第135話 尋問
王宮のことはよく知らない。だけど知らなくても分かる。
僕を迎え入れた人物は二人。一人はラクール先生、そしてもう一人はきっとこの部屋の主———第三王子、リシャール殿下。
「ああ、堅苦しい挨拶はいい。ここは僕のプライベートな部屋だから、楽にしてくれていい」
「あっあのっ、殿下におかれましては」
「ほう、この方がどなただか心得ているようだな」
ヒッ!そういえばこのループでは初対面だった。貴族学園に入学した4周目、彼らがマロールに転入してきた5周目に散々苦労したので、すっかり見知った気になっていた。
「いいじゃないか、大佐。彼は人知れず高度な魔道具を置いて回った張本人だ。これまで表舞台に立つことのなかった僕のことだって、知っていてもおかしくない」
殿下の目が爛々と輝いている。あれは獲物を捉えた時のヤツだ。絶対に逃がさないぞっていう。ラクール先生も同じ表情をしている。彼らは鬼門だ。かつて彼らに目を掛けられ、苦渋を舐めさせられた過去がぶり返してくる。
僕は、墓地や曰く付きの土地の浄化について尋問を受けた。曖昧に濁そうとすると、二人から鋭いツッコミが入る。怖い。何一つ隠しておけない。
「それでは、墓地の浄化はほんの出来心だったと」
「その、パアアーッと綺麗になって嬉しかったっていうか」
「その魔道具とやらはどうやって」
「あっ、えっと、拾ったっていいますか」
「見せてみなさい」
僕は渋々、引導の魔石を取り出す。
「なるほど、同じものだ。魔素が
「うぇっ」
ヤバい、オーバーテクノロジーだったか!それなら教皇のロザリオの方を出すべきだった。そしておずおずとロザリオを差し出すと、更に詰んだ。
「遠く異国のダンジョンで産出するというロザリオ。しかし通常産出するものより遥かに高い効力を有する。こんなものがいくつも存在するなど、あってはならないことだ」
冷や汗が止まらない。背筋を滝のように流れ落ちて、そのうち僕は干からびてしまうんじゃないだろうか。いっそ消えてしまいたい。
「だからそのっ、拾ったっていいますか…」
「まあまあ、大佐。そんなに詰問したら、彼も答え辛いだろう。僕らはなにも、君を咎めようというんじゃない。君のしたことはとても善いことだ。善行を成した君を褒めこそすれど、害しようなどこれっぽっちも考えていないさ」
「あっあのっ、恐れ多き」
「ただちょっと、その魔道具の出所を聞きたいだけなんだ。そして君のその力を、これから僕に貸してくれないかってね」
「ひぇっ!」
万事休す。これまで数々のピンチに立たされて来たけど、今回はその比じゃない。
しかし、どこからどこまで話したものだろうか。僕はこれまで数えきれないほどのループを繰り返し、界渡りも含めると長い時間を過ごしている。全部話せば長くなるし、彼らも関係ないところまで聞きたくないだろう。時間も押していることだし、僕は一旦解放されることになった。また明日、改めて尋問があるそうだ。
ここは白樺宮、現在第三王子リシャール様のための宮殿だ。他の宮殿よりずっと小ぶりだというものの、それでも小さい学校の校舎ほどの大きさがある。僕は客間に通された。そこで彼らに説明するためのレジュメを作る。どうせこのループもあと半月だ。焦ることなんかない。半月生き延びれば、後はいつもの通りマロールの寮室で目覚め、全てがリセットされるだろう。これまでの僕の道のりがいかに荒唐無稽であっても、調べる
この三年間を何度かループしたこと、その間にリシャール殿下やラクール先生とも面識があったこと。それから迷宮を攻略したり、錬金術を習ったりしたこと。魔道具は迷宮の産出品に付与を重ねて作り出したこと。彼らが聞きたいのはこのくらいだろうか。しかしレポートか。何度かラクール先生にレポートを書いて提出したループがあるが、いずれもロクな結果にはならなかったな。もうあと二週間だし、転移で逃げ切ってしまいたい気もする。しかし、僕を追って来た彼らの手の内を知ってからでも遅くない。
僕は目頭を揉みながら、ため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます