第42話☆交流試合
体育館はもう人でごった返していた。前回とあまり人数は変わらない気がする。7月は未経験で始めた部員は出ないことも多く、その人たちはこの10月がデビュー戦になる。一方で3年生は大半が引退し、続けているのは推薦入学やプロからスカウトがあった一部のトップレスラーだけだろう。
今日は咲来も落ち着いている。プロレスを始めてもうすぐ半年だけど、かなり成長した。きっといい試合をするはずだ。
受付の列に並びながら周りを見渡すと3年生がいなくなった分、どこか空気が軽い。朝日丘は元々私たち1年生しかいなくて先輩後輩といった上下関係はないけど、他校では2年生が伸び伸びとしているのかもしれない。
ようやく受付を済ませるとエントランスの隅の方に移動し、受け取ったプログラムを覗き込む。
「あった、Cグループだ」
「私はHグループ。前田ちゃんのグループはどんな人たち?」
Cグループ
朝日丘 1年 前田陽菜
紫苑女子大附属 1年 川口真紀
聖華女子学園 1年 宮崎沙耶香
川口南 2年 田辺美奈子
紫苑女子大附属と聖華女子学園。また強豪校が2校もいるグループだ。
川口真紀は名前に見覚えがある。たぶん中学の頃に戦ったことがあるからだろう。確か勝ったはずだがそれしか覚えていない。あの頃は試合内容とか気にせず、がむしゃらに戦って勝つ、以上。で完結していたのでどんな戦闘スタイルか思い出せない。
そしてやっかいなのは宮崎沙耶香。聖華の同期でパワーファイターだ。この前の交流試合で見かけたときはかなり身長も伸びていた。これまでみたいに勢いだけで勝てる相手ではないだろう。
「この2人は知ってる。田辺さんは初めてかな。咲来のグループは?」
と咲来の開いているページを覗き込むと最初の行に目が吸い寄せられた。
”紫苑女子大附属 1年 坂本美音”
坂本美音。私が都大会1回戦で戦った相手。咲来がこっそり見に来た試合だ。
彼女は強い。寝技が得意な相手なので、絶賛関節技練習中の咲来は相性が悪い。
恐る恐る咲来の方を見てみると思いのほか落ち着いた様子で言った。
「楽しみだね」
咲来も強かった。実力うんぬんではなく、気持ちが、心が強かった。私が勝てなかった相手と対峙することを恐れていない。それどころか楽しみにしている。この夏に頑張った自負があるという何よりの証拠だ。
「前田ちゃんの仇取ってくる」
「別に負けてないし!いや、負けたけど今やったら勝つから!」
咲来のわき腹を小突きながら言い返した。やめてよと笑いながら咲来もやり返してくる。楽しみにしていた試合、存分に戦うんだ。
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