第三話 最強ギャルは踊りも上手いし笑顔も可愛い。

僕は次の日から、ほぼ毎日、玩具屋に通うようになった。


けっ、決して古賀さんと会えるのを楽しみにしている訳じゃない。と口では否定するものの、2週間程、通いつめた結果、彼女に会えなかったことが、気がかりだった。やっぱり、僕は古賀さんと会いたいのかも...


いやぁ違う違う。僕はただプレミア品をだな...


とそんな以下永遠無限ループの脳内会話をしながら、下校していると、玩具屋に着いた。


そして、そこには座椅子に座りながら何かを口にしている古賀さんがいた。


い、いたー!古賀さんだー!


しかもお菓子ボリボリ食ってるー!


実に2週間ぶりの再会に僕は、テンションが上がってしまう。胸を躍らせ、そして、またもや心臓が早鐘現象になりながら、店に入っていった。


「お、中森くん!おひさ!」


古賀さんは僕に気づくと、軽く手を振った。


「あ、うん。久しぶり...えっとそれは?」


「あーこれ?カリカリ梅とおまい棒。美味しいよ、食べる?」


「カリカリ梅かぁ...おまい棒は僕も大好きだよ」


と僕が言うと、彼女はおまい棒だけでなく、カリカリ梅もくれた。ギャルにしては、渋いものが好きなんだな。


「カリカリ梅が好きって意外だって思った?普通に美味しいんだけどな」


「僕、梅、あんまり好きじゃないんだよね」


「えー、美味しいのに。ウチ梅干し大好物だよ。なら中森くんは何が好物なの?」


「好物は、しめ鯖とかしじみ汁とかおまい棒...」


「いや、梅干し並みに渋いやーん!」


「もしかして、その渋さ食べ物だけじゃなくて、落語とか将棋とかも趣味だったりする?」


「いや、流石にそこまでは」


「ふーん、やっぱりプラモデル作りが趣味なの?」


「いや、渋いよりの趣味で言ったら、、たまーに美術館に行くことかな」


「え!ウチも好き!」


古賀さんは、顔を輝かせて、ワントーン声を上げてそう言った。


「いいよね~美術館、ウチも休日なんか浸りたい時に一人で行くんよね~。エモいっていうか」────「中森くんも一人で行くの?」


「う、うん」


「ふーん、中森くんは普段友達とどこで遊ぶん?」


「えっとぉ〜...あんまり遊びに行かないかな」


「あ、もしかして、」


僕は次の言葉を予想してしまいギクッとする。


「インドア派だったり?」


「あ、うんそうなんだよー、僕の趣味アニメとか、ゲームとか、プラモデルでほぼインドアって言うか、じゃ、ぎ、逆にここここ、こここここここ古賀さんは、ととととと、友達とかいるの?」


初めて古賀さんと呼んで、ニワトリみたいになってしまった。


ななななな、何を言っているんだ僕は!しかも自分から墓穴を掘ってるじゃあないか!

普通ここは、『古賀さんもインドアなの?』だろうが!何をテンパってノンデリカシーな事口走ってんだあああああ!!!!!!!!無いとは思うけどもし、古賀さんに友達がいなかったら、嫌味みたいにしか聞こえないし、最悪な空気になってしまう、、、


「あはは、逆にって何?もしかして、中森くん、友達いないの?ウチは全然友達いるよ、ふふ」


古賀さんは無邪気に笑いながら、冗談めいたようにそう言った。


「あああえっとあぁ...」


「ごめん。なんか面白くって、いいよじゃあ私が友達になるよ」


「えっと、ありがとう?」


おいおいいいのか僕、そんな簡単に友達になって。人の言葉を簡単に信用して、裏切られて、中学生活を棒に振るったんじゃないか。そして今でもそれを引きっているじゃないか。それも他校の、あんな派手なギャルを信用していいのか。簡単に友達になっていいのか!でも、彼女は最強までなくらいに優しいし、裏もないように見えるし、分からない、分からない。


「はい握手」


と言って、彼女は急に僕の手を取った。


「これでもう、正式な友達だね!」


そう言って、僕の手を取ったまま、裏表のないような笑顔を浮かべている。僕は正直、惚れそうになったというか、もう惚れているかもしれない。


「あ、そうだ!友達になったついでなんだけど!」


ええ、まさかこの流れは、カツアゲじゃ、、、


「ちょっとやること思い出した!公園まで着いてきて!」


「やる、、、こと?」


「ほ、ほら早く!」


そう言って、彼女は僕の手を引っ張った。どうやら公園へ連れていくつもりらしい。


ってか、今!?唐突に!?どうして!?


最強ギャルが“やること”って一体、、、?


殺ること、、、じゃあないよな?



玩具屋から、歩いて数分、そこそこ広い池山公園があった。


公園の遊具を見て、僕は、懐かしい気持ちになった。


「何見てるの?」


「いや、あのジャングルジムとか」


「あー、懐かしいよね。昔よく遊んだなぁ。中森くんも、遊んだ?」


ギャルも子供の頃は僕と同じなんだなとホッとする。


「うん。子供の頃、よく遊んでた」


「昔はウチがこんな風になるとは思いもしなかったな。中森くんは、昔どんな子供だった?」


「どんなって、普通のどこにでもいるような子供だよ」


と言いつつ、少し違和感を覚える。そんな普通の子供だった僕がなぜ今こんな状況に至ってる。僕は少し道を踏み外したのではないか。


「ま、過去なんて振り返っても意味ないしね」


「まぁ、、確かに」


言葉ではそう言いつつも、僕はどうしても過去を引き摺り、思い返してしまうことが多かった。


どこで道を踏み外したのかを考え、その時どうすれば良かったのかを永遠と考える。いつも思い返されるのは、初恋の相手に勇気を出して告白した中学2年生のあの時だった。


「ところで、ここで何をするの?」


「それはこれー!」


と言って彼女はスマートフォンを取りだした。

その画面には、チックタックと書いてある。


「なんのアプリ?」


「これは、配信アプリのチックタックだよ!」


あー、チックタックか。

確か、動画を投稿したり生配信したりする今若者の間で流行してるアプリだよな。僕は入れてないけど。


「これで、踊ってみたとかをウチも投稿してるからさ。それを撮ろうと思って」


「つまり、僕にカメラマン役になれってこと?」


「そいこと!」


なるほどね。これはTheギャルって感じだ。


「ウチ、毎日同じ時間に動画上げてるんだけど今日忘れててさ、急遽ね。付き合わせてごめん!」


「いや、全然いいよ。えっとこう構えればいい?」


「うん、それで録画ボタン押してみて!」


古賀さんの言う通りに録画ボタンを押すと、ノリノリな音楽が急に流れ出して、彼女はリズムに合わせて踊り始めた。


僕は、カメラ越しだから、彼女の動きをまじまじと見つめることが出来た。


今までは、会話をする時も少し目を逸らしたり、俯いたりして彼女の姿全体を見たことは無かったけど、僕と同じくらいの身長であり、足も長く、スタイルが良さが踊り全体に際立っていた。


「ふぅ、よし。いいよー止めて」


「どう?上手く踊れてた?」


僕はうなづいて、古賀さんも満足したみたいだし、日も暮れてきた。もう帰るだろうなと思ったその時だった。


「じゃあ、次、中森くん、踊って?」


「ええっ」


古賀さんは、陰キャの僕に超陽キャのノリで無茶振りをしてきたのだ!


「今の音楽じゃなくてもいいからなんかテキトーに!大丈夫!編集で顔は映さないから!というか動画にあげるかもわかんないし」


いやいや、陰キャの僕にとって、まだまだ知り合って、日も浅い女の子の前で踊るなんて、、、


もしかしたら、この踊りを見て陽キャ連中とバカにする気なんじゃ、、、


色んなことを思って僕がグズグズしていると、


「しょうがないなぁ」


と言って、彼女は公園のベンチにスマートフォンを置いてから、僕の方へ近づいてこう言った。


「ならウチの真似して一緒に踊ろ?」


その後、またノリノリの音楽が聞こえ始め、その拍子に合わせて、僕達は踊った。



古賀さんの踊りを真似て、即興で踊ってみるが、僕は大の運動音痴だから、全然ダメで、なんかタコ踊りのようになってしまった。


「さーって、どんな風に取れてるかなあ」


「うわぁ、恥ずかしい」


「あははっ、面白いじゃん!いいじゃん!」


といって満面の笑みで笑う古賀さん。


まぁこの笑顔が見れたから良しとするか。


動画も取れたし、帰ろうかという流れになって、僕達は公園を後にしようとした。


よしこれでやっと帰れるな。と一息つく。何かデジャブを感じた。


「あっ!古賀さん!こんな所にいたんだ!」


「え?」

唐突の声に僕は振り向いた。


「あれ、君って、、、?」


その声は、聞いたことのある声で。


振り向く先には、見知った人の姿があった。


まさか、彼女とまた会うことになるなんて。


その声の主は、僕の人生に最大の影響を与え、僕が最も苦手とする人物だった。











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