花冬

花冬はなとう


誰にも認めてもらえない恋は

二人だけで酒盃をあげる小さなテーブル


狭いベッドで抱き合えば

朝目覚めた時にあなたが眠っている安心感


赤く燃える電熱機

少しでも暖かくなれたらと

その上に置いた薬缶が湯気を出す


珈琲代わりの白湯をカップに注ぎ

分け合えた温もりに笑顔がこぼれる


あなたが居なくなったあの部屋で

私は暫く暮らしていた


二人して出て行った故郷は

今頃は白に包まれているのだろう


目を閉じて

もう帰れない情景を思い出せば

そこから見えた丘には

見たこともない花が咲き乱れていた


僕はこの街を出ようと思う

引越した先のマンションへ帰る道

二人で暮らしたアパート

その部屋の窓から暖かな灯りが見える

さよならじゃないんだと

旅に出ようと思うだけと

胸の中に語りかけた


雪を割って芽を出す花のように

いつの日にかと志した思いが祈りに変わる

そんな冬を何度数えただろうか


僕は雪の降る日に旅に出る

暖かい春が来る前に

雪を割って目を出す草のように

今度こそは花を咲かそうと

重い荷物は胸の中

軽々と持ち上げた鞄に希望を詰めて

もう一度もう一度と言い聞かせ

まだ始まったばかりの冬の日に

僕は花咲く春へ向けて歩き出す

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