第22話 カミーユ先輩その後
毎日に忙殺されて、すっかり忘れていた。カミーユ先輩、どうやら11月の野外学習で、イレギュラー湧きの大型魔獣を単独討伐したみたいだ。
「本当だよ!こう、デカい
同じ槍術の三年生の先輩が興奮気味に語るのを、カミーユ先輩が照れて静止するが、中等部の子たちは目を輝かせて続きをねだる。そんな様子から面白くなさそうに背を向け、黙って立ち去るのがジョリオ先生。何でクビにならないのか不思議だが、魔導研究プロジェクトに関わるようになって、よく分かる。彼も貴族の子弟、余程の
カミーユ先輩が魔獣を単独討伐してしまったことで、今ループでは彼のクビが
「実はアレクシ君にダンジョンに連れて行ってもらって」
ぼんやり遠巻きにしていると、いきなり僕の名前が聞こえてきた。功績を持ち上げられてむず痒くなった先輩が、とうとう僕の名前を出してしまった。「うえっ」て変な声が出ちゃったよ。
「というわけで、みんなでダンジョンに出かけてみないか?」
先輩はこちらにウィンクしながら、後輩に声を掛けていた。僕と先生と出かけた時の秘密は守ってくれるようだ。彼らはワイワイと盛り上がり、そして週末にはみんな、槍術のスキルを覚えて帰って来た。
魔導研究プロジェクトに続き、学園内では槍術クラスまで脚光を浴びることとなった。やがて槍術のみならず、剣術や他のスキルを持つ生徒も、こぞってダンジョンへ出かけた。年末の中間試験を終わる頃には、地下一階は学園の生徒だらけになったそうだ。
また、これまで小遣い稼ぎにダンジョンに潜っていた生徒たちは、負けてはいられないと二階三階に足を延ばす。結果、魔法も武術スキルも、また学業での成績も底上げされ、今年の生徒たちは史上稀に見るレベルの高さとなったそうだ。文字通りレベルが上がったのだから、そうなるだろう。冒険者レベルが上がれば、ステータスも上がる。
空前のダンジョンブームを尻目に、僕は魔導研究プロジェクトに追われていた。実際は、先生たちの下働きだ。度重なる会議という名のお偉いさんの接待。その度に、資料を作って稟議に回し、印刷を掛けて綴じ、茶菓子と茶の手配をし、会議室を押さえてセッティング。何だこれ。リーマン時代と変わらなくない?
いや普通、資料を作って稟議に回すのは研究員たる教員の仕事だし、会場を押さえて茶菓子なんかの手配をするのは事務方の仕事だ。だけど、縦割り組織が上手く機能しないのは、いずこも同じ。事務局という名の僕が、一人で請け負った方が早く回るのだ。
これではいけない。リーマン時代、こうやって仕事を溜め込んで、散々痛い目を見たじゃないか。誰か仕事を割り振れる先を、と思ったのだけど、生憎先生方は全員貴族の子弟、平民は僕一人。しかも僕以外に、このプロジェクトに巻き込まれた生徒はいない。僕が一番下っ端なのだ。完全に詰んだ。カバネル先生には、
「君の資料、とても見やすいね!先生方にとても好評だよ」
と、大変なお褒めの言葉を頂いたけど、違うそうじゃない。前世のパワポのスキルが恨めしい。なお悪いことに、学園長もラクール先生も「塔」に顔の効く人物で、平民にも関わらず、僕を「塔」に推薦する気満々のようだ。
「本学園の門下生として非常に鼻が高い」
学園長が「ワシが育てた」って面をしている。やめて。学者とか宮廷魔導士とか目指してないんだけど。貴族だらけの魑魅魍魎の世界、想像しただけで胃に穴が空きそうだ。
そうして何度も同じようなスポンサー説明会を繰り返した結果、無事論文はまとまり、年内には王都の「塔」へと提出されて行った。前回は、カバネル先生の師匠、「塔」の魔導士に手柄を全部持って行かれたが、今回は先生の実家のシャルロワ侯爵を始め、錚々たるメンバーが後援に名を連ねて、鳴り物入りでの殴り込みだ。無事カバネル先生の功績として、後世に刻まれるに違いない。
顔も知らない「塔」の魔導士め、ざまぁみろ。僕のささやかな意趣返しは、これで幕を下ろした。
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