第133話 夢の長期休暇
「ラブきゅん学園
思えば僕は、あっちでもこっちでもたくさんの人に恵まれてきた。ずっと孤独な戦いだと思っていたけど、これまで僕がやって来られたのはみんなのお陰だ。家族、岡林君、部員のみんな。昂佑、
かつてお墓参りでエリアアンチカースをした後、「ありがとう」「ありがとう」と見ず知らずの人から大合唱を受けた夢を見た。今はその逆だ。みんなの顔を思い浮かべながら、ひとりでに「ありがとう」っていう気持ちが湧いてくる。
結局、インベントリにはたくさんの魔石が眠ったままだ。気になった場所や人に何度かスキルを使ったくらい。確かに浄化は大きな効果があるし、多くの人に喜んでもらえる。だけど僕一人がこの世界を浄化して回ってもきりがないし、僕の世界を大きく変えたのはスキルじゃなくて人との繋がりだった。
これまでと大幅に変わった
僕の今後のスケジュールは真っ白だ。もう自分一人でどうにかできるクオリティを超えた6が出てしまった以上、今回の界渡りで僕に出来ることはない。さっさとあっちの世界に戻ってもいいんだけど、まだ見ぬ7の完成を見たい気もする。魔石もいっぱい残ってることだし、浄化の旅に出てもいいかもしれない。
善は急げということで、僕は早速旅行に出かけることにした。まずは国内から、一人気軽に温泉地や名所旧跡を回る。そういえばこれまで出張で飛び回ったことはあるけど、ロクに旅行に出かけたことはなかったな。
浄化の旅に出て来たのはいいけど、浄化が必要な観光地はそう多くなかった。旅行って楽しいからだろうか、明るく元気の出るエネルギーがある場所が多い。これまで浄化してきたのは負の感情が溜まりやすい場所だったので、観光旅行と浄化はあんまり相性が良くないのかもしれない。まあ楽しければいい。
そんなことをしているうちに、しばらく連絡を取っていなかった岡林君から連絡が入った。僕が休暇を取って旅行して回っていると言うと、彼も休みを取って合流しようということになった。二人だとスキルを使うことは出来ないけど、旅は道連れがいたほうがきっと楽しい。僕はワクワクしながら足早に合流地点へ向かった。
失敗した。僕はすっかり油断していた。
ループの前、アレクシとしての人生を送る前の怜旺だった僕の記憶は、とても曖昧だ。だけど自分が家庭を持つだとか、老後の記憶というものはなかった。ということは、年を取る前に世を去ったということじゃないだろうか。
岡林君のお婆ちゃんは、家に魔石が置いてあったお陰で施設に入らずに生涯を終えた。だけど、亡くなった時期は同じ。ということは、魔道具やスキルは健康状態に干渉しても、寿命や運命そのものを変える力はないっていうことだ。
これまで僕は、この世界に界渡りで戻って来るたびに「ラブきゅん学園
しくじった。こっちで命を落としたら、果たしてあっちに帰れるんだろうか。これじゃあループ解消以前の問題だ。怜旺だけでなく、アレクシは一体どうなってしまうんだろう。僕は一体どうすれば。
どうするもなにも、もうどうしようもない。道路に体が投げ出される一瞬の間、いろんなことが走馬灯のように脳裏に駆け巡り、そして思考は真っ白に塗りつぶされた。
———次に目を開けた時、僕が見たのは知らない天井だった。
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