第37話 リア充爆ぜろ

 祝賀感満載で迎えた翌朝。朝食の席で、子爵と準男爵のカバネル兄弟は、仲良く結婚式の日取りを話し合いながら、時々本人たちに振り返って了承を得る。もうカバネルさんはみんなして、ずっとこの二人をくっつけたかったみたいだ。先生は相変わらずあわあわしているが、カロルさんは彼の隣でにっこり。既に若夫婦的なポジションの席を用意されている。絵に描いたような大団円。


「アレクシ坊ちゃんのお陰ですよ」


 長いテーブルの隅、客人だけど平民という、微妙な位置。昨日までは、カバネル先生もこっち側に座ってたのに。僕はポツンで黙って朝食を頂いていた。そんな僕に、コリンヌさんがグッジョブをくれる。ありがとう。いい薬です。




 今日はサツマイモパタトゥ・ドゥースソバ粉ファリン・ド・サラザンを使った料理を振る舞う予定になっている。こちらはジャガイモと違って、前シーズンのものだ。サツマイモとソバの料理なんて、僕だってあんまり知らない。スイートポテト、焼き芋、大学芋、ガレット、蕎麦くらいか。そのうち大学芋は醤油がないし、蕎麦に至っては蕎麦打ちなんか出来ない。出汁だしも取れないしね。


 スイートポテトは去年の秋、先生と一緒に試行錯誤して作ったな。研究室で皮を剥いて賽の目に切って、食堂まで行ってふかしてもらって。持ち帰ったものを潰して混ぜて整形して、また食堂で焼いてもらって。


「僕はこれだけは得意なんだ」


「まあ、素敵!」


 意気揚々とサツマイモを潰すカバネル先生。彼は、一つのことに夢中になると周りが見えなくなる性格だ。そんな彼に、カロルさんは背後からさりげなくボディタッチ。昨日と比べて、随分と距離が近い。彼女も一見純朴に見えて、そればかりではないのかも知れない。こっちだと二十歳といえば、大人の女性だしね。


 まあ要するに、二人の世界なわけだ。勝手にやってくれ。そして爆ぜろ。


 彼らは放っておいて、こっちはこっちでその他の料理に取り掛かる。まずサツマイモのフライドポテト。これ、居酒屋で食べたことある。素揚げして塩を振ると、甘じょっぱくて美味しい。それから蕎麦粉のガレット。これは普通に小麦粉のクレープが食べられているから、粉を蕎麦粉に置き換えるだけだ。


「風味があって、これはこれでいいですね!」


「小麦粉同様、どうしても体質的に受け付けない方もいらっしゃるので、それだけ気をつけて頂ければ」


 料理長さんが、昨日よりも打ち解けた感じで声を掛けてくれる。彼だけでなく、みんな昨日よりも僕に親切だ。誰もが言いたかったんだろうな、「お前ら付き合っちまえよ」って。だけどそれで、いずれか片方にその気がなかったら大事故だ。部外者の僕なら、「またまたご冗談を」で済むもんね。僕はいい仕事をしたんだ、うん。




 カバネル先生にクララック領に連れて来てもらったけど、もうやることもなくなった。もっと熱心なプレゼンが必要かと思ってたけど、ジャガイモはあっさり受け入れられたし、サツマイモも蕎麦も然り。この様子だと、他の作物もどんどん受け入れられそうだ。何てったって、カバネル先生とカロルさんがくっついたんだもの。これまでは、他領の学園で細々と研究を続ける先生と、彼を忘れられないカロルさんの、お金にもならない道楽でままごとやってるモダモダストーリーだったのが、一躍クララック領に利益をもたらすビッグカップルに昇格だもんね。もう準男爵家では婿入りの準備が着々と進められていて(カロルさんは一人娘らしい)、お祝いムード一色だ。僕は異分子、さっさと帰りたい。


 しかし、


「まあそう言わずに。こちらにも郷土料理や観光名所など、見どころはある。是非ゆっくりして行ってくれたまえ」


 子爵にそう言われると、平民の僕は断るわけには行かない。


 帰れない。暇。ならば、やることは一つだ。


「あの、この辺りにダンジョンってありますか?」


 最高の暇つぶし。それはレベル上げ。

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