第54話 魔石錬成
その後僕は、何も決められないまま、時間だけが刻々と過ぎて行った。なんせ筋金入りのヘタレだ。肝心なことは何も打ち明けられないまま。そしてそれを正当化する理由もあった。あちこちでいろんな素材をかき集め、様々に付与を楽しんでいたところ。
———あれ?最初の不人気ダンジョン、あのスライムの魔石も、一応ドロップアイテムだよな?
ってなったんだよね。あそこには度々通って、ごっそりと核を回収しては、魔道具の魔素供給源にしていた。いつもお世話になっております。
で、自動エーテル化装置に置いてみました。無事エーテル化しました。水属性だけど、特殊効果を持たないエーテル。付与すると、水属性のアイテムは+1に、その他のアイテムは変換なし。
魔石にもエンチャントは出来る。これまで散々やってきた。だけど、魔石に同じ魔石のエーテルをエンチャントして、初めて魔石+1という物質が錬成された。
僕らは濃縮付与を繰り返し、すぐに魔石+Maxが出来上がった。
・魔石(スライムの核)
→ 水属性、重量0.1、含有MP10
これが、
・魔石(スライムの核)+Max
→ 水属性、重量0.1、含有MP110
こうなったんだけど、
「これで何か変わるのかえ?」
そうなんだ。含有MPくらいしか変化なかった。まあ、持ち運ぶ量というか、体積が減ったかなっていう。だけど、エーテル化を繰り返すために使ったクズ魔石の分が赤字だ。
仕方ない。これをエーテル化して、他のアイテムに付与して特に何も起こらなければ、魔石のエーテル化はここで打ち止めにしよう。
と思っていたのだが。
「お主!お主!これ!」
しばらくエーテル化装置に並べて放置していたところ、ウルリカが慌てて大声を上げた。見ると、エーテルを受け止める下の槽で、歪な魔石がモリモリと積み上がっている。
・魔石
→ 無属性、重量0.3、含有MP1,210
「「おおお!!!」」
二人して快哉の叫びを上げた。鉱山で採掘されるような魔石、しかも純度の高い大結晶が出来上がっていたのだ。ただし、エーテルが流れて堆積して出来たものなので、見方によってはウン…いや、ソフトクリームに見えなくもない。いやダメだ。そんなことを考えては。
結局10個のスライム魔石Maxをエーテル化して、出来上がったのがそれ。重量は3倍、MPは10倍。属性が取れて無属性に。これこそ濃縮って感じだ。じゃあ、これを濃縮したらどうなるのか?
・魔石+Max
→無属性、重量0.3、含有MP13,310
ここまで魔石11個を11個、さらに11個。1331個を濃縮した結果がこれだ。重さは最初の魔石の3倍、だけど含有MPは1,331倍。
更に特筆すべき特徴が二つ。一つ目は、無印の魔石以上になると決まった大きさが存在せず、エーテルを流し込めば流し込むほど、放っておくと受け止め側の槽で際限なく大きくなるということ。
そしてもう一つは、容量の増加。「含有」MPは、最初のスライムの核から等倍で増えて行くんだけど、「最大含有量」は違うんだ。濃縮を繰り返すと、明らかにエーテル化するために必要なクズ魔石の量が増えていく。魔石に限らず、ドロップアイテムのエーテル化は、魔素の最大含有量を飽和させることで起きるから、実際は出来上がった魔石には、もっともっとMPを込めることが出来る。
これがどういうことかというと、
「こんなもの…災害級のドラゴンでも倒さぬ限り、有り得ぬ」
ウルリカが、出来上がった巨大魔石を手にして呟いた。魔石鉱山でも、それなりに大きな魔石は手に入るが、鉱床から採掘される分、純度はそれなり。これだけ純度が高く多くの魔素を含む魔石は、相当高位の魔物の体内でしか、生成されない。
王侯貴族がこぞって求める、巨大魔石。それはもちろん、富や力の象徴でもあるけども、巨大な魔法陣を発動させて、大魔法を展開したり、都市を丸ごと護る結界を張ったり。これが一つあれば、紛争の戦局を一気に覆したり、また天変地異にあって多くの人命を救う生命線になったりする。膨大な魔素を充填、貯蔵、放出する、夢のエネルギー機関なのだ。
僕はウルリカと話し合って、これは当面二人だけで活用することに決めた。存在を秘匿することは勿論だけど、こんな便利なもの、知ってしまったら使わないわけには行かない。僕はこれまで、魔道具の動力源として、スライムの魔石を魔力糸の網にまとめて使っていたけども、これからはもっと小さく、もっと大容量の魔石Maxに置き換える。インベントリには無限の収納力があるけど(これまで「いっぱいです」とか言われたことがない)、出し入れには多少手間が掛かるし、網にまとめた魔石パックを入れ替えるのもじゃらじゃらと面倒臭い。これからは、消費MPの多いスキルの連発、特にボス戦なんかがもっと楽になるだろう。
それにしても、ウン…ソフトクリーム型は、ちょっといただけない。僕は金型を作って、宝石型の魔石Maxを量産した。ウルリカには、「いくつ作るつもりじゃ」と呆れられたけど、備えあれば憂いなし。自動エーテル化装置の上に置いといて、時々様子を見るだけだしね。
ちなみに、魔素の再充填も自動エーテル化装置で可能。充填限界を超えない範囲で置いておくだけだ。大容量モバイルバッテリー、大量ゲットだぜ!
「やれやれ。お主といると、研究が捗って仕方ないわえ」
ウルリカはため息をつきながらこぼす。いつもの「また面白いオモチャが手に入ったから三徹決定だわ」という調子で。僕らが出会って、ちょうど1年。彼女の数百年(?)に渡る研究が、一気に進んだと聞けば、僕もちょっと誇らしい。
さあ、今日も元気にダンジョンに出かけよう。ループの終わりまであと一年ちょっと、迫る期限に目を逸らしながら。
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