第75話 全校模擬戦(1)

 あれからあっという間に時は過ぎ、今日は王国歴359年の3月2日、日曜日。これまで全ての土日をダンジョンアタックに割き、周回に次ぐ周回でのパワーレベリング。途中、リュカ様には図書館で魔導書を閲覧して、欲しい土属性スキルを取っていただき、ここまで仕上げて来た。




名前 リュカ・ラクール

種族 ヒューマン

称号 ラクール伯爵家子息

レベル 78


HP 780

MP 3,900

POW 78+10

INT 390+10

AGI 78+10

DEX 234+10


属性 土


スキル

+石礫ストーンバレットLv7

+ロックウォールLv7

+ゴーレム作成Lv6


E 制服※

E 革靴※


※防汚、形状記憶、状態異常軽減、精神異常軽減、温度調節、湿度調節、POWちから上昇、INTちりょく上昇、AGIすばやさ上昇、DEXきようさ上昇


ステータスポイント 残り 0

スキルポイント 残り 10




 ちょっとやり過ぎたかも知れない。しかし、リュカ様がどうしてもゴーレムを取りたいとおっしゃるもんだから、つい。レベル6まで上げて、最近では二人してゴーレムホースで遠乗りしたりする。岩で出来ているものの、遠目には灰色の芦毛の馬にしか見えないしね。ロックウォールも、Lv7のタワーまで取得。今や立派な狭小住宅仲間だ。


「僕は今まで、何を恐れていたのかが分からないよ」


 彼と出会って二ヶ月弱。リュカ様は立派になられた。もう当初の陰鬱な少年といった面影は見られず、土属性の下位貴族の仲間たちと、生き生きと学園生活を送っていらっしゃる。土日になればダンジョンに連れて行けとせがみ、新しく覚えたスキルは早速試さなければ気が済まない。


 食堂での食事量も増え、短い間ながら、体つきも少し変わって来たと思う。これから成長期だ。今は女の子と見紛みまごうような華奢な外見だが、伯爵も兄上も長身だし、きっと伸びることだろう。


 さて、明日からは前期試験。そして短い春休みを前に、学園総出で模擬戦だ。高等部3年生においては、最後の檜舞台ひのきぶたいとなる。あんのルイゾンの野郎、ギャフンと…いや、兄君に弟君の成長を、とくとご覧に入れなければならない。




 事前の予想通り、中等部1年の試験はリュカ様がブッチギリ。というか、多分高等部全課程をスキップして、修了まで行ける学力はあると思う。そういう僕も当然主席だ。まあ、僕の場合は何回もループしてるから、チートではあるんだけど。リュカ様の場合は自力だから、本当に優秀なのだ。


 そして、問題の模擬戦の日がやって来た。


「ハッ、机にかじり付くしか能のない土属性共め。せいぜい足掻くんだな。まあ、初戦敗退だろうがな」


 わざわざ律儀に宣言しに来るルイゾンパイセン、胸熱。君のような男を、一級フラグ建築士と言うのだ。さあ、行け、リュカ様。土属性の底力を見せてやれ。




「勝者、リュカ・ラクール」


「勝者、リュカ・ラクール」


 ざわつく運動場テラン。中等部と高等部、各学年の予選が、グラウンドを区切って何試合も同時進行している中、一人秒殺で勝ち上がる小柄な少年、しかも土属性。


スモールストーンフライヒット石礫ストーンバレット


 ドカカカカッ。普通、小石が1つか2つ、ヒョロヒョロと飛ぶだけの石礫ストーンバレットが、勢いよく何十個と飛び出し、しかも相手に当たる前に寸止めで落下。完璧なコントロールだ。


「勝者、リュカ・ラクール」


 しかし相手の生徒も納得が行かない。


「先生!ラクール君は間違った詠唱をしています!」


「あ、えーと、それは…」


 ラクール君、と呼ぶからには、彼は同家格の子弟だろう。教師は大体平民落ちした元貴族だから、こういった子弟への対処に苦慮している。しかし、


「昨年魔法省より、聖句の最小単位とその活用法に関する論文が発表されています。誰でも図書館で閲覧できますが、何か?」


 リュカ様は堂々としたものだ。教師は「と、いうことで…」などと適当に場を収めようとしているが、相手の生徒は「でも」「だって」などと食い下がり、上手く行かない。その時、


「君、見苦しいぞ。負けは負けだ。そしてリュカ・ラクール。見事であった」


 取り囲む輪の中から、一人の生徒が割って入り、執り成した。


「殿下!」


 高等部1年のリシャール殿下。ここラシーヌ王国の第三王子であらせられる。相手が高等部の王族とあっては、さすがの生徒も引き下がらざるを得ない。取り巻きと見られる生徒と共に、ぶつぶつ言いながら退散して行った。


 てか、来た。高等部1年A組、王族。しかも土属性。これって僕の探し求めていた人材では!


「有り難きお言葉」


 リュカ様は優雅に膝を折って礼をしている。いいぞ。リュカ様がリシャール殿下のお目に留まることとなれば、僕にもループの元凶を探るチャンスが!


 騒ぎの後、土属性の仲間たちが次々に集まり、リュカ様にお祝いの言葉を掛ける中、僕は心の中で涙を流してガッツポーズしていた。そして危うく、自分の召集に遅れるところだった。

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