第10話 護衛クエスト(1)
そんなこんなで、僕は学園を卒業した。前回までと完全に異なり、今回のループで、僕は冒険者となった。
まず最初に、護衛クエストに挑戦した。僕は在学中にDランクを獲得したが、その上のCランクへ昇格するためには、いくつかの条件を満たさなければならない。そのうちの1つが、護衛クエストのクリアだ。護衛は大抵パーティーでやるもので、ソロで受注するのは難しいが、とある隊商の護衛依頼に、ギルドの職員が捩じ込んでくれた。買取カウンターの半笑いのお兄さん、ありがとう。
「君がアレクシだね、よろしく」
一緒に護衛することになった、Cランクパーティー
「ディオンさんですね。こちらからご挨拶に伺うべきでしたのに、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
僕は笑顔で握手を交わした。しかし一方で、彼のパーティーメンバーからは侮蔑的な視線を送られる。
「なんだ、ピルバグかよ」
「せいぜい足を引っ張らないようにお願いしますよ」
斥候のエドメ、
「やあ、アレクシ。大きくなったな!」
隊商を率いるのは、ハイモさん。隣国の商人で、実家とも取引がある。彼は横幅はあるが、僕の方が少し背が高い。なのに相変わらず、僕の頭をガシガシとかき混ぜる。これは親父さんたちに共通する機能なのだろうか。
依頼主と懇意なのが判明するやいなや、エドメとファビアンの態度が180度変わった。「おう、聞きたいことは何でも聞いてくれよ!」とか「怪我なら任せてください」とか言ってる。僕も一応、学園を出たてのペーペーとはいえ、中身は日本の社会人だ。ここは大人の対応で、にこりと愛想笑いをしておく。ディオンは眉尻を下げて苦笑していた。
護衛は、隣領の中核都市まで三泊四日の道のり。護衛は僕らの他に、2パーティーが付いていた。馬車6両に商人と使用人が10名、冒険者12名の、そこそこの編成だ。僕と蒼鷹の面々は、中程に付く。最初の対面で気まずかったせいか、僕とディオン以外の3人は、反対側を歩いている。
「メンバーがすまないね」
改めてディオンが申し訳なさそうに言う。
「いえ、若輩者の僕を指導されるのが億劫なのは、僕でも分かりますから」
会社でも部活でも、部下や後輩を指導するのは骨が折れるものだ。況して冒険者稼業は力こそ全て。実績のないものが疎まれるのは、仕方がない。命のやりとりが関わる仕事に、経験のないヒヨッコを引率しなきゃいけないなんて、そりゃ厄介この上ないだろう。僕がそう言うと、ディオンはにっこり笑った。
「
それから彼は、道々僕に冒険者の心得のようなものを教えてくれた。高ランク冒険者とて、戦闘、とりわけ人同士傷つけ合うことは、いつまで経っても慣れないということ。そしていざ交戦となれば、まず自分の命を守ること。よく物語で、命を賭して戦うなんて書いてあるけども、それはフィクションに過ぎない。相手も勝算があるから武力行使に出るのであって、間違っても多勢に無勢で勝とうなどと思ってはならない。荷主は嫌がるだろうが、荷物を明け渡すだけで助かるならそうするべき。相手も弁えているから、多くの場合、命までは取ろうとしない。
「しかしそれよりも、僕が君に一番伝えたいことは、見た目を整えることだよ」
ディオンは、真剣な表情で僕に語った。
冒険者稼業とは、魔物と戦って腕っぷしを磨くことだと思われがちだが、実際のところ———とりわけこうした護衛の仕事とは、脅威と戦って勝利することではなく、戦力を見せつけて威嚇し、争いを未然に防ぐことであると。
「君の装備は、実用的で実戦向きだと思う。だけどそれだけでは、高ランクには上がれないということさ」
目から鱗だ。まさにその通り。僕は今まで、自分のステータスを上げて力を付けることしか考えていなかった。それは、「仕事が出来るなら、身だしなみなんてどうでもいい」という社会人と同じだ。社会に出て仕事をするなら、信用が大事。外見もそのうちの一つだ。何だかんだ言って、リクルートスーツでなければ就活は通らないし、商談だって成立しない。
僕は今まで、見てくればかりでそんなに強くない武器防具がなぜ売られているのか、考えもしなかった。強そうに「見える」ということも、立派な武器なのだ。
「ということは、パーティーやクランのエンブレムを飾るのも、同じ意味があるんですね?」
「そうそう。君はよく理解しているね」
見た目で箔を付けること、そして強さや実績をアピールすること。この隊商を襲うのは割に合わないぞと見せつけること。モンスターには効かないが、これが盗賊に対する一番の牽制になるということだ。
そして、見た目を整えるということは、仕事の受注にも影響する。
「結局僕らに仕事を回すのは、同じ人間だってことさ。特に、金払いの良い貴族や商人ほど、見た目や評判を重んじるからね」
なるほど。結局冒険者もビジネスマンだってことだ。改めて僕の装備を見ると、実用重視の地味なものばかり。プロが見立てたものだから、使い勝手や攻撃力には何の問題もない。そして戦闘力を磨くという意味では、これらで必要十分だった。だけど帰ったら、もっと見栄えのいいものを見繕ってもらうのがいいかも知れない。
「本当は、こんなことまで教えようとは思ってなかったけどね。君が聞き上手だから、つい」
ディオンは僕にウインクを投げ寄越した。くそ、イケメンめ。これがBランク冒険者のビジュアルの威力か。
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