ミミックしかテイムできない無能だとダンジョンに置き去りにされた俺ですが、実は【ミミック専用スキルボード】で希少アイテムを確定ゲットできるらしい

忍人参(NinNinzin)

第1話 ミミックテイマー、置き去りにされる

「チッ。宝箱か。どうせまたミミックだろ?」


4人パーティーのリーダーである翔大しょうだいが苛立ちを吐き棄てるように言って俺にアゴをしゃくった。


「おい奏多かなた、早くやれ。時間かけんじゃねぇよ」


俺、一条奏多に見つけた宝箱を鑑定しろと命令しているのだ。

最初から期待してないならやらせないでほしい……が、いちいち口答えしても後が面倒なんだよな。

翔大のヤツ、なんか今日はヤケに尖ってるし。


「おい」


「わかってるよ」


ここはダンジョンの地下5階層目、その広いフロア内に何百とあるであろう通路の1つ。その奥の行き止まりにある宝箱へと俺は近づいた。

それは宝箱か、それともミミックか。

調べるのはいつも俺の役目だ。

とはいえ、盗賊職が持つような罠回避系のスキルを持っているからではない。

俺の場合は少々特殊だった。


──スキル、【テイム】発動。


すると宝箱が開く。


〔……ベロン〕


中から長い舌が出てきた。

テイムは成功……つまり、この宝箱は間違いなくミミックだった。


ミミック。それは宝箱に擬態しており、その姿に釣られてやってきた人に噛みつき飲み込んで捕食するモンスターだ。


そして俺はテイマー。

ダンジョンには多種多様なモンスターが存在しており、テイマーはそれらを適正に応じて飼いならすことができる。

つまり俺にはミミックに対する適正があるわけだ。


……いや、厳密に言えば【ミミックに対する適正しかなかった】となるのだが。


「おいおい、やっぱりミミックかよ。30分も歩いたのに結局ハズレの通路ってか、クソッタレ!」


翔大が路上の石を蹴り飛ばした。

イライラが頂点に達したらしい。


……まあ、仕方ないか。


俺たちのパーティーはかれこれ2ヶ月は下の階層への道を見つけられていない。

俺を含む4人のメンバーは全員今年で20歳。

10代の内にどこかのダンジョンの地下10階層を攻略しよう、そしてメンバー全員でA級冒険者に昇格するのだと互いを鼓舞し合っていただけに、焦る気持ちは分かる。

八つ当たりは勘弁してほしいがな。


「この階層の宝箱はもう全てミミックなんだろうよ、俺たちは完全に出遅れた」


翔大は舌打ちする。

かと思えば腰の剣を抜き、殺意に満ちた目でミミックをにらみ付けた。


「翔大、ちょっと待てよ。落ち着け」


「どけよ奏多」


「どかない。お前ミミックを殺すつもりなんだろ?」


「だったらなんだよ。モンスターを討伐して何が悪い」


「もう俺がテイムしてる。無害だ」


「はぁ? だから? 殺せばスキルポイントが手に入るだろ」


「こっちに友好的なモンスターまで殺すのか? それは野蛮すぎるぞ」


「……野蛮だぁ? うぜぇな。いつも偽善者じみたことばかり言いやがって、鼻につく」


「俺は間違ったことは言ってない」


こういったやり取りはこれまでもあった。

自分の意見が通らないと不機嫌になる翔大、それを咎める俺。

いつもの、予定調和の出来事……そのハズだった。


「……ハァ。あのさぁ、俺はお前のそういうところがウザいって言ってんだよ。というかお前さぁ、いつもいつもどんな立場でモノを言ってるわけ?」


今、この瞬間までは。

いつの間にか、翔大の苛立ちは押さえきれないほど膨らんでいたようだ。


「テイマーのくせに、ミミックしか従えられない無能ふぜいが」


俺は一瞬、空気が凍ったかと錯覚した。

それほどまでに翔大の声は冷たい。


「お前はよ、情けをかけてもらって俺のパーティに加入させてもらってんだろうが。何を生意気に反抗してんだよ。立場をわきまえろよ」


「……は?」


あまりにも……それはあまりにも酷い物言いじゃないか?

空いた口が塞がらなかった。

俺がテイマーだというのにミミックだけしか従えない、それは事実ではある。

でも、それを俺を傷つけるためだけにぶつけるのかよ?

いくらイラついてるからって、越えちゃならない一線ってものがある。

それに俺は情けなんてかけてもらった記憶なんぞない。


「訂正しろよ、翔大。俺は確かにテイマーとしては無能かもしれない。だけど、このパーティーには前衛職として加入してるはずだ。剣士職のお前と同じで、後衛を守るためにいつも命を懸けて剣を振るってる」


「ハッ、それがどうした? 俺はお前に職種適性が無いって言ってんだ。お前の場合は冒険者として努力してるってこと自体が無意味なんだよ」


「なんだと……?」


「いい機会だ。真実を教えてやるよ。いいか、お前なんかあのクソったれハイエナ連中、【レアハンター】ふぜいの腰巾着として地下1階層のミミック掃除をしてんのがお似合いなのさ。それがお前の1番の適性ってヤツなんだろうからな!」


レアハンター、その職業を翔大は蔑称として使っている。

1年ほど前、別のダンジョンで俺たちの手に入れた宝石がレアハンターたちに強奪されたことをまだ根に持っているらしい。


「適性適性とさっきからうるせぇな。なあ翔大、じゃあそのレアハンターふぜいのヤツらをあの時1人だって倒せなかったお前に、剣士職の適性があるっていうのか?」


「ッ! テメェ……!」


ふん、どうやら弱いところを突かれたらしいな。

ものすごい形相でにらんできやがる。

とはいえ事実が事実なだけに、翔大は何も言えず舌打ちをした。

ギスギスとした空気だけが残る。


「……はぁ」


もう、潮時だな。

このパーティーに2年在籍したから分かる。

翔大は自分の意見が常識と信じて疑わず、メンバーを自分の言いなりにしないと気が済まないタイプだ。

でも俺はそれにハイハイと従うがままにできるタイプじゃない。

だから、俺たちはきっと上手くやっていけない。

残念なことだが。


……決意する。地上に戻ったらこのパーティーを抜けよう。


とまあ、今はそんなことはさておきだ。


「とにかく、俺がテイムしている以上はこのミミックに剣を向けるってことは俺に剣を向けるってことだ。それでも殺そうっていうなら俺が相手になるぞ」


俺もまた剣を抜く。

通常戦闘で翔大に後れをとるつもりはない。

無能テイマーだろうが、俺にはこれまでダンジョンで生き抜いてきた俺なりの戦い方がある。


「……テメェ、覚えておけよ」


翔大は仲間に向けるとは思えないほど憎々しげにこちらを睨んだものの、とりあえずは剣を収めて来た道を戻っていった。

気まずげに、他のメンバーもそれに続く。

とりあえず危機は脱したようだ。


〔……ミィ〜〕


後ろからミミックの鳴く声が聞こえたので、俺は屈んでその頭(宝箱の上箱部分だ)を撫でた。


「悪かったな、怖がらせて」


〔ミィ?〕


「なんでみんなお前のことを嫌ってばかりなんだろうな。こんなにも可愛いのに……」


俺はそのミミックに別れを告げ、みんなの後を追った。


──世界に、そして日本にダンジョンが出現してすでに20年が経っている。


同時期に起こった【スキル】という概念の出現、それにダンジョン内のモンスターの存在など、最初こそ様々なトラブルがあったものの、今やダンジョンは世界経済の中心となっている。

未知のスキル、万能薬、ダークマター、オーパーツなどなど……それらを手に入れた者たちが一攫千金を成す時代。


……俺もその波に乗りたいっていうのに、上手くいかないもんだなぁ。


かれこれ5年ダンジョンに潜ってきたけど、中級者階層の地下10階層以上に到達したことはない。

というかダンジョン攻略で欠かせないパーティーに、俺がなかなか入れてもらえないっていうのもひとつの大きな原因なんだけどね?

テイマーはただでさえ最弱職と名高く、それに加えて俺はミミックしかテイムできないのだからしょうがない。


……まあ諦めるつもりはサラサラないけど。


「今日はもう撤収だ。らちが明かねぇ」


来た道を戻る途中、翔大はそう言って機嫌悪そうにまた石を蹴った。

その時、唐突に【ソレ】は起こった。




──大きな衝撃音。それと共に地面が激しく縦に揺れる。




「きゃっ、地震っ!?」


気弱なヒーラーが叫んだ。

俺も含め、全員が慌てふためき辺りを見渡す。

ダンジョン内で起こる地震、そんなのひとつしかない。


「気を付けろ! 【異階層】が現れたんだ!」


俺の声に全員の表情が引き締まった。

そして、全員すぐに上の階に繋がる道を全力疾走。

叫んでる暇も、腰を抜かしている余裕もない。


「さっきの揺れ、かなり近いぞ……!」


「も、もしこの階より上に異階層があったらどうしましょう……?」


気弱なヒーラーの問いに、誰も答えはしない。


──異階層、それはこれまでに無かったハズの突然現れた階層を示す言葉だ。


その階層に現れるモンスターは軒並み強く、俺たち中級のB級冒険者たちとはレベルが違う。全冒険者の5%しかいないA級冒険者のみでパーティーを組んでようやく渡り合えるといったところだ。

だから、この階より上に異階層があったらどうなるか?

死、あるのみだ。


「……クソッ! 最悪だぜ」


前を走っていた翔大が足を止めた。


「今回の異階層は【地下5.5階層】だ。ヤツら、もう上がってきてやがる!」


異階層が上にはなかったのは不幸中の幸いだが、しかしすぐ下の階層だったようだ。数メートル先の少し広いエリアに、これまでに見たこともない禍々しいモンスターたちが10数体、群れを為して歩いている。


「ど、どうすりゃいいってんだよ……ここから地下4階層へ戻るにはあの群れを突っ切らなきゃならねーぞッ!」


「じゃあ、突っ切るしかないだろッ!」


及び腰になっていた翔大を置いて、先に俺が飛び出した。

迷ってるヒマなんかない。

今が唯一のチャンスなんだ。


「フッ──!」


俺は不意打ちでモンスターたちを背後から襲って何体かを倒した。

よし、いいぞ。道が少し開けた。


「おいっ! 急げ! モタモタするな! これから異階層のモンスターは増えるばっかだぞ!?」


「っ!!!」


その事実に遅れて気付いたのか、翔大たちがようやく走り込んでくる。


「よしっ、俺と翔大で道を開こう! 後衛の2人を先に行かせるんだ!」


「ッ……! お前が命令してんじゃねーよ!」


俺と翔大はモンスターの群に斬り込んだ。

異階層のモンスターはやはり強い。

不意を打ってもなお1撃2撃じゃ当然のように倒せない。


「うっ、うわっ……!」


背後から、翔大の悲鳴。

翔大はミノタウロスの亜種のようなモンスターに腕を掴まれていた。


「おっ、おォォォッ!!!」


モンスターの腕を切り落とし、俺は翔大を助ける。


「大丈夫かっ? 気をつけろ、こいつら知性も高いぞ!」


「……ッ」


俺たちが奮闘している内に、後衛の2人は先に群を抜けそうになっていた。

なら、俺たちもそろそろ……!

翔大と目を合わせると、翔大は走り出した。

俺も走る。

前だけ向いて。


「……っ?」


おもむろに、前を行く翔大が止まった。

こんな数秒を急ぐ必要のある状況において、だ。


「翔大っ!? 何をして、」


ドッ、と。

言葉を遮るように、俺の腹に蹴りが入れられた。

翔大による、強い蹴りが。

俺は尻もちを着いて転んでしまう。


「なっ、なにを……」


「……ホラ、どう考えても逃げきれないからさ」


翔大は再び駆け出しながら、俺に引きつった笑みを向ける。


「お前は無能なんだからさ、せめて囮になって役立てよ」


翔大は吐き棄てるように言い残して走り去った。


「ま、待っ────ッ」


俺が手を伸ばした先、その進路を塞ぐ、禍々しいモンスターたち。

ヨダレを垂らしているヤツもいる。

ゾッ、とした。

このままじゃ死ぬ。

死んで喰われて、跡形もなくなる。

間違いなく。


「う、わァァァッ!!!」


やみくもに剣を振り、モンスターたちと距離を取る。

そこからは誰が見てもみっともない、泥にまみれた生き延びるための戦いだった。


「はぁっ、はぁっ……」


命からがら広いエリアを抜けて、俺は迷路のような地下5階層のアチコチを駆け回って逃げ続ける。

俺を追ってくるモンスターたちの叫び声が響き渡り、その度に俺は死を感じた。

不意に遭遇する俺とはレベルの違うモンスターたちから、たくさんの傷を作りながらも、戦っては逃げてを繰り返す。


「はぁっ、はぁっ……!」


多量の出血で意識を薄くしながら、歩き続ける。

そして辿り着いたのは──先ほども来た、ミミックのいる行き止まりの場所だった。


「は……ははっ、ウソだろ」


後ろからはモンスターの声。

明らかにこちらに迫っている。

当然だ、血の跡を残し過ぎた。

逃げる場所は……無い。


……死ぬのか、俺。


〔ミィ~!〕


「ああ、ごめん。何度も来ちゃってさ……」


俺はミミックの横へと崩れるように腰かけた。もう体を支える余力すらない。


〔ミィ~、ミィ~~~!!〕


「なんだ、もしかして、心配してくれてるとかか……?」


そりゃありがたい。


「スマンがちょっと、体を貸してくれよな」


俺は疲れた体を休めようとミミックへと上体を預けた……その時だった。


──ピロン。


なにかの音が鳴った。


「えっ……」


ミミックの、俺の血の付いた指が触れた部分から空中に光学パネルが現れていた。そこに映し出されていたのは【スキルボード】だ。

そう、見慣れたアレ。

親の顔よりも見たアレ。

俺たちが普段新しいスキルを覚えるために、溜めたスキルポイントを消費して使うスキルボードに他ならない。


「なんでそれが、ミミックに……?」


〔ミィ~〕


「しかも俺が操作できる……なんで?」


〔ミィ~?〕


当然、ミミックが答えるわけがない。

俺はしかし、藁にも縋る思いでそれを覗き込んだ。


移動Lv1

├移動Lv2 - 移動Lv3 ...

└マーキング


「移動と、マーキング? なんだそれ? それだけなのか……?」


他にも何かないか俺が探そうとしていると、しかしもうすぐ後ろの方からモンスターの叫び声が聞こえてきた。

もう、時間がない!


「ええい、こうなりゃ溜めてた俺のスキルポイント全部ここにぶち込んでやるッ!」


俺はスキルポイントをミミックへと最大限に全て注ぎ込んだ。

途端に何かのリアクションなのだろうか、ミミックの口が大きく開いた。

さあ、どうなる!

いや、どうにかなってくれ!


「というか今は【移動】スキル一択! 頼んだ、ミミック! せめて移動で俺をどこか安全な場所に──」


連れて行っておくれ、と言い終わる前に。

ミミックの巨大な口が、俺に覆いかぶさった。

そして、


パクリ。

もごもご。

ごっくん。


え、真っ暗。

もしかして俺、丸飲みにされちゃいました???





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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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