゃんがすぐに点呼をした。すると、やはりタケル先輩と天川先輩を含む計4人が不在だと判明した。そのことが一部の男子の間に重くのしかかった。
特に男子生徒の間でざわめきが大きくなった。それは美人で学校1番と言われる人気の天川先輩がいないことによって・・・彼女は多くの男子の憧れの的だったからだ。
「どうしてだ、なぜタケルはともかく天川さんが?」
疑問の声が飛び交った。私はその声に怒りを覚えた。【タケル先輩はともかく】とは何だ。ふざけんじゃないわよ!タケル先輩は私にとって大切な人だ。彼は私に弓の技術を教えてくれた師匠であり、良い先輩であり友達でもありライバルでもあった。先輩はギフトに頼らない弓の腕を持ち、私たち召喚者の中で最強だった。先輩がいないことは私にとって大きな損失だった。
城の中でも囁かれていた噂に、一部無能者が粛清されたと、気づかぬふりをしていた一部の者が私の言葉を聞いて身をすくませる。私は彼らを見下した。彼らは自分の身を守るために、仲間を見捨てたのだ。彼らは勇者としての資格がない。
しかし、ある者は立ち上がると言い放った。
「彼女たちが有能な能力を持ち合わせていないってだけで、こんな酷いことをするなんて許せない!断固抗議すべきだ!」
声に非難の色を強く含ませていた。私はその声に賛同した。でも私の先輩は無能じゃないと突っ込むのは今は我慢しよう!さすがの私でも空気は読めるわ。
彼は基本的に正しい。彼女たちも私たちと同じ召喚者だ。彼女たちにも生きる権利がある。彼女たちを無能と呼ぶ権利なんて誰にもない。
すると、突然王女が食堂に登場し、私たちに語りかけた。
「ご説明いたしますわ。勇者の数には上限があります。そのため優れた能力者を召喚する必要があるので、能力が低い方にはご退場頂くしか無いのです。国家存亡の危機なのです!」
「だからといって、無能と呼ばれる生徒たちを―」
王女は手を上げて制止し、タケル先輩たちを危険極まりないダンジョンに送り込んだことを認め、その死を前提に新たな召喚を始めると宣言した。私は激高した。
「無能だと言い放つ権利なんて、誰にもないわ!彼は私にとって弓の師匠なのよ!弓の腕は弓聖である私なんかよりも上なのよ!ギフトにない技術を持っていて私達召喚者の中で最強なのよ。それなのに馬鹿なことを!」
私の怒りに呼応するように、城の者たちにも波紋が広がった。
更に昨夜、召喚された男子生徒たちとメイドに関する話が一部の生徒たちによって暴露された。
男子の部屋に性接待目的で美人メイドを送り込み、王女に忠誠を誓えばもう一人、活躍次第では褒美として都度美女や金品を与えるとしていたのだ。
その魅惑的な誘いを断った先輩が話し出した。
その事態に怒りの声が集まって喧嘩が始まりかけたその時、教育実習生のみやちゃんが介入した。
「こんな時こそ、我々大人がしっかりとした対応を見せるべきです!みんな落ち着きなさい!まずは冷静に話をしないと何も始まらないわ!先生の話を・・・」
みやちゃんは生徒たちの前に立ちはだかり、不条理に立ち向かうよう促そうとした。しかし、それもむなしく担任の教師は既に王女に屈していたよ。みやちゃんが担任の先生の方を向くと目を逸らして俯いた為にそのことが発覚したの。エロオヤジめ!半ば裏切られた形となった先輩のクラスの者たちは王女の存在そのものを拒絶し、昨夜メイドたちを送り返した生徒たちに称賛の拍手が送られたの。もしタケル先輩がいたら断ったよね?
異常事態に一人になりたかった者、彼女がいるから浮気になると断った者、胡散臭いと警戒した者と、男子のうち6人はメイドを突き返していたの。少ないけど漢の鏡ね!
逆を言えば召喚された男19人のうち11人が屈していたの。男ってしょうもない生き物だとは思うけど・・・不潔!先輩と大違いね!。
それにしても3人の男子が死地に送られたこを勘定に入れると、実に6割の男子が下半身を握られているわよね。それってちょっと多くない?何?そんなものどころか、少ないくって?はぁぁ・・・男って・・・
そして王女が新たな召喚について語り出す中、皆はどう戦いどう結束するのかな?その決意が今後の運命を大きく左右することとなるよね。 王女は私たちの疑問を一蹴すると、冷たい声で話し始めたわ。
「生死の確認は召喚をすれば分かります。4人を召喚すれば彼らは全て死んでいることになります。あり得ませんが、もし召喚が失敗したり4人未満であれば生き残っている可能性があります。これから新たに召喚を行うところでした。全員、召喚の間についてきてください。」
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【リナ視点終わり】
彼ら彼女たちの前に広がる未知の運命。それはこれから築く絆と互いへの信頼によって大きく変わっていくことになるが、今はまだ一部の者のみ、しかも漠然としか感じていない・・・
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