僕の彼女は座敷わらし

風間絆名

第一話 高校時代の大失恋

「寒い…」

冬は苦手だ。身も心も凍える。

日照時間も少なく、気持ちがネガティブになる。

思えば昔から冬にはいい思い出がない。

小学生の時登校時に凍った水たまりで足を滑らせ骨折し、高校入試の時はインフルエンザになって第一志望に行けなかった。

だけどスベリ止めで受けた私立で運命の出会いを果たし、一目惚れした超かわいい子が彼女になってくれて結果オーライと高校生活を満喫していたのも束の間、あんな裏切られ方をするなんて。


冬休み入ってすぐの、クリスマスイブ。

どうしてもバイト抜けれなくて会えないから、翌日のクリスマスでゴメンネ、と言う彼女。

全然いいよ、イブもクリスマスも一緒でしょ。

そんな話をしてたのに。

あろうことかイブは本命と過ごしていたなんて。

しかもよりによって僕の親友と二股かけてたとは。

おまけにたまたま忘れ物を取りに戻った部室で、ふたりが浮気してるその現場を目撃するなんて、キリスト様はひどすぎる。



クリスマスイブの夜、みんな部活を早々に切り上げ帰宅。人気の無い真っ暗な部室棟。

「まさか財布忘れるなんてなぁ。帰りチキン買ってきてってお母さんに頼まれてたのに」

珍しくクリスマス寒波到来で、吐く息が白い。今にも雪が降り出しそうな、真っ暗な学校。

弓道部の部室の前、中からガタゴトと音がする。


?まだ誰かいるのかな。


そおっと、少しドアを開けて、中の様子を伺う。


僕が出る時後輩が残ってたし、クリボッチの子達がお菓子でも食べながら長話してるのかな。

それならサンタさんの格好でもしてきておどかしたのになー。

そんな呑気なことを考えていた僕に、一生レベルのトラウマが訪れた。


「ハァハァ…」

途切れる吐息と、聞き覚えのある彼女の高い声だけど、聞いたことのない声。


えっ


ミテハイケナイモノヲミテシマッタ


真っ先にそんな心境になるも、怖いもの見たさというか、目が離せない。


「悪いヤツだな……優樹(ゆうき)放っておいてイブにこんなことして…ハァハァ…」


優樹…僕のことだ!!


「だって…彼全然手ぇ出してくれないんだもん。物足りないよォ」

僕の前では出したことがない、甘ったるい声。

「そんだけ大事にしてるってことじゃん」

「えー、それはそうだけどォ、優しいだけの男って物足りないのォ」

「どーせあれこれ貢いでくれるからキープしてんだろ」

「そりゃそうよ。でなきゃあんな退屈なオトコとつきあわないって。身体の相性も含めて今はアンタが1番よ」

「おいおい、何人の男とつきあってんだよ」

「フフ、なーいしょ」


「………」


あの、えっと。

こういう時僕はどうしたらいいんだろう。

ふざけんなよって怒鳴りながら、この場に乱入して修羅場になったほうがいいんだろうか。

だけど裸で無防備なふたりを前にそんなことをするのもためらわれるし…なんか恥ずかしいし…。

今はショックで何も考えられないというか、頭が真っ白で、畳の上でいちゃつくふたりに気づかれないよう、静かにドアを閉めた。


チキンを買うのも忘れ呆然と帰宅した僕に母も姉も怒りモード全開だったが、そんな金切り声も耳に入らず僕は自室のベッドに横たわった。


アレハナンダッタノカ


まだ悪夢を見ているようだけど、悲しいかな現実だ。

大好きな彼女に遊ばれていたことを知り、大失恋の17歳クリスマスイブ。

どこか遠くに行きたくて、僕は翌日鳥取のおばあちゃん家へ向かった。



朝イチの高速バス。直接窓口で問い合わせすると幸い空席があり乗車できた。

バスターミナルは冬休みの旅行や早目の年末帰省の人達でごった返している。

一人用の席に座り、とりあえず着替えを詰めたボストンバッグを網棚に乗せ、ぼんやり窓の外を眺める。

イブの翌朝ということもあって、昨夜は一晩中一緒にいたのだろうか。腕を組んで歩く仲良しカップルの姿がやたら多い。


僕も今夜は一緒に過ごすはずだったのに…。


涙が一筋、頬を流れる。

いや、あんなに裏の顔がえぐいのが早目にわかってよかったじゃないか。

そう自分に言い聞かせても、一緒に過ごした日々は楽しくて幸せだった。少なくとも僕にとっては。

初めてできた彼女で、彼女の笑顔が、かわいい声が大好きで、ずっとずっと大事にしたかった。

彼女が喜んでくれるので、部活の合間に家の仕事を手伝ってバイト代もらって、プレゼントを贈った(世間ではこれを貢ぐっていうんだな…)

ただ僕は彼女が喜んでくれるのがうれしくて、もっともっと喜ばせようとしていただけなんたけど。

そういえば裏切られた親友に言われた。

『お前みたいなお人好しみたことない』って。


正直者はバカをみる。


そういうことなのか。

人にいいことして生きていても、そんな人間を都合よく利用することしか考えない人間も世の中にはゴマンといるのだろうか。


なんだかすべてが虚しく思え、日常を忘れられるところへ行きたかった。

あのまま家にいたら、部屋にいても彼女と一緒に勉強したことを思い出し、出かけてもどこへ行っても彼女や親友がそこにいた記憶が僕を苦しめると思ったからだ。


何も知らない彼女からは、

『今夜楽しみだね♪』

なんてふざけたメールが届き、

親友からは

『デートうまくやれよー』

とうざいメッセージが来た。


ふざけんなよ


一晩中興奮して眠れず寝不足だった僕は苛立ち、思わず携帯を壁に投げつけた。

昨日はショックで茫然自失だったが、時間の経過とともに沸々と怒りがこみ上げてくる。


こいつら、僕が何もかも知ってるとわかったら、どうするのかな。

こんだけふてぶてしいやつらだから、悪びれもせず開き直るのかな。

そう思ったら、自然と指が動いた。


彼女には

『別れよう』

親友には

『お前とはもう友達じゃないから』



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