4、弓道理論「離れの技術に正解なんてない、時には邪道もしかり」

 弓道をやっている人ならば、「離れ」について悩んでしまうもの。かくいう私もそうでした。それに、そもそもこの「離れ」という技術、実は何パターンもあると思っているのが私です。


「……へ?」


 ネットを検索すると、離れは◯◯が基本みたいな事が沢山あって、正直何が正解なのかよく分かりませんよね。

 だけども、私の考え方として、これだけは言える。


 問→離れのやり方、どれが正解ですか?

 解→離れの技術に、正解なんてない!


 ほい、毎度のごとく弓道教本は無視します。

 だってもっこす流だもの、なので。

 今回のテーマは「離れ」を研究するための理論、です!


 ここで流派の違いによる離れの違い、射形とかは無視します。だって文章量が爆発するし、道具の状態も分からないし。

 そもそも、抽象的ですが「良い離れ」とは道具の状態に大きく影響されますから。


「え……技術ではなく道具ですか?」

→継続して離れが上手い人は、意識して道具を調整していると思ってください。これはマジ。

 

 なので、離れを出すための基本として、以下の事を定義しておきますね。


1、会では弦枕の溝と、弦が直角に交わっているとする。

2、中仕掛けの太さは、弦枕の溝に潜り込まない程度の太さに調整しているとする。

3、ミツガケを使用する。

4、弓力に適合した矢を使用しているとする。


 ②の理由については別の会で書いてますから省略。で、私はヨツガケを使った事がないので、よく分からないから書けません。

 (先輩の話では、ミツガケとヨツガケは弓の引き方が全然違うし、構造も違うことから、ミツガケとは全然違うんだとか。ちゃんとした指導者がいないと、初心者には難しいそうですよ)

 

 ちなみに「離れ」じゃなくて「離す」じゃないか!

 といったクレームも無視します。知識が深い人が読むと、おそらくそう言うので。

 よくあるのは「自然に離れる」とかありますが、私の場合、数年でたどり着く技術だと思ってませんから。というより自然ってなんぞや?


 と、いうことで。

 まずはポイントを3つに絞ります。

 いいですか、〝我流〟ですよ?

 

1、「離れ」の仕組みを、力学で考えてみる。

2、溝の深さを活用した離れ(パターン1)。

3、馬手の捻じれを活用した離れ(パターン2)。


 それではいってみましょう!

 長くなるので、道具の回で記した部分をふまえ、書いていきますね。


───まずは「離れ」で矢が飛ぶ仕組みから。


①、離れを出すことで、封印していた等速直線運動を開放、同時に弓手と弦枕に加わっていた力の向きがどう動くかで、矢の軌道が決まります。

 そんなイメージ。


 補足で、弦から飛び出た矢の動きは、シャフトが何度も「しなり」ながら飛んでいます。

 これは「細い棒がしなる→手を離すと戻る」そんな原理です。なので会の時に矢が大きくたわんでいると、離れとは別に矢の軌道が変化します。

 理想は矢がクルクルと回ることなく、真っ直ぐと飛んでいくこと。じゃないと離れの影響+αが発生するので、分かりにくくなりますよ。


 ここで「しなり」とは矢の肉厚、長さによって変化しますし、材質によっても変化します。

 例えば、主にカーボン矢とは、「軽さ+しなりに強い」ことから、矢が真っ直ぐに飛ぶ力を助けてくれます。

 また、「強い弓を引く=弓力に適合した矢の肉厚が増す」ことから、シャフトの強度が増し、薄い矢と比べ「しなり」に強くなります。

 →とりあえず先に進みます。


 弓を引く原理上、離れの動作あと、弓手より馬手のほうが早く動いてしまう、だから強い弓を引いたほうが中る。とか聞いたことありませんか?

 これには理由があるんですね。


 ユガケの溝から弦が飛び出たあと、弦が筈を押し出し、矢に運動量を加わえるまでのあいだ、弦のコントロールは弓手のみとなる。

 これは、弓手を介して弓が反り戻ろうとする時間(ほんと一瞬)が発生することから、そうなります。


 強い弓のメリットとは「弓力が強い=反り戻る時間が短い」ことから、道具の性能で左右のタイムラグを短くすることが出来るから。

 つまり理屈上、主に矢の軌道は弓手の動きでコントロールしてます。矢の先が狙いとは違う方向を向く前に、弦から筈を押し出そうと思うならば。

『弓手がどう振れるかがポイントになる』

 と、なるわけですね。


 この理屈から。

 あくまで「離れ」とは、弦から手を離す動作である。 

 離れで矢の軌道が変わるのは、筈が弦から飛び出す前に発生しますから、離れの方向に弓手がつられてしまった結果、矢の先端の向きが変わるので、狙ってない方向に飛ぶ1つの要因なんですよ。


 たとえば。

 →前離れだと、矢所は後ろに行きやすい。

 これは離れ=弦が筈を押し出す直前、弓手が後ろに振れる原因を助長しているから、なんですよ。

 試しに、矢を番えず軽く弓を引いた状態で、弦を反時計回りに弾いてみてください。弓をこんちくしょうと持っていなければ、弓手は後ろに振れますよね?

 逆に弦枕の溝から弦が外れたあとは、「馬手」をどう動かしても関係ないんですよ。


 このことから、弓手に加わる力が矢の軌道をコントロールする=的中の秘訣は弓手(押手)にあると言われるんですね。

 これは、射をスローモーションで観察した場合、左右のタイムラグがあればあるほど、矢の軌道に大きく影響します。


【これが離れで矢が飛ぶ仕組み、つまり「馬手」だけ懸命に稽古しても、射形によってはまるで進歩しません。離れを変化させたいなら、弓手の稽古も必要なんです】


 →ここから、離れのパターンを記します。


②、溝の深さを活用した離れ。

  離れの出し方パターン1。


 ひとまず、弽の弦枕をよく観察してみてください。

 溝が深くなる方向と、溝が浅くなる方向があると思います。

 一般的には弦を引っ張っている状態で、上方向に深くなり、下方向に浅くなります。

 (ついた癖によっては違うパターンもあります)


 この溝の深さを活用するならば、深い部分よりも浅い部分に引っ掛けた状態で離れを出すほうが、弦の転がり抵抗が少ないのでスムーズに出やすい。  

 馬手の甲は上側に向けたほうが良いと言われるのは、これが理由の一つ。


 例えば自転車のタイヤが溝にハマりました。抜け出そうとしたとき、深い溝と浅い溝、どっちが抜け出しやすいですか? 特殊なタイヤでないなら、当然浅い溝ですよね。


 深い溝→浅い溝に引っ掛けるタイミングは、会で捻じりを加えることで、じわじわ移動させるパターンもありますよ。最初から浅い溝に引っ掛けて弓を引くと、引きにくいって人もいますからね。

 ただ、右肘を収める位置によってはうまく離れてくれない場合もありますから、そこは研究してくださいね。


 このことから、中仕掛けの太さと弦枕の溝の深さによって、かなり離れにくくなるんですよ。スムーズに離れを出す要因の1つとして、道具を調整することも考えてみてくださいね。


 弓を引く仮定は色々ありますが、会ではあくまで「弓手を押す方向と、弦を引っ張る方向」のワンセットで考えるのが基本です。理由は離れの瞬間、馬手が引っ張ってない方向に力のベクトルが向くと、最短距離で弦枕から飛び出そうとする弦の軌道を妨害するから。つまり弓手とのタイムラグが発生しやすくなる。

 →結果、「ゆるみ、引っ掛かり」の要因の一つになるんですね。


 ちなみに弦で顔をぶちやすい人。

 これは離れの直後、弓手の「つのみ」が発生するタイミングが遅いのが要因の一つです。なんで顔をぶつんだろう……ってやつですわ。改善したいと思う人もわりといたり。

 この原因は射を見ないとハッキリ言って分かりません。ですが道具を調整することで、弦が反り戻る軌道を変え、物理的に回避する方法もありますよ?


 例えば、

「上端と下端の弦輪の位置を真ん中から少し前側に」

「弓の高さを15.5センチ程度」

「引き尺は本矧もとはぎ(テープ巻いてるとこ)の矢尻側を右口角あたりに添える」

 にして矢を射ってみてください。

 ごめんなさい、無責任ですけど結果は分かりません。


 つまるところ、道具の調整は離れにおいて、とっても大事ってことですね。

 もし悩んでいる方がいましたら、射を変える前に道具を色々調整してみて矢を射ってみてください。たとえ基本に忠実でなくとも、自分に適した道具になるかもしれません。

 結果、「なんか中るようになった!」みたいな?

 マジでけっこうありますよ、コレ。


【パターン1のまとめ】

 会での弦の位置は、弦枕にある溝の浅い位置に移動させておく。そして引っ張っているベクトル方向へと離れを出すことで、負荷がかかりにくい動きになる。


 悩みますよね、離れって。

 とりあえずパターン2へいきます。

 

③、馬手の捻じれを活用した離れ。

  離れのパターンその2


 会では馬手を反時計回りに捻じりまくり、時計回りに捻じり戻す際、弦を弦枕から外す離れ。

 矢筋の延長線上に離すのではなく、その場で馬手を回転させたあとに右腕を伸ばす。

 そんなイメージです。


 ちなみにさっきと違った意識で「弦を離す」方法なんですよ。

 なのであまり深堀はしません。

「……え!?」

 ちなみに、こんなパターンもあるよってことですわ!


 この離れの場合、会では馬手をめっちゃ捻じり、指をパチンッと弾いて馬手を時計回りに戻すだけなんですけど、引っ掛かることもなければ、ゆるむこともない。しかも伸び合いも必要なく、会では静止しているだけ。

 ただ、矢は放物線を描いて飛んでいくし、矢勢もないし、爽快感もない。しかも馬手は会とほぼ同じ位置で静止するので、「あ、真っ直ぐ伸ばさなきゃ」と気がついて、仕方なく伸ばす感じなんですよ。


 つまり「離れ」ではなく「外す」。

 同期にこの射をする子がいたんですけど、弓手がほとんど動かないのでガンガン的に中るんですよね。めっちゃ髪の毛はらってましたけど。

 的中率も安定してたし、こんな離れもあるんだなって思いましたね。もちろん試合でも活躍してました。


 つまるところ、見た目を気にしないのであれば弦から馬手を「外す」ことだけを意識し、的中へと繋げるやり方もあるんですよ。

 邪道だと思う人も多いかもしれませんが、本人は自分に適していると言ってましたし、こういった技術を活用し、的を射抜く射手もいるんだよってことですね。

 ──え、弓道教本?

 それはただの模範解答ですから。


【パターン2のまとめ】

 捻じる反動を活用した離れとは、基本に準じない方法であるが、弓手のコントロールを特化した一つの技術である。


───と、いうことで。


 こういった理由から、離れに正解なんてない、と思っているのが私です。

 そうそう、よく「弽の中の親指を反らす」ってあると思うんですけど、理屈から言えば反らすメリットはありますよ。簡単にいえば、右手をギュっと握らないための1つの方法、なんですね。

 ですが弽を買う時、指のサイズを計測してもらい、特注で作ってもらうタイプもありますから。なので使っている弽によっては、わざわざ反らす意識をしなくてもいい場合もあると思ってます。


 ちなみに、「ギュっと握る」デメリットなんですけど。


 グーからパーになるまでに、時間がかかる。グーに近い形だと、不要な箇所に力が入ってしまいやすい。結果、離れの瞬間に余計な動作を引き起こしてしまったり、タイムラグを発生させる原因の1つになりやすいんですよ。

 ただ、これは流派というより、自分の射に適合するかどうかってのが一番のポイントかなって思いますね。一般的に推奨されている技術の1つであることには間違いないですけど、やっぱり自分が好きな離れが一番だと思うんですよ。


 だって、楽しく弓を引きたいじゃん!


 なので、馬手が弦から綺麗に離れているなら、別に無理して意識する必要もないかなって思います。自分が納得してるなら、自分だけのオリジナルを貫けば良いのです。

 だって「離れ」に正解なんてないんだもの、骨格や道具の状態は人それぞれ。なのに物理的に同じ事をしようとしたって、難しいと思う。すでに癖のついた弽を使っているなら、なおのこと。


 だから、道具を調整するだけで、「離れ」という動作はかなり変わりますからね。離れが上手く出ない原因は、技術だけではないんですわ!

 弽は使っていれば、徐々に変化していきますからね。ホントよ?


 試合でも通用する一つの技術になるように、稽古を頑張ってくださいね! 

 

 

 


 

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