第7話:願い1
例えば、彼女がほしいだとか明日雨になってほしいだとか、友達のとなりの席になれますように。と言うのと同じようなニュアンスで、僕にはずっと心のなかで願っていることがあった。
人並みの幸せが欲しい。
ひとえに人並みの幸せと言っても、そのあり方は様々だと思うけれど、その中でも僕は家族の暖かさを求めていた。
家族がいなかったのか?と言えばそんなことはなく、健康そのものな父と母、そして妹に恵まれていた。
何が不満だったのかと言えば、その健全な両親の愛情がおおよそ二つ下の妹に注がれていたことだった。
何をするにしても妹が優先。欲しいもの、して欲しいこと、挙げ句学校の必須品に至ってもいつも妹が優先された。それだけならよかったのかもしれない。問題は、妹が底抜けに僕に懐いていたことだった。
僕が高校生になった頃、妹に全てのウェイトを持っていきたかったのか、両親は一人暮らしをほぼ強引に進めてきた。正直願ったり叶ったりだった。叶いもしない。届きもしない愛情を目の前で見せられるくらいなら、いっそのこと一人で生活する方が何倍も気楽だった。
そんな僕の思いや、両親の思惑など知ってか知らずか、唯一駄々をこねたのが妹だった。
「兄さんが一人暮らしをすると言うのなら、私もついていきます。」
その時の妹は、二時間くらいは僕にしがみついて離れなかった。結局解決案として出されたのは、妹が一人で行ったり来たり出来る範囲で一人暮らしをする。と言うことだった。
正直言って迷惑だと思った。何が悲しくて、僕のもっていないものを持っている妹と毎日顔合わせしなければならないのかと。でも、真っ直ぐで純粋に僕のことを唯一愛してくれていると言ってもいい、妹を無下にすることはできなかった。
そして、その妹から向けられる愛情を両親も向けてくれないだろうかと、諦めているはずなのにうすらぼんやりと思っている自分がいることに気がついたのだった。
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