第16話 花言葉1「優しさ」



目が眩むほどの誘惑を交わせないほどに兄のことが好きだった。


兄に抱いてもらえるなら何を切り捨てたって、批判めいた視線を向けられたって構わないとさえ思っていた。


「清子」

「……っ」


器用に下着を外され露わになった膨らみを兄の大きな掌が触れる。そのちょっとした刺激がダイレクトに脳を揺さぶった。


それと同時に全く自信の持てないお粗末な胸を兄に見られているという羞恥が兄の手を払い除けた。


「何」

「は、恥ずかしい……から」

「そんなの関係ない」

「でも──」

「すぐにそんなこと考えられなくなる」

「!」


兄は私の口をキスで塞ぎながら胸を弄び始めた。固くなり始めた頂を指でこねくり回されて恥ずかしさは最高潮になった。


(やっぱり……ダメ!)


実際に行為に及ぶ段になって私は猛烈な罪悪感と羞恥心に襲われた。


「~~~やっ!」

「!」


力の限り兄の体を押し退けた。その瞬間、兄は驚きとも呆れともいえない表情を浮かべた。


震える体を奮い起こして兄の下から這い出て部屋のドア付近でへたり込んだ。


「清子」

「やっぱり……ダメ」

「……」

「今は──ダメ」

「今は?」


裸の上半身を両腕で隠しながら兄を見つめた。


「お兄ちゃんが私のことを好きじゃないのに……抱かれたくない」

「……」

「妹として好きなだけじゃ嫌なの」

「……」

兄妹きょうだいで愛し合おうとしているのに……罪深いことをしようとしているのに……それなのにお兄ちゃんがそんな気持ちじゃ罪を犯す価値がないよ」

「罪を犯す価値……」


そうだ。今、私たちは人として犯してはいけない禁忌を行おうとしている。そこに揺るぎのない気持ちや決心、決意と覚悟といったものが無いのに突き進んではいけない気がした。


(私、だけが)


私だけが好きじゃダメなんだ──!


「……だから……出来ない」


私の言葉を最後に部屋の中は静寂に包まれた。


顔を俯かせている状態では兄の表情が窺えなかった。


(お兄ちゃん……怒っている? 呆れている?)


よくないことばかりが頭の中をぐるぐると回っていて息をするのも苦しくなった。


しばらくすると部屋の空気が流動した気がした。そしてすぐに肩から温もりが降って来た。


(え……)


驚き、少し顔を上げると私を避けてドアを開けて出て行く兄の脚だけが見えた。


そしてドアは静かに閉められた。




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