第76話 全校模擬戦(2)

 模擬戦は、各クラスそれぞれで予選。それから学年戦に駒を進め、それぞれの学年の優勝者を決める。一応表向きは、全生徒平等に執り行われることとなっている。多くの生徒は、名誉のため、また就職活動に向けて経歴に箔を付けるため、年に一度のチャンスに意気込んで臨む。


 ただし相手に怪我をさせないよう、寸止めが基本だ。上位貴族が下位の者に誤って怪我をさせてしまうのも外聞が悪いし、して下位の者が上位の者に傷でも付けようものなら家ごと存亡の危機に遭う。「おっと手が滑った!」は、上位貴族にしか使えない禁じ手だ。そして大体は、忖度そんたくの末に彼らが勝つことになっている。


 だが僕は空気なんか読まない。とりあえず、クラス予選を突破して2年C組の代表に。それから、A組B組の代表と対戦するわけだけど。


「くそっ、ちょこまかと…!」


 大体どこも、勝ち上がる属性とスキルって決まってるんだ。火属性でファイアボール。時折ウォーターボールで善戦する水属性がいるけど、水の方が重くてコントロールが難しい。風属性のウィンドカッターの方が技の出が速いけど、ファイアボールの威力には敵わない。一番当てるのが難しいのが、土属性の重たい石礫ストーンバレット。だから土属性はいつも最下位だ。しかし。


「ぐっ…」


 相手の生徒が膝をついた。MP切れだ。試合続行が難しいと判断した審判が、ジャッジを下す。


「勝者、アレクシ」


「ありがとうございました」


 リュカ様はA組だから、多少相手に石礫が掠ろうとも、いちゃもんを付けられようとも構わないのだ。だけど平民の僕は、万が一にも相手を傷付けたり、言いがかりを付けられるわけには行かない。だからこそ。




名前 アレクシ・アペール

種族 ヒューマン

称号 アペール商会令息

レベル 146


HP 3,600

MP 5,000

POW 360+10

INT 500+10

AGI 300+10

DEX 300+10


属性 土


スキル

-剣術LvMax

Lv1 強撃

Lv2 縮地

Lv3 刺突

Lv4 回転撃

Lv5 受け流し

Lv6 二連撃

Lv7 斬撃

Lv8 剣舞

Lv9 二刀流

Lv10 二刀の真髄


-体術Lv9

Lv1 強撃

Lv2 縮地

Lv3 貫通撃

Lv4 受け流し

Lv5 魔纏まてん

Lv6 四連撃

Lv7 波動撃

Lv8 カウンター

Lv9 爆裂拳


-身体強化Lv9

Lv1 DEX10%常時上昇

Lv2 AGI10%常時上昇

Lv3 POW10%常時上昇

Lv4 AGI100%一時上昇

Lv5 POW100%一時上昇

Lv6 DEX30%常時上昇

Lv7 AGI30%常時上昇

Lv8 POW30%常時上昇

Lv9 全パラメータ100%一時上昇


石礫ストーンバレット

(ランドスケイプ)

(ロックウォール)

(ゴーレム作成)

(槍術)


E 制服※

E 秋津の革靴+Max


※防汚、形状記憶、状態異常軽減、精神異常軽減、温度調節、湿度調節、POWちから上昇、INTちりょく上昇、AGIすばやさ上昇、DEXきようさ上昇


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 10




 スキルだけで目が滑る。今ループは、武術系に全振りした。相手の魔法は全部受け流し。当たらなければ、どうということはない。外野から「卑怯だぞ!」という声がするが、負け犬がいくら騒ごうと、僕には羽虫の羽音のようにしか聞こえない。


 そもそも、この貴族学園はそれなりの身分の者が通うところ。皆、護身術程度の武術を習う程度で、普段は護衛に守られ、基本後方からスキルで援護する。あながちそれは間違っていない。騎士職を目指す者は、最初から騎士学園に通っているし。だけどこの模擬戦、別に魔法スキル縛りなわけじゃない。そんなルール、どこにも書いてないのだ。多分歴代の王族や上位貴族の中には、脳筋の武闘派も在籍したのだろう。


 というわけで、僕は散々な舐めプなめたプレイの末、高等部二年の優勝をもぎ取った。




「異議あり!」


 しかし、表彰台の前で横槍が入った。裁判ゲームかよ。待ったを掛けたのは、三年の優勝者、ルイゾン・ラクール。


「この男は、怪しい術を用いてスキルを避けただけの卑怯者。こんなやからに優勝の栄誉を与えるのは、いかがなものか!」


 外野からは、そうだそうだ、という野次まで飛んでくる。こうやって人心を扇動するカリスマ性は、さすがとも言える。


「というわけで貴様。ここでエキシビションマッチだ。私が勝利すれば、優勝は剥奪させてもらう」


 えー。そんなんアリかよ。だけど、会場からはパチパチ、パチパチと拍手が鳴り始め、間もなくやんややんやのスタンディングオベーションとなった。よろしい。ならば戦争だ。


「それではラクール閣下。有り難く胸をお借り致します」




 そして始まる、全員環視の中の特別試合。だけど、今度こそ相手のMP切れを狙っていたら、またいちゃもんを付けられそうだ。かといって、カウンターで返してしまってはまずい。


「すみません。訓練用の剣をお借りしても?」


 僕は刃を潰した剣を2本受け取った。さあ、かかって来い。


「試合、始め!」


「勇猛果敢な戦の女神よ、捧げしマナと引き換えに我が願いを聞き入れよ。あまねく幾多の炎よ、飛翔せよ、火炎ファイアスプレッド!」


 おお。みんながファイアーボールを繰り出す中、火炎ファイアスプレッドを披露するのは大したものだ。火炎ファイアスプレッド爆炎エクスプロージョンのレベル1、冒険者レベルが10以上でないと取得出来ない。貴族学園在学中に、ここまで上げる奴はいないだろう。リュカ様を除いて。


 しかし悲しいかな。いくつ飛んで来たって、斬れば消えちゃうんだよね。


「何っ!」


 体術にも受け流しはある。そしてこれまで、体術スキルで受け流して来た。それが卑怯だって言われるなら、剣術で受け流す。剣術なら、剣で斬る視覚効果があるから、「逃げた」という印象にはならないだろう。


「くっ…ならば!勇猛果敢な戦の女神よ、捧げしマナと引き換えに我が願いを聞き入れよ。たけき炎よ、飛翔せよ、グレートファイアボール!」


 彼は練度の高いファイアボールに切り替えた。レベル4のメラ⚪︎…ゲフン、ちょっと大きい奴。だが斬る。


「なっ!」


 何だか可哀想になってきた。あれだけ大口を叩いて、全校生徒の見てる前で、まるで歯が立たないなんて。とても気の毒だ。ハナホジ。


「ぬおおお…ならば!ならば私の全力を受けてみよ!勇猛果敢な戦の女神よ、捧げしマナと引き換えに我が願いを聞き入れよ。あまねく幾多の大炎よ、爆ぜ、飲み込み、焼き尽くせ、爆炎エクスプロージョン!」


 あっ、それダメなヤツ。この場のみんな、全員燃えちゃう。んもー。


「剣舞!」


 せわしなくステップを踏みながら、彼の杖の先からほとばしおびただしい炎を、片っ端から二刀流で斬って回る。


 ああ、これこれ。一回やってみたかったんだよね。宇宙侍みたいに輝く剣を、こう、ブンブン振り回してさ。おお、斬れる斬れる!ふい〜、完封っ!


 ———あれ。気がついたら、ギャラリーが静まり返ってるんですけど。


「勝者、アレクシ」


 審判の先生が、絞り出すような声で告げた。こうして全校模擬戦は、微妙な雰囲気で終わった。




 あの後、ひっくり返って泡を吹いていたルイゾンパイセンは、担架で運ばれて行った。鑑定したところ、当然彼は爆炎など習得していなかった。ただ胸元にあったブローチが黒く変色していたので、なんだろう。一応、彼の優勝はそのまま。そして危険なスキルを使おうとしたことに対して、お咎めはなかった。だけど、彼の輝かしい優勝という栄誉は、著しく失墜してしまった。お気の毒に。ハナホジ。




 そして、


「ねえねえ!剣術!剣術を教えてよ、アレクシ!」


 寮室に帰ってから、リュカ様に散々おねだりされた。僕とリュカ様のパワーレベリングは、まだまだ続きそうだ。

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