第36話
「いくよー!レフェリー!」
大島莉子が一気に体重を後ろにかけるのがわかった。自分の身体がぐぐっとシャチホコ状態にされて無心にリングを叩いた。
「ギブギブ!ギブアップ!」
「そこまでー!」
美月先輩の声と同時にゴングが鳴った。と思う。
それを聞いた大島莉子は足の固めを外して技を解いた。のだと思う。
何が何だかわからなくなるくらい強烈にサソリ固めを極められた。
ほんとに苦しかった。技が解かれた後も動けない。
大島莉子がレフェリーを呼んだ直後、頭が真っ白になった。自分がどうなってたのかもよくわからないけど、たぶんものすごい角度に極められたんだ。あまりの痛みで反射的にギブアップさせられた。
「莉子あんた容赦ないね。陽菜、大丈夫?しっかり絞られたね」
「っ…はい…」
ようやく息が落ち着き始めてかろうじて返事する。
大島莉子、竹内葵。当然なのかもだけど強かった。高山美優とはまた違った強さ。でも最初から最後までペースを掴むことができなかったのは同じ。何でだろう。何だか上手く戦えないっていうか。
「莉子、どうだった?」
「楽しかったよ。いいジャーマンだったね」
「そりゃ私が教えたからね。技術的なことはこれからだけど、プロレスとしての動きはどう?悪くなかったでしょ?」
「そうね。だってまだ高1でしょ?諦めないとことかいいわね。体力もあるし」
美月先輩は今度は竹内葵に問いかける。
「葵は?」
「始めたばかりって子もすごい蹴りやったで」
「またこの子たちと練習とかもできたらおもしろそう?」
「うん。張り合い合ってええ練習になると思う」
美月先輩がにやりと笑う。
「だ、そうです。あんたたち2人、ここに練習しにおいでよ」
「えっ?どういうことですか?」
私たちが翔瑛女子大で練習?咲来の方を見ると、私の方を見る咲来と目があった。
「練習場所も練習相手も必要でしょ?だったらうちに来たらいいよ。そしたら私もついでに見てあげられるし。先輩、それでいいです?」
「なるほど。そうね。大学の皆さんのお邪魔でなければ。学校としては別に問題ないと思うわ」
「あの、それって私たちここに来て練習してもいいってことですか!?」
「そうだって言ったでしょ」
コーチをお願いしにきたつもりが、ここで練習させてもらえるなんて。練習場所と練習相手までいる環境だ。しかも北関東大会経験もあるトップクラスの選手がいる。
「部長には話しておきますよ。平日だとみんな授業とバイトとサボりで練習相手少ないんで歓迎してくれると思います」
さらっとサボりって言ってしまうところが先輩らしいと思った。言いたいことははっきり言う。たぶんサボってる人たちにも面と向かってサボるなと言っているんだろう。きつい部分でもあるのかもだけど、裏表のない先輩を私は慕っていた。
「ありがとうございます!みなさんよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
私の声に咲来の声が続いた。ここで試合して、実力は全然及ばなかったけど認めてもらえたんだ。
先生や先輩、試合してくれた2人、みんなから与えられたチャンス。それを私たち2人で掴み取ったんだ。
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