第81話 土属性ブートキャンプ(2)
王国歴359年3月10日月曜日、全校模擬戦開催。
翌3月11日火曜日、リシャール殿下に呼び出しを受け、生徒会入会。
早速3月12日水曜日から生徒会入り。そしてB組土属性同盟に捕まり、13日木曜日の午後、初めてブートキャンプへ。
3月14日金曜日も初級ダンジョンへ出かけ、薬草を採取しながら弱い魔物を狩り、ギルドで売り払って解散。土日は外泊届を出し、リュカ様とガッツリダンジョンアタック。本当は春休みの間中、あちこち連れて行ってあげたかったんだけど。
そしてその次の月曜日、3月17日。
「君たち、面白そうなことをやっているじゃないか」
生徒会に出勤してきたリシャール殿下が、満面の笑みで僕らに詰め寄った。なお目は笑っていない。
「いえ、その、そんな」
「僕も土属性なのに、声を掛けてくれないなんて、酷いなぁ」
鶴の一声で、彼もブートキャンプに参加することになった。王族連れて接待とか、面倒臭いことこの上ない。空気読んでくんねぇかなぁ。
しかし彼も馬鹿じゃない。「皆のスケジュールを邪魔するつもりはない」ということで、今日からは予定通り、ゴーレムの上級ダンジョンへ出発することとなった。もちろん乗合馬車で行くわけには行かないから、王宮から馬車を3両立てで。目立つったらありゃしない。
「あのう、出来ればあまり手の内は見せたくないんですが…」
と申し出ると、「あい分かった」ということで、従者の一人が冒険者ギルドへひとっ走り。なんとゴーレムダンジョンは、その日貸切となった。ちょっ、余計目立つんですけど…。
B組土属性同盟は、中等部1年から高等部3年までの有志、合計12名。ちょうど2パーティーでいい感じだったんだ。パーティー単位での立ち回りの練習と、経験値が
「今日は上級ダンジョンへのアタックです。しかし、慎重に立ち回ればどうということはありません。どうか皆さん、指示にしっかり従ってついて来てくださいね」
まずは最初に、立場を明確にしておく。みんな真面目な生徒ばかりだけど、突飛な行動は謹んで頂きたい。
「ではまず僕らから、攻略の一例をお見せします。リュカ様」
リュカ様はこくりと頷き、杖を取り出した。
「
彼は足元に、堤防のような石壁を展開した。一階はあちこちに水たまりがあり、全体的にぬかるんでいて歩きづらい。しかも水たまりの中からは、散発的に
「
堤防の上からストーンバレットで一斉掃射。
うん。絵に描いたようなお手本だ。師匠としてとても誇らしい。ギャラリーは「おお…」と感嘆の声を上げ、やがてパチパチと拍手が起こった。
「次、僕が行きますね。こういうやり方もあります」
僕は懐から杖を取り出し、
「
効果範囲はINT㎡。辺り一面が砂地に変わり、出現していた泥人形、および出現予定地点から、コインと粘土玉が出現した。一行はまた「おお…」と呻いている。
「モンスターを倒し、ダンジョンを攻略するには、いくつもの方法があります。普通はここは、優勢属性の火属性スキルで突破するのが一般的な最適解と言えるでしょう。しかし、我々土属性でも練度を上げ、工夫を凝らすことで、他属性に負けない突破力を生み出すことが出来ます。僕らは地道な努力や試行錯誤は得意だ。さあ、どんどん練習して行きましょう」
先週からやる気に満ちているB組土属性同盟は、「おお!」と
「…リュカ君、アレクシ君。君たちは、凄いことをやっていたのだな」
「殿下。凄いのはアレクシです。僕は全て彼に教わりました」
「いえっ、そのっ、ここは上級だけど一階層につき単種のモンスターでっ、練習としては非常に行いやすく」
「ああ、つくづく良い人材が入ってくれた。どうだい、今からでも私の側近に」
「アレクシは僕の従者です!」
「あのっ、殿下も是非泥人形の討伐を…」
そう。無駄口を叩く暇があれば、どんどん狩って経験値を稼いでもらいたい。泥人形自体は動きも緩慢で、さして強敵ではないが、ここは足場が悪く、泥に足を取られ、泥で視界を封じられて、無限湧きする泥人形に囲まれたら終わりだ。人間は、窒息するとあっという間に死んでしまう。泥人形本体の戦闘力より、それ以外のところで地味に怖い階層なのだ。コインやドロップ品も泥に沈んでしまうし、だからここは嫌われる。
しかし裏を返せば、足場や泥対策さえ何とかなれば、単なる割の良いカモでしかない。一応上級ダンジョンに分類されるだけあって、他のダンジョンの雑魚敵とは一線を画す経験値が得られる。パーティーで按分されてしまうとはいえ、1匹、2匹と討伐して行くにつれ、杖の先から放たれる石礫の数は増え、威力も増して行く。そしてさっきまで使えなかった
とはいえ、午後からの半日はあっという間。僕らはダンジョンの前で待機していた馬車に乗り込み、来た道を引き返した。
殿下と僕とリュカ様は、先頭車両に乗車。B組同盟は後続の馬車にパーティー単位で乗車。落ちたコインはみんなで山分け。ドロップ品の粘土玉は、授業料として僕が頂くこととなった。
「楽しかったな。また呼んでくれ」
「ええまた、機会がありましたら」
僕らが「冒険者の手の内は秘匿」と言った言葉通り、馬車と従者の皆さんは、ずっと入り口でダンジョンを封鎖して待っていてくれた。殿下がちゃんと約束を守ってくれる方で良かった。こういった感じならば、こちらとしてもB組同盟のブートキャンプに参加していただく分には、
と、思っていたのだ。その日までは。
「やあ。A組にも声を掛けておいた。いいだろう?」
ブートキャンプ仲間が増えた。そしてゴーレムの上級ダンジョンは、第三王子の名において、春休みの期間は借り上げとなった。元から不人気で、ほとんど訪れる者もいないダンジョン。ギルドとしては、リシャール様から賃借料をもらって、「どうぞどうぞ」だったらしい。恐るべきロイヤルパワー。
午前中は、生徒会の仕事。時々外部に調査のお使い、ついでにブリュノとの再会。その裏では、学園の土属性全員でのパワーレベリングが、密かに進行していたのだった。
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