惚れて通えば千里も一里

藤いろ

第1話

今日も疲れた。残業は基本でこれでも給料は足りなくて副業を割と真面目に考えなければいけない。疲れとストレス以外に何があるのかこの世の中。

そんな私、九沢九士郎(クザワ クシロウ)40歳はしがないサラリーマン。特別役職はなく、社会に入って知ったのは嘘と建前と未だに会社って昭和だなって事だけ。

特に趣味もなく、結婚してない家族もいない。何の為に生きているのか・・・・。

そんないつもの日付が変わっての帰り道。コンビニに寄って夕飯の弁当を買わなきゃ。

もうストレスでガッツリ食べたい気分。年の割に胃は強いんだよね。

コンビニに入り、そこに奇跡が!

300円で焼肉とハンバーグ、ご飯も負けない量入ってる超カロリー弁当!!

しかもラス1!これは買うしかない!!

と手に取ると、もう一つの手が。

「え??」

「あっ」

もう一つの手の持ち主と目が合う。

そこにはダボッとしたフード付きのピンクのラインが入ったジャージを着た美少年。

「あの・・・・」

美少年が言う。

「離してくれませんか、これ僕が買うんで」

え~!買うの!?全然似つかわしくない!君みたのはケーキとかタピオカとかのが似合うよ!そもそもこの量食べきれるの!?

「フッ似合わないとか食べきれるのかとか思ってるでしょう?」

心を読まれた!?

「ええ、ええよく言われますし思われますよ!でもしかし敢えてなんです!・・・・僕はね、いっぱい食べて大きく強くなりたいんですよ!!」

そ、そんなお父さんが小さい息子にいうような夢を!

こんなに綺麗なのに!

「目標はなかやまきんに君です!」

「だ、ダメだ!き、君はそのままが良い!!」

私はとっさに弁当を奪い取りとんでもない事を言っていた。

「・・・・・・」

「・・・あっあのそのどういう意味かというと!その・・・・」

「~~~~~~~また言われた!わ―――!!」

何と美少年その場で泣き出した!えっえっどうすれば良いの!?わ、私のせいか!?

「どうしました!?」

店員さんが駆けつけてくる。ヤバいヤバい!

「あっ連れがちょっと!あ、あの!これくだい!!」

大盛り弁当を買い、うずくまりグスグスしてる美少年をかかえ店を出る。

美少年はめちゃくちゃ軽かった。

美少年と弁当を持ち公園へ。

「グスグス・・・」

「あ~ご、ごめんなさい。変な事言って・・・・」

「グス・・・大丈夫です。僕の方こそすみませんでした・・・・さっきもちょっとありまして・・・・溜まってたものが一気に出てしまいました」

「あーあるよねーそういうの!ストレスの限界っていつ来るか分からないし!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙が気まずい・・・・そりゃそうだ、こんなオッサンにあんな事言われたらどうやっても気分良くなるもんじゃない。

「お詫びにこのお弁当あげるから!・・・じゃあえっと頑張って!」

はぁ~情けない・・・・こんな言い方しか出来ないなんて。無駄に年取るってこういう事なんだろうなぁ。

そんな事を想いながら立ち去ろうとした時。

「僕・・・そんなにこのままが良いんでしょうか?」

「え?」

「皆そう言うんです。僕は可愛いからとか綺麗だから筋肉つけちゃダメとか親も兄弟もクラスでも・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・君は君がやりたい事をやるべきだ」

「え?」

「さっきはあんな事言ってすまない。君は本当に誠実で真面目で優しい子なんだな。

家族友達の為に悩み、夢も持ってて芯もある。正直羨ましいくらいだよ。私には何もないから・・・・」

私は美少年の隣に座る。

「でも、君の見た目だけ気にする人の話は聞く必要はない。君はこんなに心痛めてるんだから。好きな事をするべきだ!周りが何か言ってきても私が味方するよ!オッサン一人じゃ何の戦力にもならないかもだけど、ハハッ」

「~~~~~!あ、ありが、ありがとうございます!!うわ~~~ん!!!」

「え~!?ど、どうしたの!?」

さっきよりすごい涙!大口開けてめっちゃ泣いてる!

「今まで皆見た目ばっかで!グスッ誰も僕の気持ちの事なんて気にしてくれなかったから~~!」

本当に溜まりに溜まってたんだな・・・・。今の子は私の時代より人間関係が複雑らしいからなぁ。それで自分のしたい事まで否定されたら辛いよな。私の時と全然違うんだなぁ。

「うわ~~~~ん!!!」

「・・・・少し控えようかぁ~もう夜中だし~」

「うわ~~~~ん、おじさん~~~!!」

「は、え、わ、私!?」

「好き~~~~~!!!」

「え!?なんて!?」

「大好き~~~~~!!!」

「何で!?どういう意味!?」

「恋的な意味~~~~!!!」

「・・・・・ハァ!?」

思った。今の子は本当に私の時と全然違う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る