第2話

 人間と獣の違いは欲への我慢強さと、言い訳できる頭だと言うのは、父親の言い分だ。

 我慢できなくなった時に、うまい言い訳を考える頭を持っているか否かが、その違いだと父は言っていたが、ランの考えは違う。

「頭を使おうが使わなかろうが、人間は人間だ。だから、こんな力関係が、昔から続いているんだよ」

「? どういうことだ?」

 脱兎のごとくあの場を後にしたランが、住処の近くに来てようやく足を緩め、唐突に話し始めると、その背に背負われたままのセイは、少し身じろぎをして聞き返した。

「人間はな、ないものねだりが習性みたいなものなんだ」

「へえ」

「文字や算額を競い、または腕力を競っててっぺんを決めて、自分より下の者をとことん見下す。土地もそうだな。住みやすく、作物も良く育ち、水もふんだんな大地がよそにあれば、どうしても欲しくなるんだ」

 まずは自分の住んでいる土地を豊かにする、そんな考えを持つ者が、更に別な土地に目を向けるならばまだいいがと、ランは溜息をついて見せた。

「……この国さ、元々は小さな国が寄り集まっていたんだよ。それが、幾度かの戦で一つになった」

 他にも、そんな国はあるが、この大地は一つにまとまるには大きすぎ、人が多すぎた。

 力技でまとめはしたものの、目が届かない。

 その目が届かないところで不満がたまり、大きな欲を持つ者が現れ、その者の口車に乗った者たちが群れを成し、また力技で奪おうと画策し始める。

 今は、その諍いが至る所で起き、政をしている者の足下が、大きく揺らいでいる所だった。

 そんな時勢の移り変わりの中、自分たちは秘かに動いている。

「その叛乱軍が一番強くて、政の軍勢が混乱している場が、ここより数日先に向かったところにあるんだ。そこまでは、騒ぎは禁物、だっ」

「分かってるよ。いや、分かってるはずなのに、騒ぎを起こしたのは、あんたの方だろう?」

「仕方、ないだろっ。あんなお前への侮辱、黙って聞き流せないんだよっっ」

 真面目に言っているのに、それに答えたセイは後ろに背負われた姿勢で、首に回した腕に力を込めた。

 セイ本人の腕力はあまりないが、紛い物の木の腕は、こん棒のような威力を備えており、少しの力でランの首を絞めつける。

「エンも、何故か怒っていたから、あの男の住処まで連れていかれた後、鬱憤を晴らしてもらおうと思ってたのに。そうすれば、あんなに目立たなかったのにっ」

「悪かったよっ。ついつい、あいつを気絶させて逃げてしまった。でもなっ、お前を、捕まえられたくなかったんだよっ。分かってくれよっっ」

 頭を冷やして考えれば、ランが役人に捕まりセイがあの男の元に行くことで、あの場は終わっていた。

 その後の動きが全く未知なものになっていても、あの場に集まっていた民衆たちには、知られることのない動きだったはずだ。

 例え、役人に捕まったランが即逃げ、男を追って家に押し入り、住民たちを皆殺しにして何もかもをなかったことにするとしても、単に騒ぎに行き会った者たちは、物騒だと不安がるだけで、この二人がそれにかかわっているなど、考えもしなかっただろうに、 ランは腕が立つことを公に晒してしまった。

「一体、あの男の言葉のどこに、あんたたちがそんなに怒る物があったって言うんだ?」

 セイは自分が些細な言葉で怒ったことを棚に上げて、盛大に嘆いた。

「……お前を、妾にだなんて、絶対嫌だ」

「? メカケ? ああ、そんなこと言ってたな」

 絞り出すように言ったランの言葉に首を傾げ、締め付ける力を緩めたセイは、先の男の言葉を反芻した。

 そして、後ろにいたエンが静かに甕の縁を握り締めたのも、あの言葉の後だったような気がすると思い立ち、疑問が口をつく。

「メカケって、何だ?」

 ランが、息を詰まらせた。

 もしやと思っていたが、本当に分かっていなかったようだ。

 だが、自分の口から教えるのは、嫌だ。

「それは、五年後に教えてやるよ」

「何で、五年? 大きくなったらという事なら、この二年でかなり大きくなっただろ?」

 不服そうに言うセイは、現在十歳くらいだ。

 ランの父で盗賊の頭だった男が、突然いなくなって早二年。

 血なまぐさいながらも、のびのびと育てられたこの子は、下駄がいらないくらいには成長していた。

 それでも、あっさり背負って全力で走れるくらいに、軽いのは変わらない。

 だから、ランは意地悪い気持ちで答えた。

「体が大きくなっても、今のお前の考え方じゃあ、大人のお話はできないな」

 既に大人のような考えを持つが、ただ見ていたことをそのまま口に出している感じが、ちらほらある。

 馬鹿にすると言うより、本気での言葉で、本当は本人に言うつもりもなかったのだが、幼い文句を聞き、ついつい言ってしまった。

「それに、オレくらい大きくなったならまだしも、近くの娘たちと同じくらいじゃあな。お前の親父さんは、天まで届きそうな背丈だったんだぞ。その大きさで大きくなったは、ないな」

 軽く笑いながらの言い分に、セイは黙り込んでしまった。

 悔しいのを我慢して、そのまま背負われてくれているのだが、悔しさが腕の力に出ていて、若干苦しい。

「……」

「沢山食って、もっと大きく、太くなれ。そうしているうちに、色々と分かってくるさ」

 それでもわからなかったら、今度こそ自分に訊けと、ランは言った。

「……分かった。あんたよりも大きくなって、上から見下ろしながら訊いてやる」

 無感情ながら、覚悟を決めた声だ。

 ランも、そうなればいいなとは思うが、それは半々だなとも思っていた。

 確かに、セイの実の父親は天を衝くほどの大きさの男だった。

 育てた方の父親は、それよりも大きく、実の倅もそれに似て大きく育った。

 セイも、このままいけば、あのくらいの大きさにはなるかもしれない。

 だがこの子は、実の父親に似ていない。

 どちらかと言うと、実の母親の方の面影が顔にはある。

 顔がこれで体が父親と同じに育つとしたら、色々と怖い。

 勿論そのまま育つのではなく、体と相まって顔立ちも厳つくなるだろうが、それもなんだか寂しい。

 願わくば、今のまま大きくなって、体つきも美しい若者になってほしいものだと、ランは願っていた。

 そんな若者にならば、見下ろされて尋問されるのは、楽しい事だろう。


 どの世でも、力での争いで巻き込まれて不幸になるのは、力のない女子供や老人だ。

 だが、時々思うのだ。

 もしこの世に、そんな争いごとがなければ、世を支配するのは女ではないかと。

 そう考えてしまう元は、自分の群れの女どもにあった。

 出会った頃は人見知りで、兄の陰に隠れておどおどとしていた女も、今ではランやロンを前にしても物おじしないほどに、人慣れしてしまった。

 そして、セイと前後して、父親に連れられて群れに引き取られたマリアも、母親を恋しがってすぐ泣く、とても弱い娘だったのに、今では自分たちに説教を垂れることができるほど、強い女となっていた。

「何? それの何が不満なの? あなた達が、私の純粋な心を、踏みにじってくれたんじゃない。嘆く理由が分からないわっ」

 十八歳の娘は、エンが持ち帰った籠の中身を取り出しながら、それを手伝いながら嘆くランに、文句を投げる。

 日が傾き始めた頃、セイを背負ったまま隠れ家につき、その前に既に戻っていたロンとエンと共に雁首並べ、ひとしきり説教を受けてから、髪色を落としに川に向かった二人を見送り、残った二人と共に、籠の中身を確かめる作業に入ったところだった。

「大体、目立たぬように買い物して戻るようにと、言い含めていたのあなた本人だったわよね? 一番目立ってきてどうするのよっ。馬鹿なの?」

 延々と続いた説教の最後のその言葉が止めとなり、ランは身を真っ二つにされるような衝撃を受けてしまい、その場から逃げる事が出来なかったのだ。

 そそくさとセイを促して逃げたエンの代わりに、苦笑しながら一緒に残ってくれたロンが、あの後の町での騒ぎを伝える。

「役人達は、騒ぎを起こしたのは件の男と知って、ちょっと呆れてたわ。丁寧に運んで行ったから、役人側の身内だという話は、本当みたいね」

 世も末だと嘆くほど、今ここにいる者たちは凡人ではない。

 どの国でも、良く聞かれる話で、どちらかと言うと、ありきたりでつまらないと思ってしまう。

「オキちゃんが、念のために家を確かめて、調べてくれることになっているから、家族関係の事も、すぐに知れるでしょう」

 仕事をすることにはならないだろうが、関わってしまった厄介な奴は、一応気に留めておくつもりだ。

 深く調べてしまえば、乱戦が終了して折り返してきたときに、楽だ。

「……そうかしら。次の覇者は、蛮族と言われてる人たちでしょ? 風習もガラッと変わるかもしれない」

 頂点に立つ人間は、その地位についたと世間に知らしめるために、自分の考えを下に押し付けて縛り付ける性質がある。

 逆らえば命に危機が迫るため、下の者は嫌でも従うしかなく、そうすると調べたことも無駄になるのではと言う女の心配を、ランは軽く振り払った。

「ああいう、覇者と呼ばれる奴らは、目立つ土地を目指して進み、そこに根を下ろす。そこを中心に己の意思を誇示するから、こんな田舎にまでは浸透しないさ。形だけはそう見せるすべ位、下の者だって分かってる」

「そうか、あ、でも、この辺りを通るのなら、別な心配はあるわね。連中が、ここや他の土地の百姓の皆さんを、己の国の民と考えてくれていれば、話は別だけど。国を治めた後しかそう考えないのが多いって、お父さんも言ってた」

 最悪、この辺りは血の雨が降る。

「ああ、死屍累々の中、折り返さないといけないのは、勘弁だよな。確かに、そっちの方があり得る話だ」

 マリアの言葉に頷き、ランは眉を寄せた。

 籠の中身は、まだ入っている。

 正直言って、これは予想外だった。

「……まさか、あの子がここまで、人受けするとは」

「そうね。エンちゃんの買い物に付き添っただけで、どうしてこんなにお土産をいただいてくるのよ」

「と言うより、良く入ったな。この籠に、この量」

 戦のあおりで、貧しい生活を強いられるようになったはずの人々が、我先にと己の売り物を差し出したと思われる。

その山を一つ一つ見分しながら、申し訳ないと思うのを軽く通り越し、恐怖を覚えていた。

「折り返してきたとき、そんな優しい人たちが死屍累々で地面に転がっていたら、ちょっと後味悪いよね」

 そう言っても、できることはそうない。

 籠を返しに行き、品物の代金を払う時に、それとなく逃げる準備をほのめかしておくくらいしか、自分たちができることはなかった。

 押し入り後の罪なき子たちの処遇と言い、本当にできることが少なすぎて、時々ふてくされてしまいたくなるが、長くその気分を引きづるほど、暇でもない。

 だから、いつもの乱世の乗り切り方でで、国々に散っている者たちの内、この国に住んでいる者に話を流してもらい、反乱者と国の軍の戦の火種から、一人でも多く逃げられるようにすることで、自分たちの気持ちは落ち着かせることになる。

「そろそろ、この地に住んでる人が、訪ねてくるんでしょ? その時にでも、その辺りの話は通しておいたら?」

「ああ。そのつもりだ。お前やセイも紹介したいし」

 籠の奥に秘かに入れられていた、縁の欠けた甕を持ち上げて首をかしげながら、ランはこの後の仲間との顔合わせの予定を告げた。

「? 酒の匂いがする。何で、空の上に欠けてるんだ?」

「使い物にならなくなったのに、元の持ち主に押し付けようとしてたから、引き取って来たのよ。何かに使えるでしょ?」

「? まあ、ここだけ繕えば、使えないこともない、か?」

 籠の中身を確かめて食材を見繕い、いつものように夕飯の準備を手伝うべく、めいめい動き出した頃、不穏な群れが隠れ家のある山へと近づいていた。


 エンがセイの洗髪に手こずっているので、本日の夕飯はその師匠であるジャックの当番だ。

 日が暮れる前にその辺りで摘んだ野草と、町で手に入れてきた僅かな食材を使い、六十代の老翁は手際よく下準備を進めるのを、女二人はそれを邪魔にならないように手伝いながら見ていた。

「うーん、手際は完全に、弟子の方が上回ってしまったな」

「年齢のせいで、機敏に動けないのも、痛いわよね」

「……」

 大きな体をものともせず、繊細に動くジャックだが、女たちの的を得た指摘に思わず手を止めた。

「……そろそろ、本気で足を洗う事を考えんと、いかんかのう」

 溜息と共に、脅しとも取れる言葉を吐く老翁に、ランはしんみりと頷いた。

「構わないけど、エンもセイも、置いて行ってくれよ」

「なっ」

「心配するな。あの子との約束は守るし、大事にする」

 遠回しな脅しは、気づかぬふりで返す。

 祖父であるジャックへの、セイの気遣いが、曖昧に感じることが、この遠回しな脅しをあしらえる理由だ。

 逆に、約束の方も、どのくらいの強さでのものかと言うのが曖昧で、あしらおうと思えばあしらえるのだが、ジャックにはそこまでの狡猾さはない。

 皴皴の顔をしかめ、料理に戻った老翁を見守りながら、ランは開け放った出入口の方を一瞥し、すぐにそちらに顔ごと向けた。

 日が落ちてからやってくるはずの、この地に住む者の一人が、息を切らしながら足早にやってくるのが見えたのだ。

 随分早いうえに、一人の訪問だ。

「リュウ。婆さんはどうした?」

 狩猟を主に生計の糧にしているリュウは、それ相応に体を鍛え上げ、この小さな山を登る程度でここまで息切れしないはずなのだが、外に出たランに駆け寄った男は、息を切らしている上に、顔面が蒼白だった。

「ら、ランっ。役人が、この山に来ますっ。早く逃げてくださいっっ」

 気楽に声をかけたランも、小屋の中から顔を出したマリアも、切羽詰まったその知らせを聞き、一瞬真顔になった。

 思ってもいない話で、言われたことをゆっくりと頭の中で繰り返してみないと、意味をしっかりと掴むことができない。

 今聞いた言葉を頭の中で反芻する呑気なランより先に、マリアが我に返った。

「嘘っ。ランの居場所が、もう知れちゃったのっ」

「なっ、何か心当たりがあるんですかっっ。一体、何をやらかしたんですかっっ」

「や、やらかしたって、別に大したことは……」

 自分より大きな体に詰め寄られ、少しだけ身を縮めつつも言い訳するが、リュウは天を仰いで頭を抱えた。

「大したことじゃないことは、やらかしたんですねっっ。ああっ、この辺りは、それでも捕獲の理由になるってことを、今晩伝えるつもりだったのに、遅かったあっっ」

「お、落ち着け。お前、意外に大げさな仕草が様になるな」

「に、逃げましょうっ。ばあさまも、うちに身を寄せろと言っていますっ。あんな役人どもの毒牙になんか、かけさせやしませんともっっ」

 血走った眼で言い切る男を見ても、ランはひたすら感心するだけだ。

 そんな騒ぎを聞きつけ、小屋の周りの雑草を片付けていたロンが、裏の方から顔を出した。

「どっちから来るの、そのお役人たちは?」

 ついつい、動揺しすぎる相手に感心しているだけだったランの代わりに、冷静に尋ねる。

 我に返って顔を改めた女の横に立ち、事の次第を聞き出す構えになった自分より大きな男を見上げ、リュウは生唾を飲み込んでから、最近この辺りで騒がれている事を口早に話し出した。


 世が乱れて、物騒な気配が近づいているその陰で、盗賊も増えている。

「ここ一年はさらに多くて、裕福な家は軒並みやられてしまいまして……」

「だから、売り物も、随分と品落ちしているのね。この辺りは、自分にも他人にも厳しい商家が多かったから、どうしてなのかと思ってたわ」

 盗賊たちに裕福な商家が狙われているのなら、訳アリの品も露店には出回らないだろう。

 しかし、狙われて一年もたっているのに、あの厳格な商家の面々が、抗う様子もなく犠牲になっているのも、不思議な話だ。

「それです」

 ロンが疑問を呟くと、リュウは真顔で言った。

「半分ほどは、その盗賊による犠牲者なのですが、残りは盗賊の疑いでとらえられ、生きて役所から出てこない。財も全て役人たちの懐に入っていると、噂にしては的を得た話が、出回っています」

「……まさか、オレ、やってもいない押し込みの下手人扱いで、捕まるのか?」

 短い話で、大方の話が見えて、ランは呆れ果てて溜息を吐いた。

 盗賊なのは本当だが、知らない罪で捕まるのは、釈然としない。

「単に、奴の頭をもぎ取ってやろうとしただけで、またやり切ってなかったのに。それで盗賊の疑いは、酷くないか?」

「奴?」

「ワン様と呼ばれてる、あなた位大きくて、人相の悪い男よ」

「あ、ああ……」

 ランの嘆きの言葉に首を傾げたリュウに、ロンが短く答えると、男は得心して頷いた。

「……ワン様は、今役所を取り仕切っている方です。勿論、表立って事を起こしたことはないですが、その弟にあたる方が、毎日何かしらの諍いを起こし、その度調べもせずにそれをもみ消すので、評判は悪いです」

 諦めたように小さく笑ったリュウは、ロンの先の問いに答えた。

「先程、群れを成した役人どもが、こちらに向かっているのを見て、オレはすぐにここに知らせを持ってきたので、この山の何処から入ってくるつもりなのかは、分かりません」

 真正面から突撃するかもしれないし、山を逃げ場なく包囲し、登ってくるかもしれない。

 そういう男に、ロンは笑顔を浮かべて頷いた。

「つまりまだ、ここに向かっている途中なのね? 他に獲物になりそうな家は、途中にはいない?」

「はい。全ての家の前を抜けて、町を出てくるところまでは、確かめました」

「上出来よ」

 再び頷いた男は、家の方を振り返った。

 そこには素早く家じゅうの火を落とし、籠や風呂敷をかき集めて身の回りの物をつめ終わった、若い女と老翁の姿があった。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい。案内します」

「この二人を、頼む」

 ランが頷いて見送る姿勢なのを見て、リュウが目を剝く。

 そんな男に、残る旨を告げた。

「すぐに追いつく。後からくる奴らへの繋ぎも置いとかないといけないし、まだ、もう二人、残ってるから」

「逃げることだけ、考えてね。間違っても、これ以上ややこしい話にはしないでよ」

「分かってるって」

 ロンが痛いところをついてくるが、ランは苦笑しつつも軽く頷いた。

 万が一、残っている子を逃がせないのならば、更にことを大きくするのは致し方ない。

「心には止めておくけど、それは、相手の出方次第だな」

「その場合は、儂の分も、残してくださると助かりますな」

 重いものをたくさん持たせたくない女の代わりに、ジャックは背中と両手に荷物を抱え込みながら、ランに皴皴の笑顔を向けた。

 そんな物騒なことには、したくない。

 無事、この老翁の元に、二人を連れて合流したいが、もしもの時もある。

「勿論だ。一番楽しいところを残しておく」

 最悪な事態を考えての言葉を交わし、隠れ家の前で二手に分かれて動き出した。

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