短編集詰め合わせ

天塚春夏

第1話:僕の嘘

「実は君のことは本当は好きでもなんでもなかったんだ。」

 声が震えないように気をつけて、僕は淡々とそう告げた。理解するのに時間がかかったのだろうか?彼女は少しの間動かなかった。

「君の告白をOKしたのは、彼女くらいいた方がいいかと、思ったからなんだ。」

 そう言った僕を、君は容赦なく平手打ちした。

 思えば喧嘩なんてしたことなかったし、手を上げられたのなんて初めてだ。

 そうだ。もっと怒ってしまえ。僕のことなんて好きじゃないって言えるくらい。そうでなければ、別れるとでも言って突き放してやる。

 暫く動かず、なにもしゃべらない僕をみて、君は一瞬、優しげな笑みを浮かべたように見えたが、

「そんな君と付き合っていたなんて、私はなんて可哀想なのかしらね。もうここには来ないわ。さようなら。」

 そう言って、帰ってしまった。

 これでよかった。きっと間違えていなかった。

 彼女はきっと僕のことを忘れてくれるはずだ。君についた、最初で最後の嘘なんだ。神様も多めにみてくれるはずだ。

 彼女が最後にもってきてくれた桔梗の花を見つめながら僕は、眠りについた。

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