8、後輩に弓道を教えても上達しない、何をどう指導すればいいの?

 部活の後輩が出来たけど、弓道を教えようにも何を教えたらいいのか分からない。同期にはこんな悩みを抱えていた子がいたんですよ。

 わりと弓道部あるある。


 そもそも、なんでこんな悩みを抱えるのか。

 教えても思ったように上達してくれない……みたいな?


 わりと弓道ってスポーツは、感覚を頼りに弓を引いている人が多いですし、具体的に指導しようにも、決まった自分の型、経験を元に教える人が多いですから、上手いこと噛み合わないとワケワカランとなるんですね。


 それに後輩からしてみれば、先輩によって言う事が違うので、先輩以上にチンプンカンプン。そうなると教える側は苦肉の策として、模範解答たる技術だったり、弓道教本だと〜とか言うわけですよ。


 ───え、弓道教本?

 技術を悩ませる原因は、やっぱりアナタですね!


 問→後輩を指導するのに、何かコツがありますか?

 解→後輩の射を観察し、理解するところから始める。


 私の中で弓道は物理学なので、目の前で起きている現象、つまり射形を理解してあげる事が大事かなって思います。


 よくあるのは決まった射形、その一つの方法を教えるパターン。でも正直、これだと個人差の中にある振れ幅に対応出来ないと思うんですよ。あと教えてもらう側にとっても、指導が自分に適合しないと楽しくない(言う通りになりません、みたいな感じ)


 私の場合、誰に対しても「〇〇すれば良くなるから、これをして!」といったその教え方は、10人居たら10人とも的を射抜く方法に導けるとは思ってないんですよ。

 そんな事ないと思うならば、例えば特殊な骨格を持つ人(たとえば猿腕の人とか)に対し、同じ事を言い切れますか?

 模範解答たる技術や射形を教えてみんな上達(適合)するならば、個人差なんて発生しませんから。


 弓道の場合、技量の差はセンスではありません。

 基本の理屈さえ理解してれば、そこから先は自分で研究するかどうかです。だから稽古での矢数は多いほうが良いって言われるんですよ。

 筋力アップだけが目的ではないんですね。


 それに、1人1人が持つ射の癖や個性を観察し、いい方向に変えてあげたいと思うならば、射形を理解してあげてから、指導する。

 そのメリットは、10人居たら10人とも楽しく弓を引ける! 

 たとえ模範解答たる技術や射でなくとも、同じ射を繰り返せば、継続して的を射抜けますから。

 それは試合でもそう、射形バラバラ、会の長さもバラバラ、それでもガンガン中ててくるチームはたくさんあります。見たことありますか?


「え、なんであの射形でガンガン的に中たるの!?」

 →同じ射を繰り返しているから。

 だいたいそんな感じ。 


 なのでこのエッセイ、ちょっと小難しい回になると思います。

 ここでもし、「初心者、中級者、上級者」と分けた場合、中級者向けでしょうね。

 その線引きは、個人的な感想とします(笑)。


 ちなみに、基本的に顧問の先生は別です。

 学校の部活単位で指導をコントロールする立場の人には、その人が持つ「これだ!」があると思いますから、今回はあくまで先輩が後輩に教える場合、をテーマにしますね。


 そして後輩を教えるためには、自分が理解していない事を教えるのは辞めましょう。空論上の理想を教えようとしても、説得力ありませんし、機転が利かないから。

 自分が分からないのに、背伸びして指導してもいい結果になるとは思いません。むしろ素直に、知っている同期に「どうかな?」と聞くこと。


◯料理で例えますと。

 目的は、美味しい玉子焼が作りたい。

 →そのやり方は、何パターンもありますし、答えはありません。

 →どれが美味しいと思うかは、結局のところ人それぞれ。

 →つまり個人差がある。


 ここで、教える後輩が弓道の「初心者、中級者、上級者」どの立場にいるかを考え、その後輩に適した技術を教える。

 的前に立ち始めた初心者の子に「馬手の張り」、「詰め合い」、「五重十文字」などを教えようとしても、大変難しい話になります。


「じゃあどうするの?」


 教える子の射形を観察し、現象を理解したあとに、解決案を掲示します。

 今は◯◯だから、◯◯となっている。

 だから◯◯を◯◯に変えれば、◯◯となるよ。


 こうやって伝えると、教えてもらっている側の後輩は、駄目なポイントと良いポイントを2つ同時に理解してくれるんですよ。この要点の積み重ねが、のちに初心者→中級者→上級者へとステップアップしていくとき、過去の経験として活かされてくると考えているんですね。


 ◯◯が悪いから、◯◯としたほうが良い、と言われただけの場合と比較して、腑に落ちるかどうかってのは、全然違うと思います。

 その指導のやり方は、どちらかと言えば顧問の先生よりの考え方。「私についてきなさい!」と言い切れるだけの立場かどうか、って事なんですよ。

 先輩って立場は、基本的に顧問の先生よりも「質問しやすい」と思いませんか?

 あ、捻くれた人は別ですけどね。


 ここで、課題の解決案をそれぞれ例えてみましょう。

 3パターンとも、中身は同じだとしますよ。


□初心者に教える場合。


 弓を持ち上げたあと、弦を引っ張る間にかけて、矢と体が平行に降りてきていない。それだと弓を引く時、姿勢が歪みやすい。

 楽に弓を引いているから、矢が飛ばない。

 矢と体が平行になるように意識して引いてみること。

 これを意識して引くと、前より弓が重く感じるようになる変わりに、矢が飛ぶようになる。


□中級者に教える場合。


 打起しから引き分けの間、開いた両肩のラインに対し、矢が平行に降りてきていないし、弓を押し引きする力が伝わりにくい射形となっている。

 両肩のラインが歪んだ状態で引き分けているから、馬手が潰れやすく、弓手も的に向かって押しにくい位置におさまっているのが現状。

 手先だけで弓を引かず、胸を開きながら引くこと。この時、肩が上がったり、歪んだりしないように意識すること。


□上級者に教える場合。

 さっきの射、左肩が抜けてたよ。


 こんな感じに、その人が持つ技量や知識で、ちゃんと理解できるように教えてあげることがポイントなんですよ。

 この場合、どうしてその状態が良くないのか、をちゃんと理解していれば、専門用語じゃなくても伝える事が出来ると思うんですよ。


 それに初心者の子に、中級者向けの教え方をしても、理解出来ないし実行出来ないんですね。

 でも、それはあたり前なんです。

 みんながみんな、いきなり最初から上手く出来るわけないんですよ。悩んで、稽古して、理解していくから上達する。

 弓道の技術とは、そうやって練度を増していくわけですから。

 後輩の立場となり考えること、自分が初心者の頃を思い出せば、「この人の指導は私に向いていない……」そう思う場面もしかり。


 指導内容を理解してもらうために、相手の技量を把握し、要点を理解できるように教えてあげること。その大前提として、自分の知識や技量が関係してくるんですね。

 それに教えてすぐ、成果を感じてもらえるとは思わないこと、そのための練習であり稽古ですから。


 ですが、道具のコンディションは誰が教えようが共通する部分、その基本は同じですからね。そこは臨機応変に考えてくださいね。

 

 わりと先輩あるあるで。

 後輩に弓道を教えるのが好きな人がいますが、一射見ただけで◯◯にしたほうがいい、と言うのは我慢しましょうね。

 その人が持つ癖や、特徴を一射で見抜くのは、かなり難易度が高いですから。弽の溝を見て、◯◯だねって言うのとは違いますからね。

 

 そもそも、弽の癖で射形を見抜くのも、それなりに多種多様なパターンを把握していないと難しいですから。シンプルにその人の射を観察し、理解してあげたほうが、納得してくれる教え方が出来ると思うんですよ。


 そうそう。

 教える=的を射抜く。

 とは限りませんからね。


 場合によっては射法八節を分解し、1動作ごとに稽古しないと、変わらない場合もありますからね。一度にアレコレやろうとしても、なかなか上手くいかない事のほうが多いですから。

 あと立ち位置なんかは個人差がありますから、絶対基本に忠実である必要はないです。本人が理解し、射に活かせているなら問題ないです。


 でも、狙う位置だけは必ずチェックしてあげること。初心者なんかは上達の仮定でよく変わりますからね。毎回おんなじ位置のつもりでも、射形が変われば変化しやすい要素の一つですから。


 特に中級者の人を教える場合。私は初心者を教えるよりも難しいと思うんですよ。

 それなりに弓の引き方は理解していても、その人が信じている技術、つまり癖がついている場合が多いので、本人に向上心がないとなかなか変化しないんですよ。

 だからこそ、原因たる理屈を教えてから改善案を掲示してあげないと、納得しないから変えようとしない子もいます。


 ま、頑固なタイプの子なら、無理に教える必要もないかなって思いますね。弓を楽しく引けてるなら、それでいいかと。

 ちなみに上級者になると、もはや教える必要はないと思います。  

 狙いを見てあげたり、今はどんな射になっているかを教えてあげれば、勝手に考えて勝手に修正していくから。中級者以上に癖もこだわりも強いし、しかもめっちゃ頑固なんですよ。

 分かる人には分かると思います(笑)


 だから教えたくない人は、無理に教える必要はないと思いますよ。後輩を教える事よりも、一本でも多く弓を引きたいでしょうからね。

「誰に聞いても分かりません……どうすれば?」

 といった子が来た場合。そんな時こそ射方八節を分解し、1からチェックしていけばよく分かります。

「え、足踏みですか?」みたいな。


 弓道が上手くなってほしいから、教えてあげたい。だけども教えた内容が伝わらないがゆえ、変化しないなんてもったいない。私はそう思いますね。

 それにね、実際の的中率はどうであれ、今までの自分よりも進歩しているな~って感じている時期が、ホントめっちゃ楽しいんですよ。

 

 夏休みくらいになれば、1年生が28メートルの距離で弓を引き始める弓道部もあると思います。

 意味もなく先輩風を吹かすよりも、「この先輩に教えてもらいたい!」そう言ってもらえるような射手を目指し、後輩達と関わってあげてくださいな。


 きっと、的を射抜いた気持ちよりも、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになりますよ?

 

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