無口な君の
青樹空良
無口な君の
「
友達にそうやって聞かれるのが、私はとても苦手だ。
貴重な休み時間に聞くことか? と思ってしまう。
原田君は私の彼氏だ。
ちなみに隣のクラス。だから、ここ私のクラスの中で話していても彼には聞こえないはず。でも、なんとなく周りを見回してしまう。
「う~ん」
冗談でも『ラブラブだよ!』なんて言っておけば、いい感じにスルーしてくれるのかなと思いつつ嘘がつけない。
「え~、この前の休みだってデートしたって言ってたじゃん」
「まぁ、それはそうだけど……」
「楽しくなかったの?」
「う~」
楽しかったか楽しくなかったかと聞かれると、難しい。
私は盛り上げようと思って楽しげに話しかけたりしていたんだけど、肝心の相手がほとんど無言で頷いたりしていただけだったのだ。
しかも、誘ったのも私。
行き先を決めたのも私。
おまけに、……先に告白したのも私。
というか、まだ好きって言われたことがない!
廊下から男子たちのでっかい声。
ガラスの向こうに原田君の顔が見えた。
大きな声で話している男子たちの中に入って、なんだか頷いている。
「お、原田君じゃん」
「う、うん」
友達に言われて、意味も無く今気付いたかのように振る舞ってみる。
すぐに目に入っていたのがバレたら恥ずかしい。
『無人島に何か一つ持ってくなら何にする?』
『俺、エロ本!』
『ばっかじゃないの!!』
バカみたいな笑い声。
なんていう話をしてるんだ。
しかも廊下中に響いている、どころか教室の中にいる私たちにまで聞こえる声で。
原田君は、困ったように笑っている。
『原田は何持ってくんだよ』
原田君は答えないで、やっぱり困ったように笑っている。
◇ ◇ ◇
で、いちおう一緒に帰ったりなんかしているわけだけれども。
「どうしたの?」
珍しく無言になっている私が心配になったのか、これまた珍しく原田君の方から話しかけてきた。
私はじっと原田君を見る。
どことなくぼんやりとした顔。
無口なところも、ちょっとぼーっとしたところも、いいと思ったから好きになったはずなんだけど……。
度が過ぎると何を考えているかわからなくて不安になる。
今日の休み時間に見かけたみたいに、友達の前でもああだから悪気はないんだろうってわかってはいる。
でも、私のこと本当は好きじゃなくて仕方なく一緒にいるんじゃないかという不安はずっと消えない。
というか、私も本当に原田君のことが好きなのかな。
ちょっといいって思っちゃっただけで気の迷いだったのかな、なんて考えてしまったりして。
ああ、もうどうしていいかわからない。
「ねえ、私たちって別れた方がいいのかな」
ずっと考えていて、飲み込んでいたこと。
ぽそりと小さく、呟いてみる。
横目で原田君を見る。
「!?」
びっくりした。
いつだって感情があんまり表に出ない原田君の顔に、見てわかるくらいの驚きが浮かんでいる。
「原田君は悲しくないんじゃないの? だって、私のこと……」
「あのさ」
原田君が口を開く。
「俺さ、無人島に一つだけ持っていくなら、早紀だから」
「え?」
思わず聞き返す。
休み時間に話していたことの続き?
「あ、持ってくじゃなくて連れてくか……」
うんうんと頷いている原田君。
その顔はなんだか赤い、気がする。
「あのさ原田君、それって」
「……うん」
今度こそ気のせいじゃなく、原田君の顔が赤い。
だから、ちゃんと私に伝わった。
それはきっと、無口で照れ屋な原田君の精一杯の告白で。
ああ、なんてわかりにくい人を好きになってしまったんだろう!
全然ロマンチックでもなんでもないけど、他の人から見たら告白でもなんでもないように聞こえるかも知れないけど……。
もう一度、友達に原田君とうまくいっているか聞かれたら、
『ラブラブだよ!』
なんて、言ってみよう。
真っ赤になって照れている原田君を見ながら、私は心に決めたのだった。
無口な君の 青樹空良 @aoki-akira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます